この記事をまとめると
■オランダのドンカーブートはロータス・セブンをコピーしたような「S7」を製作・販売していた■進化を止めた本家に対してドンカーブートS7は進化を続け、1992年には第2世代のD8が誕生
■2022年には第3世代としてまったく新しいモデル「F22」を限定販売
ロータスのキットカー販売から始まったドンカーブートの歴史
ご承知のとおり、ロータス・セブンほどレプリカやフォロワーモデルが生まれたモデルはありません。一説によれば、世界を見まわすと50を超えるメーカーが存在するのだとか。
そのうち、本家というかロータスから正式に生産を引き継ぎ、正統的なセブンを作ってきたのはいうまでもなくケータハム。
そもそもドンカーブートは1978年にオランダで創業した小規模なファクトリーメーカー。当初はケータハム・セブンのキットカーを輸入販売していたのですが、オランダの安全基準が厳しくなると泣く泣く販売を中止。仕方がないから、というか(ケータハムのグラハム・ニーアン同様)セブンが好きで好きでたまらなかった創業者のヨープ・ドンカーブートは自らセブンのコピーを生産しはじめたのです。
そのころのモデルはS7(スーパーセブン)と車名からして亜流っぽいというか、パクリっぽい(笑)。実際、あか抜けないアルミホイールや手作り感あふれるFRPパーツなど、セブンの無骨さやスパルタンなテイストが少なめで、日本国内の販売もありましたがご苦労なさったのではないでしょうか。
とはいえ、1992年に発売された第2世代のD8になると、ドンカーブートの個性が少しずつ光りはじめます。フォードのZETECエンジンやターボ付コスワース、さらにはアウディ製1.8リッターターボエンジンなどでパワーアップしつつ、スペースフレームのシャシー作りも精度を保ちながら軽量化を進めるなど、パフォーマンスはケータハムをときに凌駕せんばかりのレベル。

また、ショートフェンダーやフロント開口部の改良などで、いくらかレーシーなスタイルを手に入れましたが、それでもどこかしら野暮ったい気がしてなりません(笑)。
もっとも、直感的に刃物のような鋭さを感じさせてくれるスポーツカーは、裏を返せば扱いづらさも見透かせるもの。創始者のヨープ・ドンカーブートはこうしたテイストを嫌い、極薄のアルミ板やリベット留めをこれ見よがしに使うといった「不安定要素」を排除していったといいます。

結果としてケータハムとは路線が重なることもなく、顧客を奪い合うような事態も避けられたとのこと。
いまや本家を超えた存在感を放つ最新モデル「F22」
投資家という面も併せ持つドンカーブート氏らしい戦略といえそうですが、2021年に事業を継いだ息子のデニスは父親とはいささか異なる人物。スポーツカービジネスに必要不可欠なようでいて、なにげに難しい経験、すなわちレースシーンでの輝かしい実績を伴っていたのです。むろん、彼のレースキャリアは自社のマシンを使ったもので、ヨーロッパでの活躍をはじめ、2011年にはドバイ24時間耐久レースで見事優勝をもぎとるなどドライバーとしての腕前も一流ということ疑いありません。
そんなデニスが第3世代となるドンカーブートを担った結果、2022年にまったく新しいマシン「F22」が爆誕。もはやセブンの面影は「あるっちゃあるけど」レベルにとどまり、どちらかといえば小ぶりなメガスーパーカーかのようなスタイリング。筆者のように昔のドンカーブートをイメージしていると、文字どおり度肝を抜かれるわけです。

それまで、ドンカーブートは軽量化と高品位なエンジン搭載を主とした開発を行っていましたが、デニスはさらにシャシーの剛性や精度の高さを加え、また運動性能の向上を目指したディメンジョンとパッケージングも積極的に導入。具体的にはEXコアカーボンと呼ばれる鋼管パイプフレームとカーボンパネルによる高剛性なシャシーや、ホイールベースの延長とそれに伴った前後バランスの最適化などが挙げられています。
その結果、D8シリーズに比べ捩じりと曲げ剛性がともに8%向上し、エンジンベイを含めたフロントセクションの容積拡大によるパッシブセーフティ、乗員保護性能も格段にアップしたとのこと。さらに、それまでの高性能モデルが誇っていた2Gというコーナリンググリップを、2.15Gまで研ぎ澄ますという快挙まで(横GはF1で6G強、一般車は0.5G程度、マクラーレンやヴァルキリーくらいになると2G程度と言われています)。

搭載されるエンジンも段違いのパワーで、アウディ製2.5リッター直列5気筒TFSIを500馬力までチューンアップ。

F22は性能やスタイルがそれまでのドンカーブートとは一線を画していることがわかりますが、それゆえ生産工程にもコストや時間が倍増しています。デニスは仕方なく限定生産を選び、当初は50台の予定だったものが、発表と同時に即完売。すぐさま25台の追加生産を決めたものの、これまた秒殺(笑)。結局、さらに25台が追加され合計100台のロールアウトとされています。
おそらくは、これだけのパフォーマンスのわりに2450万ユーロ(およそ3700万円)という超お買い得なベースプライスも人気の秘密でしょう。あるいは、ドンカーブートの手厚いオーナープログラムも有名で、ドライビングレッスンからオーナーミーティング、もちろんアフターケアなど創始者の代から連綿と続けられているそうです。

ちなみに、オランダといえば、超高速サーキット「ザンドフールト」が思い浮かびますが、あのコースで2Gオーバーのドライビングはさぞや爽快に違いありません。
なお、ドンカーブートはオランダの法規によってさほど厳しい環境適応を求められておらず、今後もガソリンエンジン車を作り続けると公言しています。ケータハムがコンセプトモデルとはいえ、EVを発表したのと対照的ではありますが、両社ともいまや絶滅危惧種ともいえるライトウェイトスポーツカーメーカー。