侍ジャパンにその名を連ねてもう15年になる。

 スコアラーとして、バッテリーコーチとして、山本浩二小久保裕紀、稲葉篤紀、栗山英樹、そして井端弘和と、これまで5人の日本代表の監督に寄り添ってきた。

プレミア12、ワールド・ベースボール・クラシックWBC)、オリンピックとあらゆる野球の国際大会に欠かせない存在──それが村田善則だ。

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【データの先に感性がある】

「2012年、山本浩二さんが監督を務めていた時からなので、日本代表チームに関わるのは15年目になります。侍ジャパンがその都度、チームとして集まった時、何から手をつけるのかというところは自分のなかに明確なノウハウがあるので、そこは続けてきたことのメリットなのかなと思います。

 経験があればゼロからのスタートではなくなりますから、ミーティングでもコーチという立場を超えた発言をすることもありました。ただ、僕は稲葉さんとは同じチームになったことがないし、栗山さんとはほぼ会話もしたことがなかったので、なぜ僕に声をかけてくれたのか、そこは正直、わからないんですよね(苦笑)」

 侍ジャパンでもNPBの12球団でも、この国の野球界は総じて監督があまりに偉すぎる。だから監督が代わると前の体制が一掃されて、受け継ぐべきチームのカルチャーも消えてしまうことは珍しくない。

 最近は、遅まきながら日本にもGM制が敷かれるようになり、チームづくりの幹を継承しようという風潮も出てきた。侍ジャパンも然りで、以前はせっかく経験した勝つためのノウハウが、監督が代わるたびに分断されていた時代があった。

 しかし井端監督が栗山前監督に頻繁に電話をして相談するなど、侍ジャパンの遺伝子はきちんと受け継がれるようになってきた。そのうちの重要な一端を担っているのが村田であることは、疑う余地がない。国際試合とはそれほど独特な戦い方を必要とするのだろうか。村田はこう話す。

「国際大会の試合は、たとえばジャイアンツのシーズン中の試合とは戦い方がまったく違います。

1年というスパンのシーズンなら自チームの選手や相手の選手の特徴、調子の良し悪しまでも十分わかったうえで試合に臨めるんですが、国際試合はそうはいきません。相手を知って、自チームのピッチャーのこともよく知って臨む戦い方と、情報が少ないなかで白紙から積み上げていく戦い方はまったく違うんです。

 そういう意味で、国際試合でのカギを握るのはデータです。相手バッターしかり、ジャパンに入ってくるピッチャーしかり、いろいろな方向でキャッチャーとしてのチャンネルを切り替えていかないと積み上げていくのは難しいんです。だから、まずはしっかりした情報、データを頭に入れていく。その作業があっての先に感性が生まれますからね。

 ダル(ダルビッシュ有)とも話しましたが、確かにデータやピッチクロック、ピッチコムと感性は相性がよくない。ただ、いちばん近くて見ているキャッチャーがある程度の時間をかけ、配球的にも臨機応変に対応しながら感性を大事にするのが、日本の野球のよさだと言うところはダルも言っていました。僕もそう思いますし、データは大事にしながら、それがすべてではなく、その日のピッチャーの調子や、データと違って思ったよりもこうだなぁというキャッチャーの感性も大切にしようと......つまりは感性とデータはゼロ百の話じゃないと思っています」

【二番手捕手として養った観察眼】

 1992年のドラフト会議で、佐世保実業高校のキャッチャーだった村田は、星稜高校の松井秀喜とともにジャイアンツから指名された(松井は1位、村田は5位)。3年の夏には主将として甲子園へ出場、松井の5敬遠に日本中が震撼する星稜対明徳義塾の試合が行なわれた同じ日の第1試合、常総学院を相手に延長10回、村田がサヨナラスクイズを決めている。

 プロ入り後はジャイアンツ一筋で16年プレー、村田真一がマスクを被り続けていた1990年代には出場機会に恵まれなかったが、2000年に76試合に出場してレギュラーをつかみかけた。

 しかし、そのタイミングで阿部慎之助が入団。結果、村田は現役時代のほとんどを一軍での二番手キャッチャーとして過ごすことになる。

そんなベンチから野球を見続けた村田の観察眼が引退してからの彼の武器になるのだから、村田の野球人生、じつに味わいがある。

「今は本当にたくさんのデータがありますが、国際試合ではそのすべてを頭に入れるということは考えないほうがいいと思っています。もちろんキャッチャーとして、まず相手バッターのことは必要なことの要点をつかんで覚えなければなりません。

 さらに日本代表のピッチャーは普段、受けている相手ではないので、そのあたり、ブルペンで受けるのと試合で受けるのとでは違う感覚になることもあります。だからデータと感性、ブルペンと試合、今日の調子の良し悪しの見極めなども含めて、いろいろなものの組み合わせが必要になってくると思います」

【寛容力があって懐の深いキャッチャー陣】

 村田にとって、ユニフォームを着てコーチという立場で戦うWBCは2017年、2023年に次いで、今回が3度目(2013年はスコアラー)となる。

 2017年の第3回WBCは小久保が監督を務め、キャッチャーは大野奨太炭谷銀仁朗小林誠司の3人。2023年の栗山監督のもとでは甲斐拓也大城卓三中村悠平の3人。そして今回、井端監督が選んだキャッチャーは坂本誠志郎、若月健矢、中村の3人だ。ジャパンのキャッチャーに求められる素養を、村田はどう考えているのだろう。

「みんな、日本代表に選ばれるほどのキャッチャーです。それぞれのチームではレギュラークラスですし、キャリアも積んできて、キャッチャーとしての何らかの武器を持っている。WBCだからといって技術的なことで新たに求めることは何もありません。

ただ相手の情報が少なくて、まだ何も頭に入っていない状態から短い期間でデータを頭に入れて柔軟に対応しなければなりませんから、そこは懐の深さが求められるかもしれませんね。

 あとは他球団のピッチャーの特徴をつかむこと、大きなプレッシャーのなかで力を発揮することも必要でしょう。最近はガーッと引っ張るタイプのキャッチャーより、寛容力があって、いろんなタイプのピッチャーにも対応できる、そういうキャッチャーが日本代表に選ばれてきているような気がします」

 今回のキャッチャーを年齢順に挙げていくと、1990年生まれの中村、1993年生まれの坂本、1995年生まれの若月ということになる。井端監督は若月、坂本、中村の3人の起用法について、東京ドームの1次ラウンドでは先発ピッチャーごとに担当制を敷く意向だと報じられている。

 3月6日の台湾戦は山本由伸、3月7日の韓国戦は菊池雄星、3月8日のオーストラリア戦は菅野智之と、3人のメジャーリーガーが先発するとしたら、オリックス時代の山本を知る若月が台湾戦、誰と組んでもピッチャーの持ち味を引き出せる坂本が菊地と組んで韓国戦、同じセ・リーグで長く対戦してきた菅野と中村がオーストラリア戦、ということになるのだろうか。村田が続ける。

「ムーチョ(中村)に関しては、前回のWBCの経験もありますし、どういう役回りでもこなしてくれる選手なので、先発でも途中からでも行ってくれる柔軟な役割を期待しています。今回、初戦で投げる予定のピッチャー(山本)を数多く受けてきたのは若月で、坂本には誰をまかせても大丈夫だという安定感があります。3人とも寛容力があって、懐の深いキャッチャーですから、試合に応じて、投げるピッチャーによって臨機応変に......今回の3人は、打つことよりも守備優先で戦うためのキャッチャーだというふうに、僕は思ってます」

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