初招集メンバー12人を含む国内組、事実上のJリーグ選抜で臨んだ東アジアE-1選手権は、純然たるA代表のメンバー争いに食い込めそうな選手を探す機会というのがコンセプトだった。
ジャーメイン良は外せないだろうとか、望月ヘンリー海輝も悪くないとか、逆に誰々はイマイチだったとか、思うことは多々ある。
韓国を1-0で下して優勝。10~15年前なら喜べたかもしれない。しかし選手の質を比較すれば、いまや日本が六分四分ぐらいで優位に立つ状況だ。韓国が日本に勝つことは年々難しくなっている。今回も例外ではなかった。贔屓目抜きにそう思う。
韓国の正規のA代表がいまどれほどの強さかは、しばらく対戦したことがないので正確にはつかめないが、韓国を倒すことに喜びを見出す時代ではなくなっていることは確かなのだ。ライバルは韓国にあらず。森保監督が就任当初、掲げた目標は「ワールドカップベスト8」。日本は決して強そうに見えない韓国と競い合っている場合ではない。
ところが、だ。日本のボール支配率は44%だった。ジャーメインが相馬勇紀のクロスを左足ボレーで決めた(8分)前半の立ち上がりこそ互角の様相だったが、時間の経過とともに「攻める韓国、守る日本」という構図が鮮明になっていく。後半の後半は守りっぱなしだった。
ジャーメインが決めた貴重な先制点を5バックで固めた守りで耐え抜いた試合。森保サッカーが全開になった試合という言い方もできる。
選手個人の能力で若干勝る韓国相手にこの勝ち方でいいのか。このサッカーに将来はあるのか。会見で森保監督がテーマに挙げていた、「3バックから4バックへの可変」は行なわれずじまいだった。5バックと同義語の3バックから4バックに移行することは、通常、守備的サッカーから攻撃的サッカーへの移行を意味する。
だが、状況は1-0リードだ。ここは見解が分かれるポイントになる。
【サッカーの志向を分ける試合だった】
想起したのは前々日に行なわれた女子の日韓戦だ。試合展開がそっくりだったからである。前半37分、日本はMF成宮唯のゴールで先制するが、ボール支配率は50対50でまったくのイーブン。後半半ばを過ぎると地元韓国が攻勢を強め、後半41分、同点弾を浴びるという展開の試合だった。
試合後の会見で、終盤同点弾を許したことについて、ニルス・ニールセン監督に次のような質問が飛んだ。
「終盤、勝利を考えれば、つまらない手段に打って出る手もあったと思いますが、それをしなかったのはなぜですか」と。つまらない手段とは5バックにするなどの守備固めを意味する。
「確かにそうした守備的志向を重視した試合の締め方はあると思いますが、私は選択しなかった。本当に主要な大会では重要になるかもしれませんが、ここでは守備的にいくより2点目を奪うことを考えました。
一方、男子の日本人監督は同じ状況で守備的精神を露わにした。違いがわかりやすいのは後半32分、WBの相馬に代えて左のCBとして植田直通を投入した交代だ。その結果、それまで3バックの左を務めていた古賀太陽が左WBに回ったわけだが、これで左からのサイド攻撃はまったく期待できなくなった。まさしく専守防衛。得点のルートを自ら半分削るような超守備的サッカーに転じた。
同じ日本代表監督でも韓国戦の采配でこれだけの違いがあった。しかも、戦力で競った関係にあったのは男子ではなく女子だった。女子の韓日戦を見た後、帰路につくバスには日本人の観戦者も数多くいて、なかにはニールセン監督の采配に疑問を呈する声も聞かれた。「なぜ守備を固めなかったのか」と。そうしたタイプの人は、1-0で逃げきりに成功した男子の結果には満足しているものと思われる。
あなたはどちら派か。E-1選手権の男女の韓国戦は、サッカーの志向を決定づける踏み絵のような試合だった。
【結果オーライとはいえ......】
一方的に攻められ、それを守り抜く試合は、相手が強い場合はともかく、互角かそれ以下になると情けなく見える。これは筆者の場合だが、勝利しても喜びたくなる気持ちは半減するどころか、雲散霧消する。守りきってもさして褒められる話ではないし、一方で攻撃の練習にはならない。
負けることを極端に恐れるサッカーである。森保監督は目指すサッカーを口にすることはないが、これこそがその正体になる。それを好きだという人はそれでいいが、筆者はそうはいかない。2択で言うならニールセン派だ。
タラレバの話になるが、後半40分、GK大迫敬介が、相手FWイ・ホジェが放ったシュートを超美技で止めていなかったら、超守備的シフトで臨みながら、守りきれなかった試合というストーリーになっていた。典型的な采配ミスで引き分けたことになる。紙一重の関係にあるのだ。この1-0は結果オーライと言っても過言ではない。
このような守備的サッカーを続けていると、いつまで経っても攻撃は上達しない。
そしてこの典型的な守備的サッカーに、選手は面白みを感じないと思う。特に攻撃的な選手が気の毒になる。後方を大人数で固めれば前線の人数は減る。能力を発揮しづらい環境に身を置くことになる。これでテストだと言われると不公平感が残る。
結果的に0点で抑えたディフェンス陣にしても、申し訳ないが韓国の攻撃は主に質の低い単純な放り込みサッカーだ。胸を張るわけにはいかない。
試合後の森保監督はよくしゃべった。1-0で守りきる森保監督らしい勝利を飾ったことでアドレナリンが出たのだろうか。「韓日でともに頑張っていきましょう」的な言葉まで飛び出した。
繰り返しになるが、森保監督の本性を見せられた試合だった。