元広島・田中広輔さんインタビュー 後編
(中編:田中広輔が語る"タナ・キク・マル"トリオと、3連覇のなかで「本当にしんどかった」シーズン>>)
広島東洋カープのリードオフマンとして、長く活躍した田中広輔氏が振り返る野球人生。そのインタビュー後編では、ケガに苦しんだ選手生活の晩年、今季の広島カープの戦いについても話が及んだ。
【ケガで生じた感覚のズレや怖さ】
――リーグを3連覇した翌年の2019年、右膝のケガがプレーに影響するようになっていったかと思います。不調に気づいたのはいつ頃ですか?
「最初に痛みを感じるようになったのは、2018年シーズンの終盤だったと思います。この年はリーグ優勝を成し遂げたあとに日米野球に出場して、シーズンの終盤まで野球を続けた1年でした。
最初は『膝が少し張っているな』くらいにしか思っていませんでしたが、翌春の自主トレ中に右膝を傷めてしまって。ケガをしていることがわかってからは、プレーに少し怖さが出るような感覚がありました」
――ケガの影響もあり、2019年の前半戦は打撃不振に陥りました。
「『試合に出るからには、しっかり結果を残さなければ』という思いもありましたが、痛みの影響で右足を強く踏み込むことができなくなってしまって......。右足を高く上げて打つ打撃の感覚に、少しずつズレが生じていきました。ケガを言い訳にしてはいけない気持ちはありましたけど、少なからず影響はあったと思いますし、思うようなプレーができない日々は本当につらかったですね」
――この2019年6月には、2015年4月から続いていたフルイニング連続出場記録が635試合でストップしてしまいました。その時はどのように感じましたか?
「『いずれ記録は止まるだろうな』とは思っていましたが、記録の更新がモチベーションになっていた部分があったので、途絶えたあとは『もう少しできたんじゃないか』『もっとこうすればよかったんじゃないか』と、ふとした時に考えてしまうことがありました」
【手術後の葛藤】
――同年の8月には、右膝半月板の手術を決断しましたね。
「試合で使ってもらっているうちは手術に踏み切るつもりはありませんでしたけど、手術をしないと治らないくらいに症状が悪化していたので、思いきって治療に専念することにしたんです」
――田中選手の抜けたショートのポジションは、ルーキーだった小園海斗選手ら、若手の選手が任されることになりました。歯がゆい思いなどもありましたか?
「レギュラーポジションを獲ることの大変さは、自分でも身に沁みてわかっていましたから、さほど怖さはありませんでした。『そんなにプロの世界は甘くないぞ。獲れるものなら獲ってみろ』という気持ちを秘めつつ、若手選手たちの活躍を見ていました。ただ、一方では『もしかすると、ここからまたレギュラーに返り咲くのは、想像以上に大変なことかもしれないな』という思いもありましたね」
――翌年、田中さんは選手会長になり、再びショートのレギュラーとして活躍します。
「ケガでレギュラーポジションを手放すことになってしまったので、『もう一度ケガをしてしまったら、選手生活は終わりかもしれない』という危機感や、『自分が今やれることを精一杯やるしかない』という覚悟を持って臨みましたね。
選手会長になってから、チームの状況をより客観的に見渡し、自身の置かれている立場を理解するようになった部分はあるかもしれません。翌年以降は先発で出場する機会が減ってしまって、気持ちを整理したり、野球に対するモチベーションを維持したりする難しさを感じることはありました。ただ、ベテランよりも若手の起用を優先せざるを得ないチーム事情は理解できましたし、目先の細かなことに一喜一憂しなくなったかもしれません」
――ベテランになるにつれて、二軍で過ごす時間も増えていったように思います。ご自身の役割の変化をどのように受け止め、モチベーションを維持していたんですか?
「正直なところ、気持ちを整える難しさはありました。周囲にはあまり見せないようにしていましたが、『これまでチームを勝たせてきて優勝にも貢献してきた自分は、ほかの選手に負けていないはず』というプライドのようなものが自分を支えていたかもしれません。
ファームの試合に出場し続けながら、誰にも不満を言われることがないような成績を残そうと心がけていました。『いつ一軍に呼ばれてもいいように』という思いで、諦めずに野球に取り組んでいました」
【12年の現役生活に悔いはある?】
――結果として現役最終年となった昨シーズンは、一軍ではわずか15試合の出場にとどまり、9月には構想外であることが伝えられました。昨年の夏頃はどのような気持ちでプレーしていたんですか?
