多くの野球ファンに周知されているように、大阪桐蔭は全国から腕自慢のエリートが集まる高校球界屈指の名門である。部員全員がプロ野球選手を目指していても不思議ではないが、意外にも「社会人野球選手」を志す選手が多い。

【高校野球】大阪桐蔭なのにプロ志望じゃない⁉︎ 将来の夢に...の画像はこちら >>

【父も兄も社会人野球でプレー】

 選抜高校野球大会(センバツ)の大会主催社が実施したアンケートによると、大阪桐蔭のベンチ入りメンバー20人のうち、将来の夢を「社会人野球選手」と回答した選手は5人もいた(「プロ野球選手」もしくは「メジャーリーガー」と回答した選手は11人)。

 社会人野球は日本のアマチュア最高峰のカテゴリーだが、高校野球と比べると注目度はガクッと落ちる。一般的な高校球児なら、社会人野球がどんな世界なのか、どんなチームがあるかも知らないだろう。

 高校球界トップクラスである大阪桐蔭の選手が社会人野球を目指すのは、アマチュア球界全体の発展を考えても意義深いのではないか。そう感じた筆者は、大阪桐蔭の社会人志望5選手に話を聞くことにした。

 内海竣太(うつみ・しゅんた/3年)は、高校1年秋から大阪桐蔭のレギュラーを張る主力選手。今春のセンバツでは背番号9をつけ、3番打者をまかされている。そんな内海も、将来の夢は「社会人野球選手」だという。

「アマチュアの一番高いレベルを目指しています。中学までは『大学野球をやりたい』という思いを持っていたんですけど、今は大学で結果を残して、社会人でやりたいと気持ちが変わりました」

 内海は広島県出身で、兄の壮太(Honda鈴鹿)、優太(明治大4年)との「内海3兄弟」の三男として知られる。父・将人さんは名門・東芝でプレーした、元社会人野球選手だった。幼少期から将人さんに「社会人は面白いよ」と聞かされていたという。

 内海は大阪桐蔭に入学するまで、じつは大卒でのプロ入りを希望していた。

だが、大阪桐蔭でハイレベルな野球を経験するうちに、心境の変化が起きたという。

「桐蔭に入って、プロがいかに厳しい世界なのかわかりました。オフになるとOBの選手が練習に来てくれるんですけど、プロの力に圧倒されました。森友哉さん(オリックス)や中村剛也さん(西武)のバッティングを見せてもらって、自分たちとは全然違うなと感じました」

【プロに行けるのはほんのひと握り】

 大阪桐蔭では、社会人野球を身近に感じられるイベントがある。毎年秋になると、京セラドーム大阪で開催される社会人日本選手権の観戦に訪れるのだ。

 背番号14の左投手・小川蒼介(3年)は、そこで「社会人でやりたい」という思いを抱いたと語る。

「日本選手権を見て、プロとは違ったタイプの投手が活躍していることがわかりました。自分もこんなふうに試合をつくれる投手になりたいと思ったんです」

 チーム内にはプロ注目の吉岡貫介(3年)や川本晴大(はると/2年)という逸材投手がいる。ハイレベルなチーム内競争を戦ううちに、現実を思い知らされる側面もある。

 背番号5をつける内野手の大津昴偉留(あいる/3年)は、大阪桐蔭の選手ならではの本音を明かしてくれた。

「プロに行けるのは川本とか吉岡のような選手で、ほんのひと握りです。自分たちは今後チャンスがあればわからないですけど、高校からでは届かないなと。今は大学から社会人へ行くルートを目指しています」

 プロというあまりに高い壁を前に、絶望する選手が続出しても不思議ではないように思える。

しかし、大阪桐蔭の選手が社会人野球に価値を見出せるのは、西谷浩一監督の教えが大きい。

 前出の大津はこう証言する。

「西谷先生がよく言うんです。『30歳まで野球ができたらすごいことだ』と。自分も同じ考えなので、そこを目指しています」

 背番号3の岡安凌玖(りく/3年)も社会人志望のひとりだが、野球雑誌が以前に実施した別のアンケートでは、将来の夢について「プロ野球選手」と回答していた。この変遷について聞くと、岡安は気まずそうに苦笑しつつ、こう答えた。

「その時の気分でプロと書いてしまったんですけど......ちょっと調子に乗っていました。でも、野球をやっている以上、常に上を目指してやっていきたい思いがあります。社会人野球への思いは、小さい頃からありました」

 岡安は愛知県豊田市出身。社会人屈指の強豪・トヨタ自動車のお膝元である。周りには野球部関係者が多く、岡安が社会人野球に触れる機会も多かった。

「社会人はレベルが高いし、トーナメントで負けられないという意味では高校野球と似ています。

自分はファーストを守っていますけど、社会人のファーストは本当にうまいです。難しいバウンドでも、ハンドリングでうまくさばいてしまいますから」

【大阪桐蔭に来て知った社会人野球の世界】

 社会人野球の魅力をとくに熱っぽく語ってくれたのが、背番号12の控え捕手・水侍孝太(みずし・こうた/3年)だった。

「高校野球は気持ちを前面に出して、ガツガツしたプレーをするのが魅力だと思います。社会人野球は落ち着きがあるなかで、覇気がある。どんなピンチの場面でも、いつもどおりのプレーができます。高校生の自分たちからすると、『いつもどおり』のプレーをすることがいかに難しいかを痛感しているので、社会人の選手たちはすごいです」

 水侍も西谷監督の教えを受け、「30歳を超えるまでレベルの高い野球をプレーしたい」という希望を持っている。昨秋の日本選手権では、大阪桐蔭OBの捕手、福井章吾(トヨタ自動車)のプレーに釘付けになった。

「福井さんは特別に肩が強いわけでも体が大きいわけでもないですが、ピッチャーを完全に操っていました。年齢差なんて関係なく、『自分を信じて放ってこい!』という雰囲気がありました。守っている姿に安心感がありましたし、同じ捕手として尊敬します」

 1学年上の投手だった中野大虎がENEOSに入社し、早くも登板機会を得ている。水侍は中野と電話で通話するなかで、社会人野球の世界を教わっているという。

「社会人野球は短い練習時間のなかで、いかに考えてやれるかが大事だと中野さんは言っていました。

自分たちもやらされる練習ではなく、常日頃から自分で考えて練習しないといけないと思わされました」

 現在はレギュラー捕手の藤田大翔(ひろと/3年)の後塵を拝しているが、もちろんこのまま「2番手」に甘んじるつもりはない。水侍は「ひたすらレギュラーを目指します」と宣言しつつ、こんな展望を語った。

「高校卒業後はいい大学で活躍して、いい企業チームに獲ってもらえるような選手になりたいです。桐蔭に来るまでは社会人野球の世界を知ることもなかったですけど、今の自分にとっては『レベルの高い社会人でやる』という夢は、大きなモチベーションになっています」

 プロ野球選手になることは、当然ながら難しい。一方で、アマ最高レベルの企業チームで野球を続けるのも、狭き門である。大阪桐蔭の選手たちは理想と現実の狭間で揺れながらも、自分にとって最高のステージで野球を続けるために戦っている。

編集部おすすめ