ダービージョッキー
大西直宏が読む「3連単のヒモ穴」
――秋のGIシリーズは今週、東京競馬場へと舞台を移してGI天皇賞・秋(11月2日/東京・芝2000m)が行なわれます。
大西直宏(以下、大西)例年10月末に行なわれる天皇賞・秋ですが、今年は第4回東京開催が5週に拡大されて(通常は4週)11月にずれ込みました。
――現役時代を振り返って、思い出に残っている天皇賞・秋はありますか。
大西 ゴールドスペンサーとのコンビで参戦した1981年のレースです。最初で最後の天皇賞・秋での騎乗でした。
当時はまだ芝3200mの距離で行なわれていて、ホウヨウボーイとモンテプリンスの一騎打ちとなり、ホウヨウボーイがハナ差で勝利。ゴールドスペンサーはその2頭から離されての3着(6番人気)でした。
自分はデビューしたての若手だったので、天皇賞に乗れること自体、光栄でしたね。人気上位の馬とは少し力の差を感じていたのですが、道中では比較的冷静に運ぶことができて、最後の直線でも我ながらうまくさばくことができました。
3着という結果を出せて、非常にうれしかったのを覚えています。ただ、3連複や3連単がない時代でしたから、それほど話題にはなりませんでしたけど。
――1984年のグレード制導入後、芝3200mから芝2000mへと距離が短縮されました。近年の天皇賞・秋について、どうご覧になっていますか。
大西 ここ10年ぐらい特に感じているのですが、勝ちタイムがとにかく速いですよね。自分が現役時代の頃とは比較できないほどで、まさに隔世の感があります。馬場の整備やJRAが推し進めてきた改革が実を結んだこともありますし、血統レベルが大幅に更新され、育成技術が進化したこともその要因と言えるでしょう。
――東京・芝2000mは、スピードとスタミナ、瞬発力のすべてが要求されるコースと言われています。その舞台で行なわれる大一番とあって、毎年豪華な面々が集結しますが、今年の出走メンバーをご覧になっての印象を聞かせてください。
大西 芝2000mという王道条件は今の時代にマッチしていて、距離の融通が利くマイラーから中・長距離タイプまで、幅広い適性の馬がターゲットにしやすい舞台。そのため、例年現役トップクラスの好メンバーが顔をそろえるのでしょう。
今年に関しては、超一流馬こそ不在ですが、3歳から6歳までの各世代の実力馬がエントリー。勝つチャンスのある馬が多く、馬券的にも非常に面白い戦いになりそうです。
――そうなると、上位混戦と言えますが、現時点で大西さんが中心視しているのはどのあたりでしょうか。
大西 上位6~7頭の実力差はほとんどありません。枠順や馬場状態によって、着順がガラッと変わってきそうです。
同馬はまだ粗削りな面を残していますが、それでいてGI皐月賞(4月20日/中山・芝2000m)3着、GI日本ダービー(6月1日/東京・芝2400m)2着と、異なるクラシックの舞台で好勝負を演じているポテンシャルは、高く評価すべきだと思います。
3歳馬ながら、陣営が先週のGI菊花賞(京都・芝3000m)ではなく、この天皇賞・秋を選択したのは、距離適性だけでなく、"広く直線が長い東京コースでこそ"という舞台適性を重視しての采配でしょう。秋のGIシリーズで無双状態にあるクリストフ・ルメール騎手を鞍上に迎えることができた点も、大きな強調材料となります。
――では、そのルメール騎手を背にして初のGI制覇を狙うマスカレードボールを脅かす存在、波乱を演出しそうな伏兵候補はいますか。
大西(穴馬候補を)絞り込むのは簡単ではないのですが、あえて1頭挙げるとすれば、ホウオウビスケッツ(牡5歳)です。
過去10年で一度も馬券に絡んでいないように、データ的には6歳馬以上が不振。基本的に天皇賞・秋は、旬の勢い、フレッシュさが求められるレースです。それでも、ホウオウビスケッツは奥手のタイプ。今年になってから心身ともに充実し、競走馬として本格化したイメージがあります。昨年は3着に入りましたが、今年はそれ以上も十分に狙えるのではないかと思っています。
――具体的にはどういった点に好走のイメージを思い描いていますか。
大西 この馬は乗り方や展開に注文がついて、自分のリズムで運べないと脆さを露呈する類いですが、厩舎、牧場のスタッフ、コンビを組む岩田康誠騎手の間では、そのあたりは十分に共有できているはず。ここが秋の大目標であることは、ここまでのローテや調整方法にも反映されています。
前々走の休み明けのGⅡ札幌記念(7着。8月17日/札幌・芝2000m)は案外でしたが、前走のGⅡ毎日王冠(10月5日/東京・芝1800m)では2着と好走。そこから本番に臨むのは、昨年と同じです。
しかも今年は、開催日程の関係で中2週だった昨年よりも、(毎日王冠からの)レース間隔が中3週と広がっています。おかげで、この中間も過不足なく負荷をかけることができているのも好感が持てます。
今回はメイショウタバル(牡4歳)といったはっきりとした逃げ馬がいるため、鞍上の岩田康誠騎手の青写真としては、これに競り込むことなく、(同馬から)ちょうどいい距離をとって、2~3番手でリズムよく運んで虎視眈々と前をうかがう構えでしょう。
こうしたことから、前で運ぶ組ではホウオウビスケッツが最も残り目があると見て、同馬を天皇賞・秋の「ヒモ穴」に指名したいと思います。



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