F1第16戦イタリアGPレビュー(前編)

「あいつは何をやってるんだ!」

 イタリアGP決勝の27周目、角田裕毅(レッドブル)は無線で叫んだ。

 第2シケインのターン4で、リアム・ローソン(レーシングブルズ)と接触してコースオフ。

ソフトタイヤでスタートして9周目にピットインを済ませていたローソンと、8周前にフレッシュなタイヤに交換したばかりの角田では、レースのなかでの立ち位置が違う。本来はお互いに「ポジションを争う相手」ではなかったはずだ。

 もちろん、極限の世界でマシンをドライブし、アドレナリン全開のドライバーたちが発する無線の内容を、それがすべてであるかのように語るべきではない。

【F1】角田裕毅にもローソン接触の責任はある 「抜き返してこ...の画像はこちら >>
 レース後、角田はこう語った。

「正直、何と言えばいいのかわかりません。彼は最後尾スタートで(ステイアウトしたことで一時的にポジションが上がったものの)ポイント圏内を争っていたわけではないし、僕のほうが1周1秒は速かったわけで、なぜああなってしまったのかわかりません。

 ポイント争いをしているなら、ああいうバトルも理解できます。だけどそうではないし、僕らは兄弟チームですし、ライバルではないのだから、あそこまで激しくやり合う意味がわかりません。もちろん、お互いに譲れない線というのはありますけど、僕はポイント争いをしていて、彼は(見た目上のポジションを角田と争っていたわけではなく)そうではなかったわけですからね」

 ピットストップでローソンの後方に戻ったガブリエル・ボルトレート(キック・ザウバー)とオリバー・ベアマン(ハース)は、問題なくローソンを抜いていった。角田もそれと同じように、27周目のターン1でやや強引にインへ飛び込んで抜いた。

 ただ、ターン1からの立ち上がりには差があり、ローソンは角田のトウから再びターン4でアウトに並びかけた。その瞬間の接触だった。

 角田の言うように、ローソンは角田たちと違うレースを戦っており、そこでポジションを取り戻そうと仕掛ける立場にはなかった。トウが効いて抜き返せそうになったとしても、抜き返すためのバトルでタイムロスはあったとしても、得をすることはローソンにとっても角田にとってもひとつもなかった。まったく不必要な動きだったことは確かだ。

【ローソンの動きがミラーの死角に?】

 それと同時に、角田の動きも不用意だった。

 ローソンのマシンが右側に並びかけているにもかかわらず、右側にラインを寄せて1台分のスペースを残さなかった。タイヤ同士が接触する以前に、ローソンの左フロントタイヤが角田の右リアタイヤの前に重なってフロアをヒットしていたことからも、十分なスペースが残されていなかったことは明らかだ。

 ローソンの動きがミラーの死角に入っていた可能性もあるが、トウのなかで追いついてくるローソン車を見て、予測しておかなければならなかった。「抜き返してこない」という思い込みから、不用意な幅寄せにつながってしまったのだろう。

 なお、2周目のターン4で同じようにランス・ストロール(アストンマーティン)を押し出したエステバン・オコン(ハース)には、5秒加算ペナルティが科された。オコンほど厳しい幅寄せではなかったというスチュワード判断なのか、ターン5をカットしてローソンが前に出たためか、この件が審議対象にはならず角田にペナルティが科されなかったのは幸いだった。

 不用意な走りをしたという意味では、ローソンも角田も同じで、どちらにも接触の責任があったと言うべきだろう。

 いずれにしても、実質的に角田がこれでレースを失ってしまったのは事実だ。

「接触でマシンにかなりダメージを負ってしまい、ペースを失ったことで、僕のレースは台無しにされてしまいました。

特にダメージを受けた側(右側)はすごくグリップ感がない状態で、全体的にかなり難しくなっていました」

 ボルトレートやフェルナンド・アロンソ(アストンマーティン)の後方で入賞圏を争っていた角田だが、18周目にはアンドレア・キミ・アントネッリ(メルセデスAMG)に抜かれ、ピットストップではベアマンにアンダーカットを許し、実質11位までポジションを落としていた。

 それだけに、前に見えるボルトレートとベアマンがローソンを抜いて、どんどん離れていく状況に焦りがあったのかもしれない。

【入賞圏を争うことができたレース】

 レースペースのよかったアレクサンダー・アルボン(ウイリアムズ)やイザック・アジャ(レーシングブルズ)は、大きくポジションアップを果たして入賞している(アルボン=14番グリッド→決勝7位、アジャ=ピットレーンスタート→決勝10位)。序盤にポジションを争ったアントネッリは9位。

 フロアにダメージがなければポイントを獲得できていたのか、それはわからない。だが、彼らと入賞圏を争うことができたことは間違いない。今の角田に求められているのは、まさにそんなレースだったはずだ。

 そのことは、角田自身が一番よくわかっていると信じたい。

「予選ペースはどんどんよくなっていますし、Q2まではどのセッションでも、ショートランでコンスタントにマックス(・フェルスタッペン)の0.2秒以内にはいられました。

 フロアの差があったことを考えても、Q3ではああいう状況で大きくロスを強いられたことを考えても、よくなっていることは確かです。もちろんロングランはもっと改善の余地があると思いますけど、改善できると信じて戦い続けるしかないと思っています」

◆つづく>>

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