さて、サバイバルへ加わっていくのは誰か。
韓国、中国、香港とのE-1選手権に臨んでいた日本代表が3連勝で優勝を飾った。
日本人サポーターの声も聞こえていたものの、日本のゴール前へクロスが入るたびに歓声と悲鳴が交錯した。今大会で国際Aマッチデビューを飾った選手が多く出場しているなかで、アウェーの重圧をはねのけた1-0の勝利は評価されていい。
北中米ワールドカップへ向けたロードマップにおいて、今大会は「国内組の戦力発掘」という位置づけとなる。海外組の招集が可能となる9月以降の活動に、新たに組み込んでいきたい選手が現われるかどうか。それこそが、実は結果をも上回る論点だったと言っていい。海外組を含めたチームで、新戦力の登場が望まれるのはセンターバック(CB)だ。冨安健洋(前アーセナル)が長期の戦線離脱を強いられているうえに、伊藤洋輝(バイエルン)も昨年からケガを繰り返している。3バックの候補者全員がトップフォームで競い合う状況から、長く、長く遠ざかっている。
そこで、今回のE-1選手権である。
現在の主戦術となっている3-4-2-1で、荒木隼人(サンフレッチェ広島)、古賀太陽(柏レイソル)、安藤智哉(アビスパ福岡)の3人が香港戦と韓国戦に先発出場した。
所属クラブでCBを任されている5人は、いずれも持ち味を発揮した。彼らの出来にはっきりとした違いはない。そのなかで、9月以降の活動に招集するとしたら──。
安藤が浮上するのではないだろうか。
【190cmの大型CBが攻守で活躍】
3バック中央で守備を統率した荒木は、チームメイトのGK大迫敬介、ボランチ川辺駿が近くにいた。急造チームでありながらも、あらかじめ培われた連係を生かすことができた。
ロシアワールドカップメンバーの植田も、先発した中国戦はチームメイトのGK早川友基と同時出場した。お互いの責任範囲がはっきりしている関係は、今回のようなチーム編成では拠りどころになる。
アビスパ福岡所属の安藤は、今大会のメンバーに所属クラブのチームメイトがいない。このE-1選手権が代表初招集でもある。誰よりもまっさらな環境で、存在感を示したことをまず評価したい。短い時間で周囲の選手の特徴を理解し、並行して自分の強みを出していくのは、日本代表に選ばれていくためには必要であり、彼はその条件をクリアした。
ピッチ上でのパフォーマンスも、今後への期待を抱かせた。海外組と彼を並べてみると、190cmのサイズは高井幸大(トッテナム・ホットスパー)に次ぐもので、町田浩樹(ホッフェンハイム)に並ぶ。そのサイズをフルに生かしたエアバトルで、韓国の190cm超えのFWオ・セフンとイ・ホジェに競り勝っていた。
3バックの右CBを務めたこの26歳は、攻撃にもしっかりと関わっていた。パスを受けて近くの選手につけるだけでなく、最前線やひとつ先を見る。グラウンダーの縦パスを通したり、DFラインの背後を浮き球で突いたりできる。
香港戦では後半終了間際に、右CKからヘディングシュートを突き刺した。味方選手にファウルがあったとしてゴールは認められなかったが、得点が取れる空間へ勢いを持って入っていくことができる。
韓国戦の前半でも、決定機を生み出した。ペナルティエリア右でボールを収め、胸で押し出すようにコントロールし、右足で際どいシュートを浴びせている。
来年の北中米ワールドカップに向けて、安藤は競争へ加わる扉を開けたと言っていい。それでも、韓国戦後の取材エリアで足を止めた表情に、充実感や満足感はにじんでいなかった。
「最後まで集中して無失点で終われたのはよかったと思いますが、自分自身はもっと伸ばしていかなきゃいけないところがあると感じました」
先を見据えるからこそ、自己評価が厳しくなったのだろう。
【層の厚いウインガー争いに参戦】
一方、新たな戦力を探すにあたり、中盤から前線にかけては現時点で人材不足を感じさせない。どのポジションにも複数の候補者がいて、CBのようにケガ人続出に悩まされてもいない。
とはいえ、ストライカーはいつだって新たな人材の登場が求められる。点を取ることができている選手は、それが東アジアの戦いでも、より高いレベルでテストする価値がある。
そうやって考えると、ジャーメイン良(サンフレッチェ広島)も「扉を開けた」と言える。大会通算5ゴールのうち4点は格下の香港から奪ったものだが、韓国戦の決勝弾は価値がある。ワンチャンスを確実に仕留めた。
彼が起用されたシャドーのポジションでは、久保建英(レアル・ソシエダ)、南野拓実(モナコ)、鎌田大地(クリスタル・パレス)らが定位置を争う。彼らよりストライカーの血が濃いジャーメインが加わることで、組合せの幅が広がる。
ジュビロ磐田からサンフレッチェ広島へ移籍した今シーズンは、J1リーグで4ゴールにとどまっている。クラブでは得点を取りきれていなかったが、シーズン19ゴールを記録した「去年の感覚」を呼び覚ますことができたと言う。それも、彼を招集したい理由である。
また、ジャーメインとともに、相馬勇紀(FC町田ゼルビア)をセットで招集したい。
韓国戦の決勝ゴールは、FC町田ゼルビア所属のウイングのクロスを、広島でプレーするストライカーが決めたものだった。得点王と大会MVPを獲得したジャーメインは、「得点するならその形かなと思っていた」と振り返るが、彼らは短い準備時間で「ホットライン」と呼べるような関係性を築いている。
その理由を問われると、「大学で一緒にやったことがあるので」と口を揃えた。ゴールの絵を共有できる関係を、より高いレベルでテストしていいだろう。
今大会で国際Aマッチデビューを飾ったジャーメインと対照的に、相馬は森保一監督のラージグループ枠に入っている。ただ、左ウイングバックには三笘薫(ブライトン)と中村敬斗(スタッド・ランス)の2枚看板が君臨し、伊東純也(スタッド・ランス)を右から左へスライドさせることもできる。
このポジションには強烈なカードが揃っているが、今大会の相馬は別格の存在感を示した。三笘や中村のように縦突破も鋭いが、内側に持ち出してからのクロスが得点を生み出した。海外組とは異なるタイプとして、相馬を組み込むことに積極的となっていいはずだ。
【前線からのハードワークでアピール】
攻撃陣では、垣田裕暉(柏レイソル)も気になる。
香港戦と韓国戦に先発したこの28歳のFWは、ゴールという結果を残すことができなかった。
ディフェンスの局面では、圧倒的なまでのプレスで守備の方向づけをしていく。二度追い、三度追いをして規制をかける。恐るべきハードワークを見せた。
ワールドカップ・アジア最終予選を突破した日本代表は、ここから戦いの場を世界へ移していく。主導権を握る試合ばかりではなくなる。ボールを保持して相手を押し込むだけでなく、守備からリズムを作る試合や時間帯もある。FWの使い分けは考えるべきだ。
187cmの高さは、上田綺世(フェイエノールト)や小川航基(NEC)、町野修斗(キール)らを上回る。海外クラブ所属の2列目の選手との関わりで、どのような化学反応が起きるのかは興味深い。
今大会を終えた森保監督は、「国内組、Jリーグのプライドを見せてくれて、ワールドカップの選手選考が難しくなると思いました」と話した。