ビビる大木×宮本慎也

ヤクルトスワローズで活躍した宮本慎也が、リーグ首位独走中の阪神タイガースの強さの秘訣、ドラフトで獲るべき選手を考察。さらに、自身のヤクルト入団当時のエピソードも語った。


 
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【阪神タイガースの強さの秘訣】

ビビる大木(以下、大木) 今年のセ・リーグは阪神タイガースがぶっちぎりの強さですね。※収録日の8月25日の時点で2位の巨人に13ゲーム差

宮本慎也(以下、宮本) 強いし、周りが弱いということが重なって、独走みたいな状態ですね。

大木 予想はできましたか?

宮本 ここまでとは......。でも僕は、阪神の優勝予想だったんです。

大木 じゃあもう予想どおりですね。

宮本 そうなんですよ。でもここまでと思わなかったし、やっぱりジャイアンツは長期で岡本和真がいなくなったのは相当痛かったですね。

大木 岡本選手ひとりが帰ってくるだけで、ちゃんと形になりました。

宮本 そうなんです。岡本が防波堤になっているので、ほかの選手のマーク度が変わってきますし、落ち着くんでしょうね。

大木 そんななか、この阪神の強さの秘密、秘訣は何なんですかね?

宮本 まずはピッチャーですよね。チーム防御率が2点ちょっとなんてありえないんですよね。ある程度ピッチャーの失点を計算できる。

打順の並びも岡田彰布監督がやられていたのをそのままにしているので、役割もよく分かっているし、優勝経験もあるので。去年悪くても2位ですから、普通に考えたら優勝候補だなと思っていました。そこにバッターの調子以上にみんな役割がわかっているというところで、得点力もあるんじゃないかなと思います。

大木 それはやっぱり前任の岡田監督の功績が大きい部分が?

宮本 あると思います。岡田監督の時はフォアボールを重視していたじゃないですか。昨年見ているとフォアボールを選びたいのに積極性がなくて、藤川球児監督に変わって何も言わなくなって重要性も分かりつつ、のびのびとやっているという、うまい順番ですね。佐藤輝明選手なんか特に。

大木 1年目からこうなるだろうという予想は、みんなが言ってましたけどね。

宮本 思ったよりも時間がかかったかもしれませんけど、昨年のキャンプの時点でバッティングの形がめちゃくちゃよくなっていたんです。でもまだボール球を振ったら怒られてたんで(笑)。だから今はのびのび打っている感じかなと思います。

大木 厳しい指導者は必要な時がありますからね。

宮本 だから順番が良かったんだと思います。

大木 藤川監督はいかがですか?

宮本 最初のほうから長いシーズンを見てやっていたと思いますし、僕は解説でよく一緒だったんですけど、理論的に話していくので、監督がどうしたいかっていう選手の理解があると思います。

 レギュラーは決まっていますが、今はショートとレフトにチャンス枠みたいなのがあるじゃないですか、若い選手の。それもバランスもいいと思います。レギュラーは固まっているけど、若いやつのやる気も出てくるみたいな、バランスがすごくいいと思います。

大木 強いのに若手にチャンスがあるのは一番いいですね。

宮本 2年ぐらい経てばサトテルがメジャーに行くとか、ピッチャーも抜けていくことを考えると、そういう準備が勝ちながらできるのは本当にいいです。

大木 普通は育成を考えると順位はしょうがない時期ってあるじゃないですか。

宮本 本当に。ファンに3年我慢しなさいということもあると思いますが、阪神は金本知憲さんになってから変わりました。最下位になってからどんどんよくなって、長期にわたって選手がうまく入れ替わっています。

大木 なぜあんなにピッチャーがいいんですか? たまたまではないですよね。

宮本 スカウトがいいんじゃないですか。レベルの高いところで競争するとみんなのレベルが上がると思います。教え方もあるかもしれません。それは中に入ってみないとわかりませんけど、名前を聞いたことのない選手が投げてもいいじゃないですか。

大木 全球団のスカウトマンがいて、いい選手が日本のどこかにいるとみんな必ず見つけるじゃないですか。

宮本 (阪神は)先を見る目があるんじゃないですか。ドラフト1位でも活躍しなかった人もいるし、ここをこうしたら伸びるとか、今はいいけど気になるところがあるとか、見極めがいいんじゃないですか。

 ファイターズは、昨年のドラフトで山縣秀という早稲田からショートで入った選手がいます。彼は大きくないですが、他は全員185センチ以上のピッチャーです。身長がでかい。ポテンシャルもあるし、ファイターズのピッチャーもすごいのが出てくるじゃないですか。トレーニングもあるんでしょうね。

大木 スカウトの段階でチームの育成プランに入ってますよね。

【ドラフトで獲るべき選手】

宮本 いろいろ見ていて、こぢんまりした選手ばかりになっているチームもありますし、「だれがホームラン打つの?」みたいなチームもあるじゃないですか。

大木 ファンから見ても、なぜ同じタイプの選手をまた取ってくるのか不思議な時があります。

宮本 同年代で同じポジションはいいと思います。(競って)どちらかは出てくるので。ピッチャーは毎年そういう選手って必ず出てくるんですよ。ショートやキャッチャーは出てこないので、補強ポイントじゃなくても、いい選手は取ったほうがいいです。足が速くて守備がそこそこの選手も毎年出てくるんですよ。足が速いけどちょっとなというのは育成で取っておいて、それなりになります。僕みたいなタイプですね。

