この記事をまとめると
■ヒール&トゥはドライビングテクニックのひとつ■やり方や意味について詳しく解説
■現在はシフトダウン補助システムが実用化されている
シフトダウン時のクラッチミートをスムースに行うテクニック
マニュアルトランスミッションしかなかった時代のレーシングカーを操る上で、必要不可欠なドライビングテクニックがヒール&トゥだった。文字どおり、かかととつま先を使ってアクセルペダルとブレーキペダルを操作する、減速(ブレーキング)しながら同時にシフトダウンするテクニックである。この操作ができないと、確実に減速時間(距離)にロスが生じ、ライバルに遅れをとってしまうことになる。
さて、今さらおさらいになるが、このヒール&トゥのテクニックについて振り返ってみよう。わかりやすい例として、サーキット走行のこんな場面を思い浮かべて欲しい。最上位のギヤ(たとえば6速)を使いアクセル全開でストレートを走行。しかし、その後に続く第1コーナーは、当然ながら減速しなければ回れない。この時、ドライバーはどんな操作をするだろうか、ということである。
仮に、1コーナーが3速(の速度域)でしか回れない曲率だったとしよう。サーキット走行だから、1コーナーの減速に際してアクセルをオフによるエンジンブレーキだけの減速操作はあり得ない(これでは圧倒的に遅くなる)。フルアクセルの状態から瞬時にブレーキペダルに踏み替え、最大制動力で1コーナーの進入に適した速度にまで減速する。
問題はここからで、右足をアクセルペダルからブレーキペダルに踏み替え、ブレーキだけによる減速操作より、エンジンブレーキを併用したほうが、さらに減速効果は大きくなる。ただし、最大の制動性能を得るためには、右足はブレーキペタルを踏んだままにしておかなければならない。この状態で、エンジンブレーキを併用する方法はふたつしかない。
ひとつは、6速に固定したままブレーキングする方法だ。
言い換えれば、エンジン回転数と駆動輪の回転数が合わず、瞬間的に駆動輪をロックさせていることになるのだが、これではエンジンブレーキ併用して制動距離を短くすることはおろか、場合によっては駆動系やエンジンを傷めたり、駆動輪がロックすることで車両挙動を不安定にする弊害が生じてしまう。
こうした問題を解決する方法として考え出されたテクニックがヒール&トゥである。ヒール&トゥは、つま先でブレーキペダルを踏みながら、かかとでアクセルペダルを踏むことでエンジン回転数を調整。シフトダウン時のクラッチミートをスムースに行うレーシングテクニックである。
現在は「レブマッチシステム」が実用化されている
ヒール&トゥは、ブレーキングとシフトダウン、ふたつの操作を同時に、かつ最大効率で行えるよう考え出されたテクニックで、最優先、最重視される操作がブレーキングだ。ブレーキの最大制動力で減速を行いながら、なおかつエンジンブレーキをうまく併用させることで制動性能を高めようとしたテクニックである。
では、ブレーキ操作を抜きにして、単純にシフトダウンの操作だけを考えてみよう。シフトダウンは、ギヤ比の高い走行ギヤからギヤ比の低い走行ギヤへと切り替える作業である。これをエンジン側から見ると、同じ速度での走行の場合、シフトダウンするとエンジン回転数は高くなることになる。
ヒール&トゥは、このシフトダウン時のアクセルの空ぶかしを行うテクニックで、ブレーキペタルの踏力コントロールほど、シビアな操作は要求されない。大ざっぱな言い方だが、ギヤ比の低いギヤに切り替える場合、エンジン回転数は適当に高めるだけでよく、一瞬の空ぶかしだからエンジン回転数もすぐに落ちてくる。逆に、一瞬「ブワン」とエンジン回転数が高くなった状態でクラッチペタルを戻すと、ちょうどよい感じでギヤはつながってくれる。
ブレーキペダルを最大減速Gが得られる踏力でコントロールしながら、同時にスムースなシフトダウン操作は、人によって難易度は異なるが、最近は、ドライバーはブレーキング操作に専念し、シフトダウン時の回転合わせは機械に任せるMT車のシフトダウン補助システム「レブマッチシステム」が実用化されている。シフトダウン時、クラッチペダルを踏んでいる間にシステムがエンジン回転数(ブリッピング、瞬間の空ぶかし)を調整し、ドライバーはクラッチペダルを離すだけでスムースなシフトダウンができるハイテクメカニズムだ。
さて、このヒール&トゥだが、これまで説明してきたことからも明らかなように、ブレーキを全制動で使う環境で初めて有効になるテクニックで、シフトダウンの必要がない速度変化幅や、緩制動時には不要な(というより使いにくい)テクニックとなってしまう。また、レブマッチシステムだが、誰にでもMT車を容易に操れるようにしたシステムとして高く評価できるが、そもそも現状のMTが、もはや運転を楽しむ方式としてその立ち位置を変えている以上、ヒール&トゥもMT派のユーザーに委ねるべきテクニックとして、果たして機械の介入が正解なのかどうか、大いに疑問でもある。

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