FC町田ゼルビアの2025 後編
今季前半戦の不振を払拭するリーグ5連勝を遂げ、J1再開前に優勝争いにも加わってきたFC町田ゼルビア。勝利の方程式を取り戻せた要因と今後の展望を、チームに密着して取材しているライターがレポートする。
>>前編「今季序盤の不振と復活5連勝の中身」
【気になった失点パターン】
FC町田ゼルビアは、どのようにして町田らしい戦い、勝ち方を取り戻したのか。後期までの中断期間では、守備改善に多くの時間が費やされた。前期のデータを元に、改善点をミーティングで共有したなかで、キャプテンの昌子源は失点パターンで気になる点をこう語っている。
「クロスからの失点が昨年と比べて多く、対応の疑問点を監督も含めて、話し合うことができた」
昨季は4失点だったクロス対応が、今季前期だけで7失点と倍増した。
「去年と比べて増えているのは、相手も対策をしてきている」
そう語るのはMF仙頭啓矢だ。クロスに対して人を捕まえるのが守備の鉄則。それを徹底するからこそ、スペースを狙われると脆さがあったという。守護神の谷晃生は、失点の場面についてこう指摘している。
「マンツーマン基調で相手を捕まえるなかで、どこまで人を見るのか。失点の場面では空けなくていいスペースを空けてしまうことが多かった」
これはクロス対応だけの話ではないが、ゴール前の守備では何を優先して守るのか。
「ゴールや危険なエリアを守ることから逆算したポジショニングが大事ということが、前期のフィードバックのなかであった」(仙頭)
黒田剛監督もクロスに対しての守り方、埋めるべきポジションの整理を復調の要因に挙げている。後期ではシュートブロックへの反応も格段に上がり、ゴール前での強固な守備を取り戻す一因となっている。
【中盤の守備を改善】
もうひとつの改善点が、ミドルゾーンでのコンパクトな守備である。仙頭によれば全体的にコンパクトさに欠けていたという。
「後ろに重く間延びし、前のプレスに後ろがついてこられないことで、ボランチやセンターバック前のスペースで起点を作られるシーンが多かった」(仙頭)
コンパクトさを保つには、前線と連動しながら中盤や3バックのラインアップは必須。それができず、スペースを与えることが多かったという。
「そこでラクをすると前線もいけなくなるし、セカンドボールの回収も難しくなる。コンパクトさを保つことは守備において大事」(仙頭)
MF前寛之はミドルゾーンでの守備の強度が不足していたことも指摘している。
「セットした守備のなかで、何気なくやられた失点も結構あった。ブロックの中に入ってきたボールを弾き出せないのは強度、あるいは寄せのルーズさ、マークの受け渡しに課題があった」(前)
コンパクトな陣形、強度の高い寄せ。それらをあらためて確認、修正することも中盤の守備改善において重要だった。
【プレスの意思統一】
プレスワークの判断をチームで意思統一する作業も守備の機能を取り戻した要因のひとつである。
「みんな走れるし、真面目なので、心理的や肉体的にキツくても、守備の陣形がセットできたら『プレスに出ていかなきゃ』となっていた。そこで剥がされたり、ひっくり返されたりすると、キツいなかで出ているので、守備に歪みができていた」
前からプレスでハメにいくのが守備のベースではあるが、どんな時でも遂行しようとしすぎていたと前寛之はいう。
"やりたい"と"やれる"は似て非なるもの。試合のなかで、やれないならあえて引く判断も必要であり、チームとして出ていけるタイミングで足並みを揃えて出ていく。
前期はその意思統一にバラつきがあったことで、勝てる試合で勝ち点を取りこぼした。
そして、前線のプレッシングの向上も忘れてはならない。それを担っているのがFW藤尾翔太である。藤尾が後期から1トップで先発するようになり、守備の強度が間違いなく上がった。その貢献度はどのチームメイトも認めている。
「翔太の存在がすごく大きい。彼の前線からのプレスがハマっているから守備ラインがより生きやすくなっている」(DF岡村大八)
藤尾が豊富な運動量と巧みなプレッシングによって守備のスイッチを入れ、後ろの守備がハマりやすくなり、相手に単調なロングボールを蹴らせることで、3バックのヘディングの強さを生かしやすくなった。
「言語の問題もあるけど、後ろの声が聞けることも大きい」
