来年に控えたW杯本番で前回大会以上の結果を目指す日本にとって、この9月から始まる強化試合は本大会仕様のチーム作りを完成形に近づけるためには極めて重要になる。

 とりわけ注目されるのは、昨年6月のアジア2次予選から採用し、最終予選で日本の大きな武器となった両ウイングバック(WB)にアタッカーを配置する3バックシステムが、W杯に出場するチームを相手にどこまで通用するのか、という点だろう。

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 敵陣でプレーし続けることができれば、それ以前に基本布陣としていた4-2-3-1よりも攻撃的に運用できるが、それができなければ、途端に5バックシステムと化してしまい、逆に守備的サッカーを強いられるのが、現布陣の基本的な性質だ。

 果たして、今回のアメリカ遠征の初戦となったメキシコ戦では、いかなる結果となったのか。そのポイントに注目して、あらためてゴールレスドローに終わったメキシコ戦を振り返ってみる。

【序盤はメキシコを圧倒】

 まず、この試合で森保一監督がチョイスした布陣は、これまで通り両WBにアタッカーを配置する3-4-2-1で、両WBを務めたのは右の堂安律と左の三笘薫。おそらく、中2日で行なわれる今シリーズ2試合のスタメン編成は大幅なローテーションが行なわれると予想されるので、これまでのアジア予選同様、このふたりが森保監督の現時点におけるファーストチョイスであることは間違いなさそうだ。

 一方、メキシコを率いるハビエル・アギーレ監督は4-3-3を採用。しかしそのなかで、日本の出方に適応すべく、時に3バックに可変する柔軟性も見て取れた。

 試合の序盤は、日本がメキシコを圧倒した。開始から、積極的に前からプレスを仕掛け、パスをつないでビルドアップをするメキシコのスタイルを封じにかかり、その策が見事にハマった。

 そのメカニズムは、4バックのセンターバック(CB)を務めた5番(ヨハン・バスケス)と3番(セサル・モンテス)に対し、右シャドーの久保建英と左シャドーの南野拓実が外側からプレスをかけて、1トップの上田綺世がボールホルダー(5番または3番)からワンボランチの4番(エドソン・アルバレス)へのパスコースを遮断。

 さらに、相手のサイドバック(SB)には堂安と三笘がついて、相手インサイドハーフにもボランチの遠藤航と鎌田大地が前に出てマーク。その背後の両ウイングに対しても、3バックの板倉滉と瀬古歩夢がついていくため、実質的にオールコートマンツーマンの状態で、メキシコに圧力をかけて自由なビルドアップを許さなかった。

 その策が奏功し、日本は開始から15分間で4度のシュートチャンスを作ることに成功している。

そのなかでも、4分の遠藤の前プレスから堂安を経由して最後に久保がシュートしたシーンと、11分に相手スローインを瀬古がカットしてから久保、三笘、久保とつないで、再び久保がシュートしたシーンは、いわゆる前プレスがハマってフィニッシュに持ち込んだ典型的なショートカウンターだ。

 いずれのフィニッシュも成功には至らなかったが、試合の入りとしてはほぼ日本の狙いどおりで、逆に、いつものようにパスをつないで剝がそうと試みたメキシコの選手は、日本の予想以上の圧力に面食らった様子だった。

【試合途中からはほぼ互角の展開に】

 ただ、これだけ激しく前からプレスを仕掛けると、さすがに90分はもたない。それも考慮してか、15分を過ぎると日本は主にミドルゾーンをボールの奪いどころに設定する戦い方に変化した。

 同時に、4-3-3でボールの出口が見つけられなかったメキシコも、立ち位置を修正して日本のプレスを回避。左SBの23番(ヘスス・ガジャルド)が左大外のレーンで高い位置をとると、2枚のCBと右SBの2番(ホルヘ・サンチェス)が左へスライドして3バックに可変。インサイドハーフふたりのいずれかがワンボランチの4番の脇に落ち、「3-2」のかたちに変化させて、日本の前からの圧力を弱めること成功している。

