東京ヴェルディ・アカデミーの実態
~プロで戦える選手が育つわけ(連載◆第11回)
Jリーグ発足以前から、プロで活躍する選手たちを次々に輩出してきた東京ヴェルディの育成組織。この連載では、その育成の秘密に迫っていく――。
指導者としてのキャリアをヴェルディでスタートさせて以来、ジュニアユースの監督、そしてユースのコーチを経験してきた小笠原だが、ユースの監督を務めるのは、これが初めてのことだ。
「クラブにとっては、(プレミア昇格は)めちゃくちゃいいことだな、っていうのは理解しています」
そう語る小笠原も、しかし、自身がその特別なタイミングで大役を任されたことについては、「せっかくのプレミアの舞台なので、そういうの(特別な感情)を感じたほうがいいと思うんですけど、自分はあまり感じていないかもしれないです」とそっけない。
「相手のレベルが(プリンスリーグよりも)上がるんだろうなっていうのはありますけど、毎日、毎日、いい練習をして、毎試合、毎試合、ベストゲームを更新していく。それを繰り返すことが選手の成長につながることに変わりはない。その舞台がよりレベルの高いところになったっていうのは、すごくいいことだとは思うんですけど......、そうですね......、そんなに楽しみも不安も、あまり感じていない状態です」
それでも小笠原は、プレミアリーグに手が届かなかった10年を振り返り、「(プレミア昇格は)結構難しいミッションではあった」としつつも、「選手たちをそこにたどり着けるレベルにまで、僕ら指導者が上げてやれなかった、というだけ」と、悔恨の念も口にする。
ヴェルディユースにとっては、10年がかりでようやく手にした、まさに念願のプレミアリーグ復帰であることは確かだろう。
とはいえ、ヴェルディユースがプレミアリーグから遠のいていた間も、変わらずプロで通用する人材を輩出し続けていたことは、これまでの連載ですでに記したとおりだ。
「ヴェルディで培った技術をベースに、競争を勝ち抜いた選手が(トップに)上がっている」
そう言って、アカデミーのヘッドオブコーチング・中村忠は胸を張る。
ただし、「その人数はまだ少ない」というのが、中村の偽らざる本音でもある。
「トップで活躍している選手の人数が、各学年1人とか、2人になっていますけど、やっぱり僕らの仕事は、それではダメ。もっと増やさなければいけない。
15年前や20年前だったら、もう(ユースチームの)スタメン全員がプロになるような時代が実際にあったわけですから、全員がユースからそのままプロは難しいとしても、大学経由でもいいので、やっぱりそこは目標にしたい」
しかし、そんな言葉とは裏腹に、トップチームの選手すべてがアカデミー出身者で占められるのが究極の理想なのかというと、話はそれほど単純ではない。中村が続ける。
「(クラブ運営は)プロの世界であり、ビジネスなので、当然、(トップチームに上がった選手を他クラブに)売って次の準備をしなければいけない部分もあるし、また僕は"外の血"も大事だと思っているので」
それを踏まえたうえで、中村が目標に掲げるのは、トップチームにおけるアカデミー出身者の出場率(トップチーム全選手の出場時間合計のうち、アカデミー出身者の出場時間合計が占める割合)が30%以上になること。中村いわく、「今がそれぐらいなんですけど、これを維持しながらも、やっぱり(選手を)循環させることが大事です」。
「ユースから上がってくる選手がいれば、外に出ていって活躍する選手がいたり、トップには上がれなかったけれど、大学へ行っていろんなクラブから声をかけてもらうようになる選手がいたり。それはそれでヴェルディの価値というか、アカデミーの価値にもなりますし、全然悪いことじゃない。むしろ、Jリーグのどのチームにもヴェルディのアカデミー育ちの選手がいるっていうのが、僕は理想かなと思っています」
高校年代の全国リーグとして、高円宮杯U-18プレミアリーグが誕生したのは、2011年。当時すでにJ2に降格していたヴェルディにとっては、トップチームがJ1で、ユースチームがプレミアリーグで、同じシーズンにそろって戦うのは、クラブ史上初めてのことになる。
ふたつのカテゴリーのそろい踏みは、名門復活を印象づけるにふさわしく、きっとアカデミーのさらなる充実にもつながっていくはずである。
中村が未来を見据える。
「去年のJ1に出場した(クラブ別の)アカデミー出身選手は、Jリーグのなかでヴェルディが一番多かったんです。そういった意味では、今の状況は悪くはない。
(文中敬称略/つづく)◆東京ヴェルディユースの指揮官、小笠原資暁の突拍子もない経歴>>