東京ヴェルディ・アカデミーの実態
~プロで戦える選手が育つわけ(連載◆第7回)

Jリーグ発足以前から、プロで活躍する選手たちを次々に輩出してきた東京ヴェルディの育成組織。この連載では、その育成の秘密に迫っていく――。

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 女子も含めたすべてのカテゴリーが同じ場所で活動していることは、東京ヴェルディの誇るべき特徴だが、そこでは互いの"視覚的効果"も見逃せない。

 今季からユースチームの監督に就任した小笠原資暁は、指導者を目指してヴェルディのスクールコーチに応募した際、面接官だったスタッフに言われた言葉が今も印象に残っている。

 ここはサッカーがあふれている場所だから――。

「自分がここにいるだけで、いろんなカテゴリー、いろんな選手、いろんなコーチに触れられる。面接の時に言われた言葉は、たぶんこういうことなんだなって思います」

 かつて、17歳でトップチームデビューを果たした山本理仁曰く、「中島翔哉くんの代が高3の時は、ジュニアのみんなでプレミアリーグの応援に行っていました。自分らにとってのスーパースターというか、ヒーローでしたし、たぶんジュニア全員が憧れていました」。

 また、現在東京ヴェルディユースに所属する中村宗士朗曰く、「森田晃樹選手は、ユースの時から天才と言われていた人。ジュニアのみんなでユースの試合を見ていました」。

 こうして身近な存在が子どもたちの憧れとなり、"緑のDNA"はアカデミーのなかで脈々と受け継がれてきたのだろう。

 昨年、ヴェルディユースを11年ぶりに高円宮杯U-18プレミアリーグへと引き上げた、元監督の藪田光教にしても、元コーチの佐伯直哉にしても、時間を30年ほど巻き戻せば、ヴェルディユースで汗を流した選手たちなのだ。

 クラブOBの残した成果を、ヘッドオブコーチングの中村忠が語る。

「彼らも(監督、コーチに就任した)1年目は結果が出なかったんですけど、2年目(の昨年)に結果を出してくれた。

選手たちもジュニアユースからの積み上げがある選手が多かったので、すごくいいタイミングだったと思います」

 だがその一方で、「どのカテゴリーもそうですけど、あまり長くは同じスタッフでやらない。どうしても偏る部分もあるので」と中村。「外からもスタッフが入ることは、すごく大事だと思っています」という。

「やっぱりみんなが同じ目線になってしまうと、いい部分もあるんですけど、欠けている部分が見えなくなる。なので、なんて言ったらいいか......、あまり"ヴェルディ、ヴェルディしないように"はしています。僕らもスタッフ全員の希望をかなえることはできませんが、新しいスタッフを加えながら流動的に活性化していく、という方法をとっています。

(昨年限りでヴェルディを離れた)藪田や佐伯も、他の役職でこれからも一緒にやってもらうように打診はしたのですが、彼らは新たなチャレンジをしたいということだったので、頑張ってこいよということになりました」

 歴史や伝統は大切にしつつも、「ヴェルディ、ヴェルディしないように」。トップ、ユースを問わず、近年のヴェルディが大きな成果を収めているカギは、そんなところにあるのかもしれない。

 とりわけ、インテンシティやデュエルといった要素が重要視されるようになった現代サッカーにおいては、いわゆる"軽い選手"は通用しなくなった。

 中村は現在の潮流を踏まえ、「実際、そこはヴェルディが後れていた部分だった。そこがなかったので、ずっとJ2にいたっていう側面はあったと思います」と認め、こう続ける。

「でも、今のトップチームは、そこを変えてくれたと思っています。

そもそもヴェルディっていうのは、かつては、よく走るし、よく戦うし、よく守備をするのが特徴のチームだった。それが薄れていたところを、今のトップチームがもう一回呼び戻してくれたというか、復活させてくれた。

 アカデミーでも技術は大事にしていますけど、上辺の技術だけでは、競争のなかでどんどん蹴落とされてしまう。自分が心底好きなサッカーでは、誰にも負けたくない、うまくなりたい、強くなりたいっていう気持ちがあっての技術ですからね。そのうえでのし上がっていける選手がプロになれるんだと思います」

(文中敬称略/つづく)◆プロになれるかどうかわかる年齢とは?>>

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