この記事をまとめると
■2023年に登場した3代目N-BOXは電動化しなかった■N-BOXはマイルドハイブリッドに匹敵するほどの低燃費性能を実現している
■いまのパッケージングだとハイブリッド関連のユニットを搭載するのが難しい
電動化がトレンドになっているいまでもN-BOXはガソリンのみ!
2023年も多くのニューモデルの登場、人気車のモデルチェンジなどがあったが、なかでも最注目といえるのが、ホンダN-BOXのフルモデルチェンジだろう。ジャーナリスト視点は別として、日本一売れている軽スーパーハイトワゴンの進化は、一般ユーザーにとっては見逃せないニュースだった。
シャシーやエンジンといった基本的なアーキテクチャーはキャリーオーバー、スタイリングについてもキープコンセプトで進化させるという手堅いフルモデルチェンジを果たしたN-BOX。
たしかに、現在のホンダラインアップにおいて、ハイブリッドといえば2モータータイプの「e:HEV」が主流。EV走行できる範囲が広く、そうしたメリットを活かすにはリチウムイオン電池をそれなりに積む必要があることから、軽自動車に採用するには高コストなシステムといえる。つまり、N-BOXにe:HEVを搭載しないのは理に適っている。
とはいえ、ホンダのハイブリッド史を振り返れば、エンジンとトランスミッションの間に薄型モーターを挟むIMAというメカニズムもあった。このシステムを軽自動車向けにブラッシュアップすれば、コストバランスに優れたマイルドハイブリッド仕様も作れそうに思う。技術的には可能なはずなのだ。
しかし、N-BOXは頑なに純エンジン仕様のパワートレインを守っている。
そのあたりの事情について、複数のエンジニアにいろいろな視点から質問したこともあるが、N-BOXにハイブリッドを採用しない理由をシンプルにまとめると、「ライバルに対して燃費で劣っているとは思えないから」ということになる。

現行N-BOXのWLTCモード燃費は、NAエンジンのFF車で21.6km/L。これは2030年度燃費基準75%を達成している数値であり、十分な燃費性能を実現しているといえる。
居住区間を考えるとハイブリッド化に踏み切るのは難しい
実際、ライバルモデルと比べてみても、マイルドハイブリッドシステムを採用する日産ルークスのNAエンジンFF車のWLTCモード燃費は20.9km/Lとなっており、非ハイブリッドのN-BOXに及ばない。

N-BOXをキャッチアップすべくフルモデルチェンジしたスズキ・スペーシアも、独自のマイルドハイブリッドテクノロジーを採用している。こちらのWLTCモード燃費はNAエンジンFF車で23.9~25.1km/L。N-BOXを大きく上まわっている。実際、公道で試乗した際にメーター読みで確認したリアル燃費においても、スペーシアはN-BOXに対して1割程度のアドバンテージを持っていることが確認できた。
なので、優れた燃費性能を理由にしていたホンダのエンジニアも、「いつまでもハイブリッド不要」とはいえないかもしれない。

ただし、現在のアーキテクチャーによるN-BOXに、日産やスズキのようなマイルドハイブリッドシステムを搭載するのは物理的に難しい面もある。
これら軽自動車に普及しているマイルドハイブリッドシステムというのは、ISG(インテグレーテッドスタータージェネレーター)と呼ばれる小型モーターを、エンジンのクランクシャフトとベルトでつなぐ補機として設置するというのが基本構成。エンジン再始動や発進・加速時のアシストを行うという仕組みになっている。
ISGについては通常のジェネレーターとさほど変わらないサイズのため、N-BOXのエンジンにも装着することは可能だろうが、課題といえるのが減速エネルギーなどで充電、モーターアシストの電力供給を担うハイブリッド用バッテリーの配置だ。日産、スズキとも小型のリチウムイオン電池を助手席下のスペースに収めている。

しかし、N-BOXにおいては、この場所には燃料タンクが存在している。
もしN-BOXにライバルモデルと同じようなマイルドハイブリッドシステムを搭載するとなれば、ハイブリッド用バッテリーを後席もしくはラゲッジスペースに置く必要がある。
それはN-BOXのメリットを大きく損なってしまうのは自明で、こうした部分もホンダが現行N-BOXのアーキテクチャーにおいてマイルドハイブリッドの採用を否定的に捉えている理由といえるのだ。