この記事をまとめると
■ミッションが傷みやすいと言われている行為がいくつかある



■常にクラッチに足を置く姿勢やミッションに手を置く方法はやめた方がいいだろう



■ミッションを長持ちさせたいならメーカー等が定める正しい方法で扱うのが間違いない



ミッションが痛むと言われる行為は本当なの?

街なかのゼロ発進から高速の120km/h巡航まで、幅広いスピードレンジに対して効率よくエンジンのトルクを使えるようにギヤを切り替えるのがトランスミッション(以下「ミッション」)の役割です。マニュアル・ミッション(MT)は状況に応じてその操作をドライバー自身がおこないますが、オートマチック・ミッション(AT)は、速度やアクセル開度などに応じて自動でミッションが調整してくれます。



「レバーに手を置く」「クラッチに足を置く」「飛ばしシフト」が...の画像はこちら >>



M/Tの場合はシフトチェンジとともに、エンジンの動力とミッションを断続させるクラッチ操作も自分で行いますが、初心者の頃に同乗したベテランドライバーから「クラッチに足を置いたままじゃダメなんだよー」などと注意を受けた経験のある人も少なくないでしょう。



自分も遠い昔にそういったアドバイスを受けたことがあります。そのときは「そういうもんなんだ」と鵜呑みにしていましたが、メカニズムを知るにつれて「あれ、本当だろうか?」と疑問も涌いてきました。ここでは、そんなMTの「やってはいけない“とされている”こと」について検証してみましょう。



クラッチに足を置いたままだと、何がいけないの?

信号と信号の間隔が短い都心では、発進しては止まって、というのを頻繁に繰り返さなくてはならないため、クラッチから足を離す時間はほとんどないと思いますが、バイパスや高速などで巡航しているときのクラッチ操作は、追い越ししたりするときくらいしか必要ないでしょう。



こんなときどうしていますか? きっと何割かの人はクラッチペダルに左足をおいたままなのではないでしょうか。「だって足の置き場所がないじゃん」という意見も大いに共感できます。GTカテゴリーの高速巡航を念頭に置いた車種だったら“フットレスト(足置き)”がクラッチペダルの左側に設置されていますが、それ以外のクルマは付いていたり付いていなかったりとまちまちなので、置き場がないと感じて当然でしょう。



「レバーに手を置く」「クラッチに足を置く」「飛ばしシフト」がMTを傷めるってホント? クルマ好きが語る「噂話」の真相を探った
クラッチ操作のイメージ



しかし、クラッチのことを考えると、ペダルへの足の置きっ放しは出来るだけやめたほうが良いと思います。



クラッチの仕組みを簡単に説明してしまうと、エンジンのクランクシャフトに直付けされたフライホイールと、ミッションのシャフトに組まれたクラッチプレートが、強いバネで密着されてその摩擦でつながっています。



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クラッチ取り付けイメージ



クラッチペダルを踏み込むと、油圧伝達系統を介してクラッチプレートがフライホイール面から引き離されて、エンジンの駆動力が分離されます。この状態からギヤを入れてゆっくりペダルを引き戻していくと、徐々にクラッチプレートが触れていきます。手のひら同士をこするような状態がいわゆる“半クラ”です。ここからさらにペダルを引き戻すとクラッチプレートが密着して完全に繋がった状態になります。



問題は、プレートが密着からわずかに離れてしまった状態です。クラッチに足を置いたままだと、体勢や力みなどによって無意識にクラッチペダルに力が入ってしまうときがあります。このときわずかにペダルが踏み込まれ、クラッチの具合によってはプレートを離すように作用してしまいます。密着からわずかでも離されると“滑り”が発生してしまい、ずっとその状態が続くと、こすれた摩擦熱でプレートやフライホイールにダメージが蓄積されてしまうのです。



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クラッチセット



それが慢性的に起こると、クラッチプレートの偏摩耗やフライホイールの歪みにつながります。半クラのときにゴロゴロとイヤな振動が出ている車両がありますが、あれは熱でダメージを負った可能性が高いです。
これを防止するのはズバリ、クラッチ操作が終わったら足を左に外すクセを付けることです。DIYが出来る人ならフットレストを設置するとより実行しやすいでしょう。



シフトレバーを握りっぱなしはダメだって、本当?

