蘇る名馬の真髄
連載第27回:テイエムオペラオー

かつて日本の競馬界を席巻した競走馬をモチーフとした育成シミュレーションゲーム『ウマ娘 プリティーダービー』(Cygames)。2021年のリリースと前後して、アニメ化や漫画連載もされるなど爆発的な人気を誇っている。

ここでは、そんな『ウマ娘』によって再び脚光を浴びている、往年の名馬たちをピックアップ。その活躍ぶりをあらためて紹介していきたい。第27回は、2000年に古馬の中・長距離GⅠを完全制覇したテイエムオペラオーにスポットを当てる。

『ウマ娘』ではコミカルな歌劇王ながら、競走馬のテイエムオペラ...の画像はこちら >>
 大仰なほどナルシストで、どこかコミカルな歌劇王――。公式プロフィールにそんな文言が記されているのは、『ウマ娘』のテイエムオペラオーである。

 モデルとなった競走馬のテイエムオペラオーは、1998年~2001年に現役生活を送り、GⅠ通算7勝の成績を残した。これは、当時の国内競走馬における歴代最多タイ記録。そして、同馬の総獲得賞金である18億3518万9000円は、2017年まで国内競走馬の歴代1位だった。

 テイエムオペラオーが初めてGⅠを勝ったのは、4歳(現3歳。※2001年度から国際化の一環として、数え年から満年齢に変更。以下同)になった1999年4月。牡馬クラシック初戦のGI皐月賞(中山・芝2000m)で戴冠を遂げた。

その後も、牡馬三冠レースで上位争いを繰り広げたが、ふたつ目のタイトル獲得はならなかった。

 しかし翌年(2000年)、古馬になると完全に本格化。GⅡ京都記念(京都・芝2200m)、GⅡ阪神大賞典(阪神・芝3000m)と連勝すると、GⅠ天皇賞・春(京都・芝3200m)を快勝して2度目のGⅠ勝利を決めた。

 以降、GⅠ宝塚記念(阪神・芝2200m)、GⅡ京都大賞典(京都・芝2400m)、GⅠ天皇賞・秋(東京・芝2000m)、GⅠジャパンカップ(東京・芝2400m)と連戦連勝。ジャパンカップではライバルのメイショウドトウや、海外の強豪ファンタスティックライトとの叩き合いを制し、その完全無比な強さから「世紀末覇王」と形容されるようになっていった。

 この馬の戦績を振り返ると、後続をちぎるような派手な圧勝劇は決して多くない。先述のジャパンカップのようにクビ差の接戦で勝つレースも少なくなかった。だが、負けない。必ずゴール前ではライバルの前に出て、着差以上の強さを常に見せてきた。

 そんな「覇王」の底知れない能力を存分に示したのは、その年のフィナーレを飾るGⅠ有馬記念(中山・芝2500m)だった。

 年明けから怒涛の7連勝(うちGⅠ4勝)。このレースを勝てば、古馬の中・長距離GⅠをコンプリートする一戦。

テイエムオペラオーは、単勝1.7倍の断然人気でレースを迎えた。

 ところが、このグランプリではかつてないピンチに陥る。レース序盤で不利があり、ポジションを悪くした同馬は、3コーナー時点で16頭中12番手という位置取りに。しかも他馬にびっしりと囲まれ、前に上がっていくのも簡単ではない状況にあった。

 周知のとおり、中山競馬場の直線は短い。前にいる11頭のライバルをかわすのは、まさに至難の業。絶体絶命だったと言える。

 直線、残り200mを切った時点でもその絶望的な状況は変わらなかった。馬群の中にいる大本命馬を見て、テレビの実況アナウンサーも思わず「テイエムは来ないのか、テイエムは来ないのか」と繰り返す。さすがに今回は勝てないか――レースを見守る多くのファンもそう思ったことだろう。

 だが、ここから誰もがこの馬の底力を目の当たりにする。馬群の間にわずかなスペースを見つけたテイエムオペラオーは、猛烈な加速を見せて直線の急坂を駆け上がっていく。

先に13番人気の大穴ダイワテキサスが抜け出し、その外からメイショウドトウが迫ってくると、2頭の間を割るようにしてテイエムオペラオーがみるみると進出してきたのである。

「テイエムは来ないのか」。そう連呼していた実況が、途端に「テイエム来た、テイエム来た!」と何度も大絶叫するなか、テイエムオペラオーが一気に2頭をかわしてゴール。絶体絶命からの逆転勝利だった。

 前人未到のGI年間5勝。テイエムオペラオーの"震えるほどの強さ"を感じた、20世紀最後のグランプリだった。

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