この記事をまとめると
■ビッグモーターの不正が連日話題となっている■わざとクルマを傷つけたり、過剰な修理費を保険会社に請求していた例が見られた
■店舗前の街路樹に除草剤を撒いたりして店舗の外観をよくしようとしていた事案もあった
噂されていた数々の不正が明るみに出始めた
「売れすぎてクルマが足りません!」というテレビやラジオのCMでもお馴染みとなった、中古車販売大手のビッグモーター。ユーザーにとって親切で有益な取引ができるお店、というイメージを持っていた人も多いと思いますが、それが一変する不祥事が発覚しました。
発端となったのは、2021年秋の内部告発だったと言います。
しかし、その時点では、ビッグモーター側は「手続きミスによるもの」などと報告し、不正を認めませんでした。そのため、さらに調査を進めたところ、次々と不正が発覚して証拠も見つかるに至っています。
一方でビッグモーター社内においても、2022年1月に「不要な板金・塗装作業を強いられている」とする内部告発がありましたが、証拠写真や書類が揃っていたにもかかわらず、それに関する調査は行われず告発はもみ消されたといいます。しかし、次々と発覚する不正に対し、マスコミなど外部の声も高まりを見せ、ついに2023年1月、第三者による特別調査委員会が設置されました。
現在までに問題となっている不正行為は、まず工場長などの指示による過剰な修理と保険金の水増し請求。実際にはおこなっていない修理をおこなったと嘘の申請をしたり、高額なタイヤを装着したと見せかけて安価なタイヤを装着し、その差額を騙し取ったり、靴下にゴルフボールを入れてボディを叩き、雹害の痕跡をわざと多くしたりといった、詐欺罪や器物損壊罪にも当てはまる行為です。タイヤにわざと釘を刺す、ドライバーなどでボディに傷をつける、バンパーを手で押し込んで潰す、中古の部品を新品部品と偽って装着する、などといった手口も横行していたとのこと。

さらに、自動車保険の契約数を稼ぐために、展示車両や社用車に販売員が個人名義で保険の契約を行い、保険料が支払われないまま数ヶ月で契約が破棄され、再び同じ車両で保険契約がおこなわれるといった行為がありました。これについては、自動車保険の契約数について月間の目標額が定められており、目標を下まわった販売店の店長が、上まわった店長に現金を支払うという「罰金制度」がビッグモーター社員に課せられていたという背景があります。

目標を達成できなかった店長は上限10万円をポケットマネーで支払い、目標を達成した店長に分配される仕組みだったとのこと。
あまりの悪質っぷりに保険会社も動き始めた
また、車検においても、必要な検査の一部を行わずに整備記録を改ざんし、適合証を交付するなどの不正が行われていました。検査にかかる時間を短縮し、より多くの検査をこなすためだったと見られています。
そしてもうひとつ、あちこちから指摘されている街路樹問題。これは、ビッグモーターの店舗前の植え込みの草花だけが枯れていたり、街路樹が伐採されている報告が相次いでいるもので、調査によって社員の手で除草剤が撒かれたという事実が発覚。自治体による土壌調査でも、土から除草剤の成分が検出されたとの報告があることがわかりました。現時点で理由は明らかにされていませんが、店舗内や周辺の整理整頓・整備についての厳しいルールが存在し、それを実行するには除草剤を撒く以外にやりようがない状態だったり、看板や展示車両を見やすくするためだったのではないかと見られています。

さて、このビッグモーターの不祥事では、損保会社から出向していた社員がどこまでこれらの不正行為を認識していたのか。見て見ぬふりをしていたのか、あるいは手を組んで不正に加担していたのではないか。この点も大きな問題となっています。社員を出向させていたのは「損害保険ジャパン」「東京海上日動火災保険」「三井住友海上火災保険」の3社で、鈴木金融担当大臣は7月25日の会見で「出向者が果たしていた役割や、ビッグモーター社と損害保険会社との関係について事実確認を行い、損害保険会社についても保険の契約者保護に関する問題が認められた場合には、法令に基づいて厳正に対応したい」と話し、調査中であることを明らかにしています。

また、そのほかビッグモーターと保険代理店契約を結んでいたあいおいニッセイ同和、共栄火災、AIG、日新火災の4社についても、金融庁が7月31日に報告徴求命令を出しました。
このビッグモーターの問題は、実際に取引に関わったユーザーだけが被害者なのではなく、保険加入者が支払った保険料がこうした不正請求に支払われていたことによって、知らないうちに私たち自動車ユーザーにも影響を及ぼしていた可能性があるところに、深い闇の広がりを感じます。また、ビッグモーターは氷山の一角で、ほかにも同様の不正をおこなっている中古車販売会社があるのではないかという疑惑も拭えず、同業他社が受ける風評被害のような影響もあるでしょう。
いずれにしてもすべての事実が明るみに出て、被害者には相応の償いがゆき渡り、適正な業務が遂行される環境に改められることを願うばかりです。