DF林幸多郎は、言語の異なるFWオ・セフンやFWミッチェル・デュークと比べ、後ろのコーチングの細かなニュアンスの伝わりやすさ、伝わる速度もメリットのひとつとして挙げた。黒田監督も藤尾の攻守に渡る貢献度、チームへの影響力を高く評価している。
【攻撃も好調。ロングスローからも得点】
こうした守備の改善がなされたうえで、3連勝したアルビレックス新潟戦後にFW相馬勇紀は好調な守備について次のように語る。
「今まで迷いながらやるところもあったが、この3試合はスタッフから組織として守り方がはっきりと提示されているので頭も整理できている」
すべての試合で守備がハマっているわけではないが、試合ごとに入念に対策がなされ、チームに迷いがないという。
攻撃においても後期の5試合で12得点と絶好調だ。とりわけ5試合4得点を挙げた相馬のクオリティは、その象徴である。また、黒田監督は攻撃が好調な一因をこう述べる。
「林、望月(ヘンリー海輝)という両ウイングバックがゴール前に関われるようになったのは大きな成長。相馬、西村という2シャドーの武器があるがゆえにウイングバックがより生き、相手は下がらざるを得なくなり、強気に出られないところもある」
さらに、開幕戦で負傷離脱したDF菊池流帆が完全に復帰したことで、セットプレーの脅威がより増したことも挙げなくてはならない。実際、菊池は清水戦、東京V戦と2試合連続でセットプレーから得点し、勝利に貢献している。
とくに東京V戦は攻撃陣がうまく機能しなかった。そのなかでロングスローから菊池がワンチャンスで決勝点を奪った。流れと関係のないセットプレーから点が取れるというのは、町田の大きな強みである。
【試合数の多い8、9月が今後のカギ】
公式戦7連勝を達成して、ようやく軌道に乗ってきた町田。それでも黒田監督はチームに緩んだ雰囲気を一切許さない。
「3連敗と2連敗をして、その負けをなんとか取り戻しただけの話。
目の前の一戦に集中し、より厳しい競争を選手たちに求めている。日本代表DFの望月は「危機感を持っている」という。
「(V・ファーレン長崎から増山)朝陽くんも入ってきて、ポジションの確約がある選手はいない。この中断期間で緩みそうなところを監督から厳しい声かけもあった。町田が目指しているのは、今の6位じゃなくてもっと上にある。だからこの連勝に満足せず、チームは成長することにベクトルが向いている」
また、岡村はこの連勝を一度忘れたほうがいいという。
「チームは勝っていて、すごく雰囲気はいいと思う。この連勝は一度忘れて、また目の前の一試合、一試合、自分のやるべきことを全力でやるだけ」
一度沈んで盛り返してきただけに、油断することなく、また積み上げていくことが大事だという。ここから町田は優勝争いにどう絡んでいくのか。まずは8月、9月をどう乗りきるかだろう。
8月6日の天皇杯ラウンド16に勝利して、同27日に準々決勝が開催されるため、8月は7試合になる。4試合がホームで、アウェーも横浜と川崎のため、遠征がないのは幸いだが、猛暑のなかで7試合は相当にハードだ。
9月は初出場のACLエリートが開幕する。対戦相手は8月15日の抽選会までわからない。どこと当たるにしても3週間で5試合(ACLは2試合)を戦うため、これもまたハードな日程である。
今季の過酷な戦いに備え、町田は2チーム分の戦力を揃えてきた。また、サンフレッチェ広島のスタッフとしてACL経験がある有馬賢二コーチ、日本代表での指導経験が豊富な浜野征哉GKコーチを招聘し、体制も強化した。
ACLはクラブとしては初めてだが、鹿島アントラーズで優勝経験のある昌子を筆頭にFW西村拓真、相馬、DF中山雄太、菊池など、個々で経験している選手は9人もいる。また、谷や藤尾は、アンダー世代含め、代表活動で海外遠征は慣れている。
クラブとしてのノウハウはなくとも、個々での経験が豊富なことで、チーム自体は落ち着いて大会に入れるだろう。ACLは10月以降にもあるが、まずは8月、9月をどう乗りきり、その頃にリーグでどんなポジションにいるのか。
第22節新潟戦のフラッシュインタビューで、相馬はこう宣言した。
「笑われるかもしれないけど、僕らは後期19連勝して、優勝を目指している」
その連勝を5つまで積み上げた。タイトルを見据える町田にとって、勝負の夏が始まる。