 以降、日本はやや優勢に試合を進めるものの、シュートにつながるシーンが激減。試合はほぼ互角の展開になった。

 日本がこの試合で最も大きなチャンスを迎えたのは、後半早々の53分。鎌田の自陣からの縦パスを上田が右に展開し、堂安が右ポケットに進入する久保にスルーパス。受けた久保が右足で浮いたピンポイントクロスを供給し、ファーで南野が右足ボレーでゴールを狙ったが、惜しくもシュートはバーを越えた。

 ただ、それを最後に、後半はロングボールも多用したメキシコが日本陣内でプレーする時間が増え、それに伴って日本の両WBが最終ラインに吸収されて5バックで対応する時間が長くなってしまった。

 この現象は、2度の選手交代でも大きく変わらず。日本は試合終了間際に相手CBの5番が退場するまで思うような攻撃を仕掛けることができなかった、というのが実際のところだった。

 最終的に、ボール保持率はメキシコの51%に対し、日本は49%(sofascore調べ)。シュート数も、メキシコの8本対日本の9本(前半は4本対5本)と、ほぼ互角だった。

 ビッグチャンスでも、日本は前述の南野のシュートシーンと、終了間際に遠藤の前進から創出された上田の抜け出しから相手5番のカード覚悟のファールを誘ったシーンの2回。メキシコも、フリーキックで6番(エリック・リラ)がヘディングシュートを放ち、GK鈴木彩艶の好セーブに阻まれた68分のシーンと、88分に8番(カルロス・ロドリゲス)のクロスに対して処理を誤った前田大然の背後で11番(サンティアゴ・ヒメネス)が迎えた決定機を決められなかったシーンの2回と、こちらも互角だった。

【前半のサイドからのクロスはゼロ】

 そんななか、日本の3バックシステムは攻撃的に運用できたかと言えば、必ずしもそうとは言いきれない。確かに試合序盤では敵陣での前からの守備で効果は発揮したが、それだけでは両WBにアタッカーを配置する有効性を示したとは言い難い。

 また、前半15分以降、三笘も堂安も守備面で大きな役割を演じていたが、肝心の攻撃面では、敵陣で横幅をとって相手を広げるというこのシステムの重要な部分で満足できるような仕事はできなかった。

 むしろ気になるのは、やや優勢で試合を進められたはずの前半でも、日本はサイドからのクロスが1本も供給できなかった、という点だ。後半も、サイドからのクロスは4本しかなかった(右3本、左1本。そのうち味方につながったのは南野の決定機を生み出した久保の1本のみ)。

 繰り返しになるが、本来この3バックシステムを攻撃的に運用するためには、敵陣でのボール保持率をいかに高めるかがカギとなるが、その視点で見ると、アジア予選と違ってさすがにメキシコ相手になるとそれも難しかった、と見るのが妥当と言える。

 少なくとも、仮に両WBに本職のDFを配置したとしても、前からのプレスをチームとして機能させることはできる。それを考えると、確かに一定の手応えをつかめた試合内容だった一方で、攻撃面で課題が残された試合でもあった。

 実際、メキシコが中央を締めて守っていたこともあり、日本が敵陣で記録したくさびの縦パスも前半3本(そのうち2本は堂安が上田に対して斜めに出したくさび)、後半も終了間際の2本だけ。サイドを有効に使えないと、相手が集中する中央攻撃も機能しなくなるのは当然で、中央を締める相手を広げるためのサイド攻撃の必要性が、あらためて浮き彫りになったと言っていいだろう。

 もちろん、攻から守、守から攻への切り替えと、球際の攻防では十分にメキシコに対抗できていたし、むしろ上回っていた印象だった。また、両WBを務めるアタッカーの守備力もあらためて証明した。

 しかし、3バックシステムを攻撃的に運用できていたか、という大切なポイントが、その陰に隠れてしまった感は否めない。

 次のアメリカ戦は、メンバーが大幅に変わる可能性が高いのでその判断は難しいが、日本が同じ布陣で、両WBに誰を配置するかは、本番に向けたチーム強化を進める森保監督の狙いを見るうえでは、引き続き注目ポイントになりそうだ。

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