荒木雅博が今季台頭した二遊間を守る6人を解説(前編)

 プロ野球はまもなくペナントレースが終了し、クライマックスシリーズ日本シリーズと大詰めを迎えるが、今季を振り返って感じたことは、二遊間に新戦力が多く台頭したことだ。そこで近い将来、球界の顔になる可能性を秘めた二遊間を守る6人の選手をピックアップし、荒木雅博氏に評論してもらった。

まずは、プロ1年目から存在感を示した日本ハムの山縣秀、阪神の快進撃を支えた小幡竜平、そして育成出身ながらオールスターにまで上り詰めた西武の滝澤夏央の3人から聞いてみたい。

【プロ野球】二遊間に新星が続々出現! 荒木雅博が山縣秀、小幡...の画像はこちら >>

【意外性のある打撃も魅力】

── まずは「ガタシュー」こと、日本ハムのルーキー・山縣秀選手からお聞きできればと思います。

荒木 昨年のドラフトで日本ハムは指名した6人中5人が大型投手でしたが、そのなかで唯一の野手が山縣選手でした。早大学院から早稲田大に進むなど、勉学も優秀なんですね。

── 昨年8月31日、エスコンフィールドで行なわれた日本ハム対東京六大学選抜で山縣選手は三遊間の深いところからジャンピングスローでアウトにするなど、守備で魅せました。

荒木 守備だけなら、宗山塁(明治大→楽天ドラフト1位)と双璧の評価でした。プロ入りした当初は「守備は即戦力だが、1年間はファームで打撃を磨く」と聞いていましたが、予定を大幅に前倒しして4月15日に一軍デビューを果たしました。

── 山縣選手のプレーの印象はいかがですか。

荒木 ショートを守っていて、三塁後方のファウルフライをダイビングキャッチした映像を見たことがあります。スピードが落ちるどころか、加速しながらジャストタイミングで捕球したのには驚きました。相当の身体能力がなければできません。

── ゴロ捕球に関してはいかがですか。

荒木 打球への反応がよく、アクロバチックな捕球もしますね。

それに捕球してからのスローイングも正確です。ここまで83試合に出場して2失策なら、十分合格点を与えられますし、見ていて安定感があります。今後、ますます楽しみです。

── 荒木さんは中日のコーチ退任後、日本ハムの臨時コーチを務められました。

荒木 日本ハムには左投右打の二遊間が多くいますが、山縣選手は右投右打です。長打力があるわけではないですが、今季3本塁打と意外性があります。今後は奈良間大己選手との競争になるでしょうね。

── 荒木さんは山縣選手と会ったことがあるんですよね。

荒木 セ・パ交流戦で日本ハムが名古屋に来た時、あいさつに来てくれました。その時、山縣選手から「バントをうまく転がすコツは何ですか?」と聞かれたので、「大丈夫。やっていればうまくなるから」と答えました。山縣選手は童顔で無邪気な笑顔が印象的ですが、一方で身体能力を生かしたキレのあるプレーが特徴的です。

1年目とはいえ、守備レベルは十分に一軍レベルです。徐々に打撃を磨いていって、ポジションを奪ってもらいたいですね。

【今シーズン2度の1試合2本塁打】

── 今年、セ・リーグを圧倒的な強さで制した阪神ですが、小幡竜平選手が88試合に出場。小幡選手は延岡学園3年春に甲子園に出場し、夏の大会後に宮崎選抜として根尾昂選手(大阪桐蔭→中日ドラフト1位)たちがいた高校日本代表と試合を行ない、評価を高めました。

荒木 熊本工の1年先輩である田中秀太さんがスカウト時代(現在は阪神一軍内野守備・走塁コーチ)に獲得してきた選手です。

── 意識して見ていたのですね。

荒木 そうしたこともあって中日の二軍コーチ時代、ウエスタンリーグで小幡選手のプレーはよく見ていました。肩が強くて、ゴロさえしっかり捕球できればスローイングはもう間違いないという印象が強いです。

── それまで阪神の遊撃手は、中野拓夢選手、木浪聖也選手が務めていました。

荒木 小幡選手は、最初に一軍でプレーした頃は硬さがあったのですが、最近の彼を見ているとボディバランスがよくなってきましたね。硬さが取れて、ものすごいスピードで上達しています。

── 小幡選手の守備は、どこがどのようにうまいのですか。

荒木 以前は急いでプレーしているような感じでしたが、最近はライナージャンプのタイミング、球際の強さも出てきました。

今季の阪神の強さは、充実した先発投手陣、強力クリーンアップがクローズアップされますが、内野の守備力向上も大きな要因だと思います。

── 荒木さん、井端弘和さんの「アラ・イバ」と比較したらまだまだですが、中野選手と小幡選手の二遊間コンビは楽しみですね。

荒木 2023年に二塁手としてゴールデングラブ賞を受賞し、今季も広い守備範囲を見せている中野選手は、もともとは遊撃手です。そんな中野選手が隣にいて、ベンチのコーチよりも先にリアルタイムでアドバイスを送れることは、小幡選手にとって臨機応変なプレーを学ぶうえで大きいですね。私自身も井端さんからアドバイスを受けながら、04年から6年連続でゴールデングラブ賞を受賞することができました。

── 小幡選手ですが、打撃のほうでも力強さが増しています。

荒木 7月21日の巨人戦につづき、8月2日のヤクルト戦でも「1試合2本塁打」をマークしました。打つほうでも、これからが楽しみですね。

【スピード感抜群の守備力】

── 西武・滝澤夏央選手は育成ドラフト出身で、身長は現在プロ野球最小兵の164センチです。

荒木 滝澤選手のプレーを見て、まず思ったことは「スピードがめちゃくちゃあるな」ということでした。このスピードで打球を捕って、その後どういう体勢で投げるんだろうと思っていたのですが、ボディバランスがよく、送球も安定しています。

── 滝澤選手は内野ならどこでも守れるオールラウンダーです。

荒木 源田壮亮選手に代わってショートを守ったり、ほかにもサードもできますし、今季はセカンドでの出場機会が多かったですね。

── セカンドとショートにおける守りの最大の違いは何でしょうか?

荒木 セカンドはよほどボテボテの打球でない限り、待って捕球したとしても、一塁でアウトにできます。一方のショートは、スピードを持って前に出て捕球し、送球しないと間に合いません。ショートは前方へのダッシュ力が必要とされます。その点で、滝澤選手はどこのポジションを守ってもスピード感があり、守備範囲の大きさが特徴的です。

── 滝澤選手は俊足ではありますが、タイトルを狙う盗塁は多くありません。

荒木 滝澤選手が完全にレギュラーに定着し、打撃をより磨いて、出塁率を上げていけば、盗塁王の可能性は十分にあります。

── いつも一生懸命なプレーが魅力です。

荒木 今年は前半戦の活躍が認められ、オールスターに初選出されました。育成から競争を勝ち抜くのは大変ですが、滝澤選手の活躍はほかの育成選手に勇気を与えたと思います。

つづく>>


荒木雅博(あらき・まさひろ)/1977年9月13日、熊本県生まれ。熊本工高から95年ドラフト1位で中日に入団。

02年からレギュラーに定着し、落合博満監督となった04年から6年連続ゴールデングラブ賞を受賞するなど、チームの中心選手として活躍。とくに井端弘和との「アラ・イバ」コンビは中日黄金期の象徴となった。17年にプロ通算2000安打を達成し、翌18年に現役を引退した。引退後は中日のコーチとして23年まで指導し、24年から解説者として新たなスタートを切った

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