9月13日(土)から21日(日)まで開催される東京2025世界陸上。果たして、世界最高峰の舞台で日本人選手たちはどんなパフォーマンスを見せるのか。
●鈴木芽吹(トヨタ自動車)男子10000m
4月の日本選手権10000mを制した24歳の鈴木芽吹(トヨタ自動車)は、5月のアジア選手権で初のシニア日本代表となった。その舞台では勝負に徹し、最後までインドのガルビア・シンと激闘を繰り広げた。30度に迫る蒸し暑さのなか、日本選手権と同じようにロングスパートを仕掛けた鈴木は「ワンチャンスでしっかり勝ちにいこうと思った」と言う。しかし、ラストスパートはシンに分があり、鈴木は惜しくも2位に終わった。
とはいえ、銀メダル獲得の快挙。慣例としてスタッフから国旗を受け取ったものの、日の丸を広げる鈴木があまりにも悔しそうだった。もちろん写真撮影では笑顔を作っていたが、東京世界選手権の出場資格を得るためのワールドランキング(世界陸連制定)を上げるのに重要な一戦だっただけに、その心中は複雑だったに違いない。
鈴木は5000mでも出場の可能性があったが、7月の日本選手権では終盤の勝負所で転倒し、まさかの15位に終わっている。
不本意なレースが続いたが、それでも鈴木は前を向いた。そして、8月には海外のレースで好走を見せた。
結局、ワールドランキングの有効期間が終了した8月24日時点で、鈴木は出場圏外だった。だが、一度は潰えたかに思われたものの、ランキング上位者が出場を見送ったため、鈴木に出場資格が転がりこんできた。
打ちひしがれそうなレースが続いても、あきらめずに努力を重ねてきた鈴木が、最後の最後で報われて本当によかった。
男子10000mは日本勢の苦戦が続いており、入賞さえなかなか難しい現実がある。出場選手のなかでは持ちタイムは下位のほうかもしれないが、得意のロングスパートを炸裂させ、ひとつでも上の順位を目指してほしい。
●三浦龍司(SUBARU)男子3000m障害
2021年の東京五輪で7位、昨年のパリ五輪で8位とオリンピックで2大会連続の入賞を果たし、2023年の世界陸上選手権ブダペスト大会で6位。数々の"日本初"の快挙を成し遂げ、23歳の三浦龍司(SUBARU)は、男子3000m障害の日本の歴史を切り開いてきた。
三浦が新たな金字塔を建てたのが今年7月だった。ダイヤモンドリーグ・モナコ大会で自身の記録を一気に6秒も更新し、2年ぶりに日本記録を打ち立てた。その記録、8分03秒43は今季世界リスト3位だ。
記録もさることながら、レース内容も圧巻だった。ラスト1周で猛烈に追い込み、世界大会で連勝中の絶対王者、スフィアン・エルバカリ(モロッコ)にあと一歩まで迫った。この活躍に、我々メディアは沸き立った。"世界選手権のメダルが見えた"と思ったファンも多かっただろう。
だが、当事者はいたって冷静だった。
三浦を指導する順天堂大の長門俊介駅伝監督は「世界記録を狙って序盤から飛ばしたエルバカリが、記録が出ないとわかって、ペースを急に緩めたから」と解説してくれた。三浦自身も、手応えを口にしつつも「一発ではなくて、しっかりと(練習を)積み重ねたうえで再現できるように、脚作りをしていくことが必要」と気を引き締め直していた。
とはいえ、彼らが浮き足立っていないからこそ、こんな頼もしい発言と冷静な分析を聞いて、かえって期待したくもなった。
三浦に期待していること。それは、連続入賞はもちろん、その上のメダル獲得、そして夢の7分台とたくさんある。三浦ならば、いつかは成し遂げてくれると思うが、願わくば9月の東京であってほしい。
●小林香菜(大塚製薬)女子マラソン
たまたま早稲田大の校友向けのネット記事を目にして、小林香菜(大塚製薬)に注目するようになった。2024年1月の大阪国際女子マラソンで、当時大学4年だった小林は12位と健闘し、学生歴代3位となる2時間29分44秒の好記録をマーク。その記事では、早稲田ホノルルマラソン完走会というランニングサークル出身ながら、実業団選手としてのキャリアをスタートさせた小林が決意を語っていた。
おそらく大塚製薬に入社して間もない時期の記事だが、「将来的には世界レベルの走りができる選手になりたい」ときっぱりと口にしていた。サークル出身の選手が実業団で競技を続けること自体快挙と言えそうだが、小林は自身を客観的に見つめつつも、その時点で世界を見据えていた。
それから、あれよあれよと言う間にスターダムに駆け上がり、今年の大阪国際女子マラソンでは前年をさらに上回る活躍を見せ、日本歴代10位となる2時間21分19秒で日本人トップの2位と躍進し、世界選手権の女子マラソン日本代表に選出された。
失礼ながら決して速そうには見えないフォームだが、高速ピッチが大きな武器だ。暑さへの対応に読めない部分もあるものの、学生時代には100kmマラソンを走ったり、山小屋研究会という登山サークルにも所属し槍ヶ岳や日本アルプスなどに登っており、タフさを備えている。
まだまだ未知数の部分も大きいだけに、思わず期待したくなる選手だ。マイペースを刻んでいた小林が、レース終盤にかけて一人、また一人と抜き去って入賞ラインに入ってくる――そんなイメージが思い浮かぶ。