MT車を運転している姿を思い浮かべてみましょう。半分くらいの人は、左手をシフトノブに置いた姿が浮かんだのではないでしょうか。あれも、クラッチと同じような理由でやらないほうが良いんです。「え? 何がいけないの?」と思う人も少なくないと思いますが、あれもミッションを労り、長く使いたいならNGだと覚えておきましょう。



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ミッション操作のイメージ



MTのシフトレバーはロッドを介してミッション内部のギヤにつながっています。

何も力が加わっていなければ、バネの力でレバーは真ん中のニュートラル位置に留まっていますが、手を置いていると、自分は動かしていないと思っていても、加減速やカーブの横Gなどで力が加わってしまうことがあります。このとき、とくに音や振動を感じなくてもミッション内部でわずかにシフトフォークが動かされ、ギヤ(シンクロ機構)が触れ合ってしまいます。



このレベルならダメージとは言えませんが、これが頻繁に繰り返されると偏摩耗に繋がるので避けるに越したことはありません。



「レバーに手を置く」「クラッチに足を置く」「飛ばしシフト」がMTを傷めるってホント? クルマ好きが語る「噂話」の真相を探った
ミッション内部



また、細かい振動の多いエンジンだと、その振動によってシフトレバーの支持部やシフトロッドの軸受け部などの作動部分に摩耗が起こる可能性も無視できません。とくに左腕の重さを支えるようにシフトノブに重さを載せるのは避けたほうが良いでしょう。



これに関しても、防止するにはレバーから手を離すようなクセを付けることです。シフト操作が終わったらハンドルを握るように心がけましょう。



長持ちさせたいなら変な操作をしないことが1番

前進中にR(後退)に入れるのは危険!?

「え? ふつうは走行中にバックギヤに入れるなんてやらないよね?」というご意見もごもっともですが、あまりに急いでいてとっ散らかってしまい、5速の先の「幻の6速=バックギヤ」に入れてしまうこともある……かもしれませんし、通常の操作の範囲でも方向転換の切り返しのときなど注意が必要です。少し前進してすぐ後退、というシチュエーションで操作を雑に行った際、まだ車体が前進を残した状態でバックギヤに入れてしまう、というケースは十分あると思います。



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シフトチェンジのイメージ



じつはほとんどのミッションでは、バックは高回転の高出力状態で使用することはほとんど無いため、ギヤが薄く設計されているものが多いのです。つまり、過度な負荷がかかってしまうと破損に繋がりやすいと言えます。



高速走行中の場合はシンクロ機構が盛大に「ガガガッ」と悲鳴を上げるので、慌てて戻して大事に至らない場合がほとんどだと思いますが、切り返しなどの低速ではガッチリギヤが噛んでしまうので負担は大きいようです。実際、バックギヤの破損の多くは低速時に起きていると聞きます。



ちなみに某・峠ドリフトマンガで有名な「トヨタAE86」はバックギヤにシンクロ機構がなく、ギヤ歯もペラペラで破損が多いので、一部では「ガラスのバックギヤ」と呼ばれることもあるとか。



これを防止するには、なんと言っても落ち着いて操作することでしょう。「バックに入れるときは完全に止まってから」と自身に念押ししておけば安心です。



飛ばしシフト(ギヤ)ってやってもOK?

飛ばしシフトと聞くと、その言葉の響きや意味合いから、かなり乱暴(大胆)な操作という印象もありますが、要するに1速1速きちっとシフトしていくのではなく、状況に応じて1速ないし2速を抜かしてシフトすることを言います。



加減速の激しいサーキット走行では当たり前に行われている方法です。しかし、一般道ではそれほど必要性を感じたことはありません。高速で巡航中に追い越しを行う際、5→3と1速飛ばす程度ではないでしょうか。



「レバーに手を置く」「クラッチに足を置く」「飛ばしシフト」がMTを傷めるってホント? クルマ好きが語る「噂話」の真相を探った
シフト操作のイメージ



そして、この飛ばしシフトについてはとくにデメリットはないと思います。強いて言うなら、普段は行わない“コの字”を描くようなシフト操作をするため、素早く行おうとしたときに「グリッ」とシフト機構をこじってしまうのは気をつけたほうが良いでしょう。一度ニュートラルで半拍置くように意識してゆっくり操作すれば確実です。



おわりに

MTのタブーとされている代表的な4つの“定説”について検証してみましたが、結局のところ、長くトラブル無く使い続けたいと思うなら、操作にも愛情を込めてしっかり確実に行うようにするのがいちばんだということですね。とは言っても急いでいたり疲れていたりすることもあると思いますので、そんなときも雑な操作にならないように普段からクセを付けておくことをオススメします。

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