この記事をまとめると
■ロールス・ロイスはオープンモデルをドロップヘッドクーペと呼んでいる



■ドロップヘッドクーペという名称はコーチビルダーによるボディ架装まで遡れる



■そのほか、フィクスドヘッドクーペ、ブロアム、セダンカ、ボートテールなどの独特な呼称も使用する



起源は幌馬車の時代まで遡るドロップヘッドクーペ

ドロップヘッドクーペといえば、近年ではロールス・ロイス・ファントムをベースとしたオープンカーを思い起こすはず。「Drop Head Coupe」、すなわち屋根を下せるクーペということになりますが、なんだか大げさな言いまわしに聞こえるのは筆者だけでしょうか。



ドロップヘッドクーペってどんなクルマ? さすが「ロールス・ロ...の画像はこちら >>



だいたいソフトトップを用いたオープンモデルはコンバーチブルやカブリオレといったネーミングが一般的でしょう。

ロールス・ロイスがドロップヘッドクーペという名前を使うのは、同社の歴史と深く関りがあり、じつは設立以来の馴染みある呼称でもあるのです。



ざっくり説明すると、ロールス・ロイスは設立当初はシャシーだけを製造し、ボディはコーチビルダーという他社に任せていました。このコーチビルダーというのは、クルマの前は馬車のボディを作っていたファクトリーで、オーナーから「馬二頭立てふたり乗り」とか「4頭引き4人乗り」といった注文を受けていたわけです。有名どころではヘンリー・ジャーヴィス・マリナー(H.J.マリナー)、パークウォード、バーカー、スラップ&メイバリーなどなど。



ドロップヘッドクーペってどんなクルマ? さすが「ロールス・ロイス」独特の言い回しだらけだった



こうしたコーチビルダーにロールス・ロイスなり、ベントレーなりのシャシーに架装するボディを注文すると、「ところで、屋根はいかがいたしましょうか、伯爵様」などと聞かれ、その際は「ドロップヘッドでプリーズ」みたいに注文していたのかと。で、コンバーチブルやカブリオレと違うのは、リッチ&ゴージャスな内張や骨組みがしっかり作られているところ。ペラペラなビニールや、簡素な雨除け幌というのは、少なくともコーチビルダーの作品には見当たりません。



ところで、ドロップヘッドクーペ本来の姿は屋根を畳んでいないのがデフォルトです。コーチ(客車)ビルドというくらいですから、馬車に架装する客車はそもそもがクローズドボディ。庶民は西部劇でおなじみのオープンボディか、屋根があっても粗末な幌がいいところ。そんな頃にしっかりした客車(コーチ)を架装できるのはまさに「上流階級の証し」で、しかも屋根が下せるドロップヘッドはこの上もない贅沢だったに違いありません。とはいえ、人品骨柄卑しからざる金持ちは「見せびらかし」を嫌うもの。

それゆえ、普段は慎ましく屋根を閉じていたのではないでしょうか。



ドロップヘッドクーペってどんなクルマ? さすが「ロールス・ロイス」独特の言い回しだらけだった



また、ドロップヘッドクーペはロールス・ロイスと馴染み深いと述べましたが、当然ベントレーやロータス(初代エラン)、ジャガー(XK150)、あるいはMGといった英国メーカーはことごとく採用しています。コーチビルダーに依頼したものばかりではありませんが、その流れを汲んでいることは明らかでしょう。



現在、ロールス・ロイスは「コーチビルド部門を復活させた」としていますが、これは1936年にパークウォードを買収するなど、自社でスペシャルなボディを架装できるようにしていたことを受けての表現でしょう。加えてベントレーのスペシャルオーダー部門が「マリナー」とされているのも、H.J.マリナーの商標、ブランドを用いたものであること言うまでもありませんね。



ドロップヘッドクーペだけじゃない独特ないいまわし

なお、ドロップヘッドクーペの反対にFHC:フィクスドヘッドクーペ(Fixed Head Coupe)という面倒なスタイルもあります。こちらは畳める屋根ではなく、オープンボディにハードな屋根をくっつけたもの。



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「それ、普通のクーペでいんじゃね」と突っ込みたくなるところですが、イギリス特有のややこしい表現というかセンスでしょう。この屋根は、一見取り外しできそうに見えるのですが、Fixed(固定、不動)というくらいなので外そうったって外せません。FHCの良さは、やはりイギリス人でないと理解不能かもしれませんね。



そのほか、コーチビルダーにボディをオーダーする際、知っておくとよさそうなワードは「ブロアム」や「ドヴィル」、あるいは「ボートテール」「スウェップテール」などがあります。



ブロアム(Brougham)は屋根開きの運転席と後席キャビンが分離されているスタイル。

これも馬車の形態を引き継ぐものですが、最初にオーダーしたブロアム男爵にちなんで名づけられています。



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なお、運転席に取り外し可能な屋根を付けると「セダンカ」と呼ばれるスタイルに。似たような構造をポルシェがちゃっかりタルガと呼んでいますが、そのはるか昔からコーチビルダーは作っていたのですね。



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ドヴィル(De Ville)はフランス語で街とか都会みたいな意味で、これまたコーチビルダーが好んで使うネーミング。要は「おしゃれ」「スタイリッシュ」をアピールしていて、とくにボディスタイルやカラーリングなどに個性やこだわりを備えたいなら「ドヴィルに仕立てて、プリーズ」みたいに使うのがよろしいかと。



で、ボートとスウェップはボディのリヤスタイル(テール)を表現したもの。ボートはその名の通り、船尾を象ったもので上から見たら笹の葉みたいに絞られたもの。スウェップは、ボートより滑らかで、より収束感の強まった形状。2017年にロールスロイスが前述のコーチビルド部門でワンオフモデルを製作したのでご記憶の方もいらっしゃることでしょう。



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ロールスロイスに限らず、現代のプレミアムブランドは軒並みワンオフやコーチビルド部門を持っていますので、余裕があればぜひオーダーしてみてはいかがでしょう。ぜひ、知ったかぶってDHCとか、ドヴィル仕立てプリーズとか言って、素晴らしいワンオフをゲットしちゃってください!

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