大木 僕みたいなって、宮本さんのように2000本安打はなかなか無理です。

宮本 宝くじみたいに出てくるんです。(チームは)同じタイプが多いほど弱くなっていきます。

大木 その時の監督からすると、その戦力でやってくれよということですもんね。

宮本 岡本はドラフト1位で何球団からも指名されるわけではなかったけど、ああいう選手を取っておくというのが重要ですよね。キャッチャーとショート以外にもホームランを打てる選手は獲っておいたほうがいいです。

大木 そう考えると、その年の目玉となるドラフト選手はみんな取ったほうがいいんですね。

宮本 タイガースを見てください。1番、3番、4番、5番はドラフト1位です。近本光司、森下翔太、サトテル、大山悠輔。みんなすごい。ドラフト1位の野手を見直す声が上がっています。どうしてもみんなピッチャーにいくじゃないですか。でも(野手でも)すごいのが出てきた時は取ったほうがいい。

大木 巨人もドラフト1位がなかなか出てこないのが、ここ10年で苦しい時もあります。

でも、タイガースの話を聞くとみんな活躍していますね。

宮本 巨人は浅野翔吾(2022年ドラフト1位)がどうなるかですね。浅野はもう3年経ちました。高卒の野手は基本的に4年目ぐらいで半レギュラーになり、5年目で開花するのが通常です。だからヤクルトの村上宗隆は非常に早かった。筒香嘉智にしても鈴木誠也や岡本も4年目ぐらいなので、浅野は来年爆発するはずです。僕は、高校時代の彼を見て、3年で出てくると思っていました。

大木 それでも3年なんですね。

宮本 プロの球が速くなってキレも違うからです。打席数をこなさないと厳しいので、チーム状況とかも運なんですよね。1軍で我慢して使いたいポジションがあると、ラッキーです。

【宮本慎也さん入団当初】

大木 タイミングと運が大事なんですね。宮本さんご自身はどうでしたか?

宮本 僕はだまされて入団したんですよ(笑)。池山隆寛さんがFAすると言っていたのに、ショートにいたんですよ。だけど池山さんがケガがちで、2年目の途中から僕が出るようになりました。で、池山さんが戻る目途がたったときに、池山さんをサードにしてくれたんです。

大木 野村監督の本を読んでいたら、宮本さんは「守備は一級品で他はそうでもないけど獲った」と書いてありましたよ。

宮本 スカウトに「池山が外に出るからチャンスが多い」と言われて、社会人からだったので早く結果を出せるならと逆指名したんです。内野手がいなかったので、ショートをひとり、打てなくても守れる選手を取ったようです。

大木 結果、守備も打撃もすごかった。

宮本 これはたまたまです。

大木 2000本を超えるプレーヤーで、たまたまは本当にあるんですかね(笑)。

宮本 古田敦也さんもそういう触れ込みで入ったらしいですよ。キャッチャーとしてよくても打つのは目をつぶってくれと言われていたのに、首位打者を取り、2000本安打も達成しました。野村さんのおかげだと思います。

大木 野村監督の本に、「私がスワローズの監督時代は、宮本選手のような選手がいて強かった。そういう選手がいないと強くならない」って書いてありましたよ。

宮本 主軸がいてこそチームは強くなります。池山さんや古田さん、広沢克実さんなど大砲候補がいてこそ僕らが意気込んでできた。ちょこちょこ打っても強くならないですよ。

大木 ちょこちょこやっても2000本はいかないですよ。体が強かったのは子どもの時からですか?

宮本 ケガをしても痛みに鈍かったと思います。守備が得意だと思ったのは高校に入ってからです。自信がすごくあったわけではなかったので、プロに入って初めてのキャンプの時に守備に関しては「プロってたいしたことないな」って思ったんです。守備は池山さんもうまいけどなとぐらいでした(笑)。

大木 一芸があるとプロは違いますね。

宮本 それはそうかもしれないです。

大木 野村さんはキラッと光るものがあれば、ほか練習でどうにかなると言っていました。

宮本 野村監督のもとでできたのは大きかったと思います。ほかの監督だったら全然違ったと思います。自分なりに頭を使っていましたが、野村監督はこんなことを考えているのかと思うことが多かったです。

【リーグ優勝・CSの行方】

大木 阪神が今シーズン独走状態で、巨人はリーグ優勝が難しいくらいですね。

宮本 ちょっと無理ですね。面白くするには2位に入って、昨年のベイスターズみたいに、「これだけ差があっても俺らが勝ったらおもしろいな」ぐらいの感じでやってほしいですね。

大木 レギュラーシーズンで10ゲーム以上差がついたら(タイガースに)日本シリーズにいってほしいなという気持ちになります。せっかくのリーグ優勝なので。文句言いながらもクライマックスシリーズを楽しむんですけど。

宮本 そうなんですよね。ルールなのでいいと思うんです。これが嫌ならCSやめたほうがいいし、借金ありで進出したチームは負けた瞬間終わり。3位で借金があってファーストステージ2連勝、ファイナル4連勝しないと日本シリーズに行けないよとすると、ちょっと納得感があるかなと思いますけどね。

大木 確かに、リーグ優勝の重みは欲しい気はしますね。

Profile

宮本慎也(みやもと・しんや)/1970年11月5日、大阪府出身。1992年にドラフト2位でヤクルトスワローズに入団。2004年のアテネオリンピック、2008年の北京オリンピックではキャプテンを務め、2012年に2000本安打を達成。2013年に現役を引退。現在は野球解説者として活動している。

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