この記事をまとめると
■かつてボルボはC303という特殊作業車を製作販売していた■市販車にも採用されていたB30というボルボの直6ガソリンエンジンを搭載
■C303は最低地上高を稼いだうえにトレッドも幅狭なため狭い悪路をものともせずに走れる
ライバルはウニモグ? なボルボの特殊作業車
特殊作業車とか多目的移動機械とか、名前を口にするだけでワクワクが止まらないようなクルマ好きは、決して筆者だけではないでしょう。このジャンルには永代横綱としてウニモグが君臨しているかと思いますが、その地位を脅かさんとする刺客は思いのほかたくさんいるようです。
たとえば、かつてボルボが作ったC303などは機能一点張りの無骨なボディや、ウニモグにも劣らないアプローチ/デパーチャーアングルなど、この手のタイプ特有の魅力が満載です。
そもそもボルボは北欧の厳しい冬や、ラップランドに代表される荒涼たる土地を走破できるクルマづくりに定評あるブランド。彼らがガチで特殊作業車を作れば、すなわち地球上で走れないところはないってくらいのクルマに仕上がること間違いありません。
また、あまり知られたくない事実でしょうが、スウェーデンという国は武器産業で1.9%もの世界シェアを持ているほどの工業力を誇り、戦闘機(グリッペン)やら世界初のステルス艦だって作っているのです。なるほど「ウニモグ? 山走れるの?」ってくらいのマウントをとっても不思議ではなさそうです。
そんな工業力をもってして出来上がったC303ですが、なんだかとぼけているというか、どことなくゆるい(笑)。ほぼ四角四面なボディに、釣り合わないほど小さなヘッドライト、加えて妙なほど高い車高でスカスカ感まで漂っちゃってます。

迷彩塗装が施されていなければ、アニメに出てくる善玉、しかも爺さんが乗ってるポンコツオフローダーにしか見えません(笑)。「どこが武器産業1.9%やねん!」とか「むしろ悪路でウニモグに助けられそう」と突っ込みたくなるのもごもっとも。ですが、C303には可愛い見た目とは裏腹に、さすがボルボと膝を叩く中身が詰まっていたのです。
高い最低地上高と幅狭ボディで狭い悪路もガンガン進む
たとえば、エンジン。一般的に軍用車、しかも多目的車両となると信頼性や整備性、あるいは燃料の入手性などからディーゼルが選ばれる傾向にあります。

理由としてはいろいろあるようですが、自社製ガソリンエンジンに相当な自信をもっていたことが一番ではないかと。鋳鉄ブロックを使ったボルボのエンジンは、いずれも耐久性や整備性のよさは折り紙つき。昔の市販車など「10万、20万キロは慣らし運転」と称賛されたほどです。
しかも、C303に搭載されたのは市販車にも採用されたB30という直6エンジン! 4気筒エンジンに比べて重量面ではハンデがあるものの、より堅固な作りでクルマどころか船舶や産業機械にまで使われる傑作エンジンです。C303の走行を見た人によれば「エンジン音がとても静かで、ロールスロイス製かと思った」とのこと。ヘビーデューティ車=ディーゼルのガチャガチャ音というイメージ、C303では通用しないのです。
妙に高い車高もボルボがこだわったポータルアクスルを用いた成果です。これは、アクセルシャフトがホイールセンターから(主に上部へ)オフセットされた構造で、ハブキャリア内のギヤでもってタイヤを駆動する構造。オフセットされた分だけ最低地上高が稼げるわけですが、ギヤを介する分だけトルクが下がる、ハブの重量増しといったネガもないわけではありません。クルマでの採用例はさほど多くはありませんが、鉄道やバスではわりとよく目にする機構かと。

また、C303は最低地上高を稼いだうえにトレッドも狭く設計されているため、狭い悪路をものともせずに走れる利点もあります。

なお、C304は4×4の全輪駆動モデルですが、6×6のC304という大型モデルも派生しています。走破性や、より大型なボディの架装を目指したもので、軍隊では兵員輸送、消防隊ではより大きなタンクやポンプの搭載が可能となっています。
ルックスと違って実力派だったC303ですが、1979年にはボルボ・ワークスチームによってパリ・ダカールラリーに参戦し、10トン以下トラッククラスで見事優勝を遂げています。イエティボリのボルボ博物館に飾られた実車には「Cross Country」なるお気楽そうなステッカーが貼られていますが、C303のスタイリングにはいささかミスマッチな気もします(笑)。