【都市対抗野球でチームを優勝に導いた右腕】

 2025年のプロ野球日本シリーズを残すのみとなり、10月23日に迫るドラフト会議をはじめ、ストーブリーグの話題がメディアを賑わせるようになった。

 運命の日に先立ち、社会人野球の日本一を決める都市対抗野球大会が今年8月28日から9月8日にかけて東京ドームで開催され、注目選手たちがその実力を見せつけた。

 愛知県勢同士の顔合わせとなった決勝では、三菱自動車岡崎に2-1で競り勝った王子が21年ぶり2度目の優勝を掴んだ。

王子が最小リードで迎えた最終回のマウンドでは、25歳の苦労人、九谷瑠(くたに・りゅう)が躍動した。

【ドラフト】元とんかつ店勤務の25歳右腕や、大阪桐蔭「最強世...の画像はこちら >>

 滋賀県立堅田高、大阪大谷大を経て、昨季までの3年間は愛知県のクラブチーム「矢場とんブースターズ」に在籍。昼間は矢場とんの店舗で接客に励みながら練習に精を出し、2023年の全日本クラブ野球選手権ではチーム最高成績の準優勝に貢献。さらなるレベルアップを求めて、昨年オフに王子の門を叩いた。

「体幹に力を入れ、力強いボールが投げられるように」と取り入れた、特徴的なワインドアップから繰り出される速球は、この1年間で3キロ伸びて最速153キロに。ウエイトや胸郭の柔軟性を鍛えるトレーニングに力を注ぎ、スライダーやチェンジアップにも磨きをかけた。そしてチームも、愛知県予選で都市対抗野球最後の切符となる第六代表の座をつかむと、勢いそのままに本戦でも力強い戦いを見せ、トーナメントを勝ち進んだ。

「連戦を投げるためにずっと練習してきたので、その成果が生きたと思う」

 そう話す九谷は、都市対抗野球の大舞台で、2先発を含む4戦に登板して3勝をマーク。決勝では6回から4イニングを無失点。味方が逆転した直後の8回には3連続三振を奪うと、最終回も3者凡退に抑え、目標にしていた橋戸賞(最優秀選手賞)を獲得した。

「最後はこの場所にいられることを楽しむだけだと思っていたので、あまり重圧を感じず、粘り強く投げたことがかえって結果に結びつきました。

 昨年はテレビで見ていた舞台に立てていることが本当にうれしい。

プロに行きたい気持ちはありますが、まだまだ成長しないといけないところもたくさんあるので、今後はその課題にじっくり向き合っていきたいです」

大阪桐蔭の「最強世代」、今季に覚醒した捕手も】

 同じく、夏の都市対抗野球で安定した投球を見せ、ネット裏の評価を上げたのが、鷺宮製作所の竹丸和幸(たけまる・かずゆき)だ。広島の崇徳高校、城西大学を経て社会人に進んだサウスポーは、球の出どころが見えにくいスリークォーターから繰り出される最速152キロの速球と、キレ味鋭いチェンジアップを武器に活躍。チームとしては3年ぶりの本大会出場に貢献した。

「本当は高校で野球を辞めるつもりでしたが、大学、社会人とオファーが届いたので、流れで野球を続けてきた部分もありました。『きっとプロ選手にはなれないだろう』と思っていたので、(ドラフト注目候補と言われることに)不思議な感じもありますが、もしチャンスがあるのならプロに行きたいです」

 竹丸は本戦でも、TDKを相手に6回1失点、8奪三振の好投でチームの勝利を手繰り寄せた。

 その竹丸から、続く準々決勝の初回に3ラン本塁打を放ったのが、日本生命の好打者、山田健太(やまだ・けんた)だ。根尾昂(中日)らと甲子園で春夏制覇を成し遂げた大阪桐蔭の「最強世代」の内野手だ。山田は竹丸がマウンドを降りた8回にもソロ本塁打を放ち、チームを勝利に導いた。

 その山田は「(日本生命は立教大時代にドラフト指名漏れを経験して)どん底の時に声をかけてくださったチームなので、『恩返しをしたい』という思いで戦っている。(本塁打を)2本も打てて本当にうれしいですし、バッティングが楽しかったです」と振り返った。

 山田と同じく高校時代から注目を集めてきたENEOSの正捕手、有馬諒(ありま・りょう)もドラフト解禁年を迎える。

 近江高校時代には、楽天で今季一軍デビューを果たした林優樹とバッテリーを組み、計3度の甲子園出場を果たし、3年夏(2018年)には準々決勝に進出。

その年は吉田輝星(オリックス)率いる金足農業に2ランスクイズでサヨナラ負けを喫し、涙を飲んだ。

 その後は関西大学に進み、金丸夢斗(中日)らとバッテリーを組むと、リーグベストナインを4度獲得。安定した守備で存在感を示し、侍ジャパン大学代表にも選出されたが、プロからの声はかからずENEOSに進んだ。

 昨季はチームの厚い選手層に阻まれ、本戦は途中出場のわずか1試合のみに終わったが、今季は正捕手のポジションをつかむと、わずか2枠の西関東二次予選制覇に貢献。チームは第1代表で本戦進出を決めた。

 本大会では、初戦でJR西日本と対戦。5番で出場した有馬は3回2アウト1、2塁からレフト前に勝ち越しタイムリーを放ち、定評のある守備に加えて打撃力も見せ、チームを勝利(6-2)に導いた。

 その試合後に昨季との違いや、プレッシャーについて問われ、「『自分が正捕手としてやってやる』という気持ちは強いですが、どちらかといえば、素晴らしい選手が揃う捕手陣の代表として、投手の皆さんとのバッテリーで試合に臨んでいるような感覚です。気負って自分のプレーができなくなるような緊張感はありません」と気持ちの強さを覗かせる場面もあった。

「(正捕手は)自分で勝ち取った部分も、周りの方のおかげで試合に出られているところもあると思います。周囲の皆さんに対する感謝の思いは忘れずに、このような舞台に立てることに感謝しながらプレーしたい。今は(自身のドラフト指名については)まったく頭になくて、チームの勝利のことしか考えられていません。

 打撃や肩の強さといった、捕手に求められる役割はある程度こなせる自信はありますが、捕手として一番大切なのはチームが勝つこと。そういった点も重視していきたいです」

 そう次戦以降への意欲を見せたが、終盤までロースコアが続いたJFE東日本との2回戦で、延長11回タイブレークの末にサヨナラ負け(1-2)。3年ぶりの準々決勝進出、2022年以来の黒獅子旗(優勝旗)獲得には至らなかった。その悔しさを、NPBで晴らすチャンスは訪れるのか。

 昨年のドラフト会議は社会人野球から14名が指名(支配下のみ)を受けたが、今年は何人の選手に歓喜の瞬間が訪れるのか。その行方をじっくりと見守りたい。

編集部おすすめ