小椋藍インタビュー(前編)
全22戦で争う2026年のMotoGP第11戦ドイツGPを、日本人ライダーの小椋藍(SuperFile Trackhouse MotoGP Team/Aprilia)は2位表彰台で終えた。そして、年間ランキングを2位でシーズン中間地点を折り返した。
MotoGPに昇格して2年目の小椋は、このひとつ前の第10戦オランダGPでMotoGP初優勝を達成した。日本人が最高峰クラスで表彰台の頂点に立つのは、2004年の日本GPでポールポジションから独走勝利を果たした玉田誠以来だから、22年ぶりの快挙である。
この小椋の優勝は、偶然でもなければ、幸運が重なった結果でもない。まさに獲得するべくして獲得した真正のリザルトだ。シーズン初頭からの彼の走りを振り返ってみれば、この偉業を達成する土台は、すでにその時からできあがっていたことがわかる。開幕戦のタイGPでは、土曜のスプリント(決勝レースの半分の距離で行なわれるショートレース)と日曜の決勝をそれぞれ4位と5位というまずまずの結果で、小椋は最高峰クラス2年目のシーズンを走りだした。以後は多少の波はありながらも、持ち味の粘り強い追い上げで着々とポジションを上げてゆく戦いが続いた。
オートバイのロードレースといえば、ストレート区間でサイドバイサイドに並び、コーナー進入からのブレーキ勝負、あるいは地面に擦れるかというほどの深い旋回から立ち上がる加速区間でのオーバーテイク、といった手に汗握るスリリングなバトルが人気だ。
しかし、小椋の場合は、そのような激しいバトルになることが少ない。安定したラップタイムを刻みながら前のライダーにじわじわと接近してゆき、見定めた場所でスパッとオーバーテイクすると、あとはそのライダーを少しずつ、しかし着実に引き離して、さらに前をゆくライダーとの距離を詰めてゆく。
第5戦フランスGPの決勝レースでは、そんなふうに前のライダーたちをひとりずつ着実に処理して順位を上げてゆき、初表彰台となる3位を獲得した。
【優勝翌日は泰然自若とした様子】
一方で課題もある。グリッド位置を決定する予選の一発タイムだ。
ほかのライダーたちを凌駕する驚速タイムを出すことが難しく、どうしてもスプリントや決勝では中段グリッドあたりからのレース開始を強いられていた。だが、後方からのスタートでも安定感の高い走りで順位を上げてゆく小椋に対して、「もしも予選で上位グリッドを獲得できれば、レース序盤から先頭集団で争えるだろう」と見る欧州のレース関係者は少なくなかった。
そして第9戦チェコGPでは、ついに自身初となるポールポジションを獲得。土曜のスプリントと日曜の決勝は、ともに2位で終えた。次戦のオランダGPでは、ふたたび予選でフロントロー2番グリッドを獲得。土曜スプリントは2位で終え、翌日の日曜に行なわれた決勝レースで、ついに優勝を勝ち取った。
このように、劇的なMotoGP初優勝に至るまでの過程をつぶさに見てゆくと、そうなるだけの蓄積が続いてきたからこその好結果であったことがよくわかる。
「自分はMoto3では優勝できなかったんですが、もしもMoto3で勝っていたとすれば、Moto2で優勝した時にはMoto3の優勝よりもうれしいと感じていただろうし、その意味でMotoGPの優勝は、もちろんMoto2で優勝した時よりもうれしかったですね。
Moto2で優勝した時は、『その日、そのバイクでは、自分が世界一速かったんだ』と思ったのですが、MotoGPでは『自分が世界で一番速かった』という気持ちはより強く感じました」
同じアプリリアのマシンを駆るチャンピオン経験ライダー、ホルヘ・マルティン(Aprilia Racing)や、昨年度王者でMotoGPのタイトルを7回制したマルク・マルケス(Ducati Lenovo Team)を後方に従えて、誰よりも先に「世界一速い」ライダーとしてチェッカーフラッグを受けた気持ちは、さぞや格別だっただろう。
だが、世界の頂点を極めたそんなうれしさも、「次の日には、まあ、落ち着いていましたよね」という。そんな泰然自若とした様子が、いかにも小椋藍らしい。この落ち着きがコース上に反映されると、タイムの落ち幅が小さい安定したラップや、狙い澄ましたように目の前の選手を抜き去る鮮やかなオーバーテイクとして現れるのだろう。
【課題としてきた予選が大幅に改善】
優勝したオランダGPを終えた段階で、ランキングは首位から25ポイント差の4番手に浮上した。まだシーズン半ばとはいえ、日本人ライダーが年間ランキングでこのような位置にいるのは、久しく見なかった光景だ。
小椋自身は、今季ここまでの自分のパフォーマンスを「(開幕前に)思っていたよりもいい」と振り返る。ただ、何か特別なきっかけがあって好調な走りをできるようになったというわけではない、とも言う。
このチェコGPとオランダGPのリザルトを見るかぎり、課題としてきた予選が大幅に改善したようにも見える。だが、小椋によると、「別にそんなこともないですね」とあっさりした口調で述べる。
「だって、アッセンまでの10戦で予選を10回走って、よかったのはたった2回だけですからね。『よくなってきたな』とか『ここはもう改善できたな』とは、まだ感じられない。だから、予選は不安要素ではありますよね」
不安要素、と小椋自身は言うが、今年のアプリリア勢は総じて非常に高いパフォーマンスを発揮している。ファクトリーライダーのマルティンとマルコ・ベツェッキ、小椋とチームメイトのラウル・フェルナンデスは全員が好成績を収め、今季はすでに2度、アプリリアが表彰台を独占している。この圧倒的な好調さは、ライダーの調子とオートバイの調子がうまく噛み合っているからだろう、と小椋は説明する。
【アプリリアのライダー4人は全員好調】
「オートバイに関しては、たぶん、去年からちょっとずつよくなり続けていると思います。
実際、ラウルは去年から調子を上げてきて、今年は常に前で争っているし、去年ケガが多かったマルティンも、今年は自分が乗りたいように乗れているでしょうし。ベツェッキは去年から力を発揮していましたよね。だから、オートバイとライダーが4人同時に同タイミングで噛み合っている、ということだと思うんですよ」
同じアプリリアのバイクに乗る4人のライダー全員が揃って好成績を収めている、とはいっても、その4人はそれぞれライディングスタイルも好みのセットアップも異なる。それだけ許容度の幅が広いバイク、ということでもあるのだろう。
(つづく)
◆小椋藍・後編>>過去20年なかった「世界王者」にふさわしいメンタルの持ち主
【profile】
小椋 藍(おぐら・あい)
2001年1月26日、東京都清瀬市生まれ、埼玉県育ち。ポケバイからキャリアをスタートし、アジア・タレント・カップ等を経て2019年に世界選手権Moto3クラスへフル参戦。冷静沈着なライディングと高い修正能力を武器に頭角を現し、2021年からMoto2クラスへ昇格する。2022年にランキング2位となり、2024年にはMoto2クラスで世界チャンピオンに輝く。2025年から最高峰MotoGPクラスへステップアップし、アプリリアのサテライトチーム「トラックハウス・レーシング」に所属。2026年の第10戦オランダGPでMotoGP初優勝を果たした。日本人ライダーの最高峰クラス優勝は2004年の玉田誠以来22年ぶり。



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