東京ヴェルディ・アカデミーの実態
~プロで戦える選手が育つわけ(連載◆第5回)

Jリーグ発足以前から、プロで活躍する選手たちを次々に輩出してきた東京ヴェルディの育成組織。この連載では、その育成の秘密に迫っていく――。

 この10数年、東京ヴェルディを取り巻く環境は、大きく変化した。クラブユースの顔とも言える存在だったヴェルディユースにしてもまた、人材獲得では後れをとるようになったというのが現実だ。

 しかし裏を返せば、だからこそ、これだけプロで活躍できる選手をコンスタントに送り出していることが、より一層不思議に思える。少なくとも、東京近郊の競合クラブと比較しても、トップに輩出した選手の数や活躍度では、まったくと言っていいほど見劣りしていないからだ。

 ヘッドオブコーチングの中村忠は、そこには「スタッフの努力が大きくある」と言い、このクラブならではの特徴が生かされていると推察する。

「その背景には、(女子チームの)ベレーザやメニーナも含めて、トップからジュニアまでクラブ全体の共有がある。こんなクラブは他になく、実際、僕も他のクラブでプレーしたり、指導したりしてきましたけど、間違いなくヴェルディのよさは、全カテゴリーがここ(東京都稲城市にあるよみうりランド内のグラウンド)で一緒にやっていることにあると思います。

 すべてのカテゴリーが同じ場所でやっているので、どのカテゴリーの選手もサッカーを共有できるし、指導者同士もすり合わせられるので、ぶつ切りにならない。そういった意味で、ヴェルディで育った選手っていうのは、ヴェルディでしか身につけられないものをしっかり身につけ、そこに何かの刺激がプラスされて、プロの世界に入っていく選手が多いのかなっていうのは感じます。

 トップチームがJ1に上がったことで、これからは選手のなかでの目標がより明確になってくるんじゃないですかね」

 中村が言う「ヴェルディでしか身につけられないもの」とは、どんなものなのだろうか。

 今季から東京ヴェルディユースの監督に就任した小笠原資暁は、「ひと言で言えば、"プレー"じゃないですか」と言い、自らの経験から実感したことを言葉にする。

「ユースの選手のプレーを見てジュニアユースの選手が、ジュニアユースの選手のプレーを見てジュニアの選手が、『すごいプレーだな。

あれをやってみたいな』と思って真似をする。みんながここで一緒に練習をしているので、その繰り返しになるんです。

 コーチにしても口でああだこうだ言うんじゃなくて、一緒に混ざってプレーで見せる。そのコーチたちも、もともとヴェルディで育っているので、それが脈々と受け継がれているんだろうなって気がします。

 僕はそれ(プレーで見せること)ができないことがすごくコンプレックスなので、うまいコーチに入ってもらったりしていますけど、そのサイクルなんだと思います」

【Jリーグ連載】東京ヴェルディ・アカデミーの強み――ここでし...の画像はこちら >>
 もはやヴェルディの看板で、欲しい人材を集められる時代ではなくなった。意中の相手にフラれることも少なくない。しかし、だからこそ、ヴェルディを選んでくれた選手の成長が「本当にうれしい」と、小笠原は言う。

「中1になるところで(ジュニアユースで)取りたかった選手が取れなくても、僕たちにとってはもう(実際に入ってくれた)その選手が財産ですから。この選手たちを手塩にかけて育てて、磨いて、中1のときはボロボロに負けた相手に、中3になったら勝つ。それはすごいことだと思います」

 つまりは、中1のときには3、4番手だった選手が、他のクラブへ行った1、2番手の選手と肩を並べ、あるいは追い越し、プロの選手へと成長していく。

 小笠原は、それこそが「ヴェルディだからできること」だと胸を張り、「ここはサッカーの面白さを知れる場所な気がします」と笑みを浮かべる。

「僕自身がそのことをすごく教えてもらったし、そのことを知れた場所だったので。

サッカーの面白さを知って、サッカーが好きになるから、どんどんサッカーをしたくなる。だからサッカーがうまくなって、またどんどん面白みを知ってくっていう、このスパイラルが回っているんだと思います」

(文中敬称略/つづく)◆東京Vの育成において「虎の巻があるとすれば、それはこのグラウンド」>>

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