この記事をまとめると
■ミッドシップスーパーカーのレプリカの多くはポンティアック・フィエロをベースとしていた■フィエロにはクーペとファストバックが存在し、エンジンも直4とV6があった
■1984年のインディ500のペースカーとして採用された歴史もある
脚光を浴びることがないレプリカのベース車両
世界的にレストモッドはうなぎ上りに人気を増しているようですが、そのあおりを受けたものかレプリカモデルの影が薄くなっているかと。コブラや550スパイダーなどは定番で安泰としても、カウンタックやF40といった高嶺の花がコピーされてから、さして目新しいレプリカが登場している気配もありません。
これは筆者の個人的な推察ですが、どうやらレプリカ人気はそこそこあれど、ベースとなるクルマが激減しているのが理由のひとつではないでしょうか。
アメ車フリーク以外では、ポンティアックがGMのミドルクラスを担うブランドだったことお忘れの方が多いでしょう。2010年にブランドが消滅してしまったことも大きな理由でしょうが、1965年のGTOや1978年のファイヤーバード、そして1984年のフィエロといったヒット作以外はじつに影が薄いのです(笑)。もっとも、ヒット作以外でもポンティアックはGMというメジャーのなかにあって、積極的に新しいことや他社にはない個性的なモデルを作るブランドとして存在感を放っていたものです。
実際、フィエロは手ごろな価格で手に入るミッドシップスポーツというキャラクターで、初年度は13万台もの売り上げを記録しています。GMの企業規模を活かした開発&製造手法で、ベーシックグレードの「クーペ」は1万ドル以下という値付けがされたことも好調な売り上げに貢献しているかと。
ただし、強靭なスチールシャシーこそオリジナル設計となっているものの、足まわりや駆動系、エンジンなどはGMグループからの寄せ集め感マシマシ(笑)。たとえば、2.5リッター直列4気筒SOHCエンジンは、シボレーの普及モデル「サイテーション」や「ポンティアック1000」といったモデルからの流用。最高出力92馬力と言われると、ミッドシップと聞いて上がった血圧が、一気に下がるような気がします(笑)。

それでも、デビュー翌年の1985年に加えられた上級グレードの「GT」には2.8リッターのV6 OHVエンジンを搭載し、130馬力という最高出力が持たされています。

たしかに、エンジンやサスペンションこそ図抜けた性能ではないかもしれませんが、フィエロは樹脂パネルを多用したボディワークによって、およそ1100kgというライトウエイトを実現しているのです。得られたハンドリング、ドライバビリティはアメリカの自動車雑誌で「普通に乗るのも、スポーツドライビングも両方楽しく満足できる」と称賛されているのです。
じつはインディ500のペースカーにも採用されたこともある名車
この樹脂パネルというボディこそ、レプリカメーカーに重宝がられたことは確かで、ひと皮むきさえすれば好みのアウタースキンをかぶせることができるのです。ちなみに、1986年にはそれまでのクーペスタイルに加え、ファストバックボディもラインアップ。このクォーターピラーをちゃっかりレプリカメイクに利用したモデルも少なくありません。

とにかく、フィエロをベースにしたレプリカは枚挙にいとまがなく、512BB、テスタロッサ、288GTO、F355といったフェラーリ軍団をはじめ、いささかパースに迷いがあるカウンタックや、出来のよさげなミウラ、あるいはウケ狙いとしか思えないブサイク加減のFXXなんて変わり種も。
日本でもさまざまなレプリカが登場していますが、やはり本場アメリカの懐は深すぎる(笑)。

さて、すっかりベースの位置に甘んじている感のあるフィエロですが、同車の名誉のためにお伝えすると、じつは1984年のインディ500でペースカーに選ばれたという輝かしい歴史もあるのです。エアロパーツが追加されたレーシーなボディ、ターボでパワーアップされたエンジンなど、アメ車にとって最高の舞台を走るためにワンオフでスペシャルマシンが作られたのでした。
もっとも、翌1985年にはほぼ同じスタイルのエアロや、ターボ搭載車も発売され大人気を博したとのこと。

そんなエピソードを聞けば、出来の悪いレプリカなんか作るより、オリジナルのフィエロをパリっとレストアして乗り出す方が魅力的に思えてくるのは決して筆者だけにとどまらないはず。