「自分の置かれた境遇を考えると、(戦力外通告を)悟っていた部分もありましたけど、練習で腐った態度を見せてしまうと、若い選手たちに悪い影響を及ぼしてしまうと思っていました。『若手よりも元気に動けている姿を見せる』という気概を持つようにしていましたね。
9月初旬には、来季の構想外であることが伝えられましたけど、それ以降も『次のチャンスを掴めるように、最後までできる限りの結果を残そう』という思いで、ファーム戦への出場を続けました」
――しかし選手としてのオファーはなく、今年1月に現役引退を決断しました。12年間の選手生活を振り返って、やり残したことはありますか?
「リーグ3連覇も成し遂げ、盗塁王と最高出塁率のタイトル(2017年)も獲得しましたし、さまざまな経験をさせてもらった12年間でした。ただ、残した数字に関しては決して満足できるものではありません。
壮絶なストレスやプレッシャーを抱えつつ、数字に追われながらプレーを続け、すべてを野球に振り切って過ごしてきたので、『あの日々をもう一度過ごせるか』と言われたら、きっと無理なんじゃないかなと(苦笑)。自分が残した数字に寂しさは感じますが、悔いを残すことなく選手生活を終えられたのかなと思います」
【今年の広島の低迷の理由と、巻き返しのキーマン】
――田中さんが去った今季の広島は、ここまで33勝48敗4分の5位(7月21日時点)と、苦しいシーズンを過ごしています。田中さんは2026年シーズンの戦いぶりをどう見ていますか?
「新井貴浩監督は昨年から『(2026年は)変化の年。それに伴う痛みは生じる』と、若い選手の起用を明言していましたし、この世界で活躍することが甘くないことはわかっていたので、現状の成績に、特に驚きはありません。開幕前に想像していた状況とそこまで誤差はないように感じます」
――今季の広島は苦しんでいるものの、多くの若手選手が頭角を現しつつありますね。
「僕が現役最後のシーズンを過ごした昨年も、本当に多くの若手選手が一軍に上がり、チームの雰囲気も変わりつつありました。当時も『もう少し頑張れば、レギュラーになれるかもしれない』と思えるような選手がたくさんいましたが、まだ経験が浅く、数字的に苦しみながら一軍でプレーしている彼らの姿を見ると、自身の現役時代を思い出して感慨深くなる時もあります」
――期待を寄せている選手はいますか?
「もちろん、チームの全員に頑張ってほしいと思っていますが、5月に育成契約から支配下に登録された名原典彦選手や、数年前まで打撃で苦しんでいた持丸泰輝選手も、ようやく活躍できるようになってきましたね。二軍で一生懸命頑張っている姿を近くで見てきましたから、活躍するのを見るとやっぱりうれしいですよね」
――後半戦の巻き返しに向け、チームのキーマンを挙げるとしたら?
「広島に所属する日本人選手のなかで、もっとも本塁打が期待できる末包昇大選手の奮起に期待しています。今季はここまで一軍での出場がなく、二軍でもあまりいい成績を残せていません(ウエスタンリーグ61試合、打率.202、4本塁打、20打点。7月21日現在)が、一軍と二軍はまったく違うものです。
――ユニフォームを脱いだ田中さんは、解説者としてもご活躍されています。今年5月には野球人生を振り返った著書『赤き戦士からの感謝状 田中広輔』(ザメディアジョン)も発表されました。
「現役時代にあまり話してこなかった自分の弱い部分なども含め、素直な気持ちを綴っています。ただ勝つために12年間プレーしてきた思いが詰まっていると思います」
――最後になりますが、今後の活動や目標について聞かせてください。
「今は解説者として活動しつつ、社会人野球チームの活動にも携わっています。広島から自由契約になった際に、コーチのお話もいただいたので、もしかしたらそう遠くない未来に現場に戻る機会をいただけるかもしれませんが、しばらくはネット裏で野球を見守りながら、勉強を続けていきたいです」
【プロフィール】
■田中広輔(たなか・こうすけ)
1989年7月3日生まれ、神奈川県出身。東海大相模高から東海大、JR東日本を経て、2013年ドラフト3位で広島に入団。15年から遊撃手のレギュラーに定着し、翌年は1番打者に抜擢されてフルイニング出場を果たしてリーグ優勝に貢献した。17年は広島の遊撃手として史上初となる2年連続フルイニング出場を達成。最多盗塁と最高出塁率の2冠に輝いて連覇の原動力となった。2025年に戦力外通告を受けて退団。2026年1月17日に現役引退を発表した。
白鳥純一●取材・文text by Junichi Shiratori










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