この記事をまとめると
■サーキット走行が上手い人は街乗りでも上手なのかプロのドライバーが解説■速いドライバーほどクルマの限界域を知っているため自然と安全運転をする
■一般道はサーキット走行に比べてはるかに情報量が多いので上手い人ほど危険だと感じる
サーキットで速い人は一般道でも上手い
サーキット走行は基本的にハイスピードで走り、クルマの極限性能を引き出すものだ。そんな走りを一般道で行ったら、とんでもない暴走行為となり検挙されてしまうだろう。
一見、サーキット走行と一般道の走行には関連がなさそうに見える。
サーキットでの極限走行では常に集中力を高め、タイヤのグリップ変化を感じ取り、適切に対処する必要がある。そうした経験や知識が一般道の運転にいかに役立つのか解説しよう。
プロのレーシングドライバーの間でよく話題になるのは、「サーキットで速いドライバーほど一般道では速度を出さない」傾向があるということ。それは単に速度違反で検挙されることを恐れているからではない。制限速度を守ることはもちろんだが、速度の危険性を熟知し、さらにクルマやタイヤの限界を理解しているだけでなく、自身の情報処理能力を最高レベルで運転に集中することの重要性を知っているからなのだといっていい。
時速100kmは秒速27.7m。危険を察知(認知)し、判断して操作に反映するまでの時間は、一般的に約0.5秒かかると言われている。その間にクルマは14mも進んでしまう。また、ステアリングやブレーキを操作しても直ちにクルマが反応するわけではない。プアなブレーキやタイヤが装着されていたり、ウエット路面であったりすれば、さらに反応時間は遅れてしまう。そうしたことを理解していると、一般道で速度を高めるのは恐ろしいことだとわかっているのだ。
また、ボク自身もそうだが、「一般道を走るのはサーキット走行よりはるかに怖い」というレーシングドライバーも多い。サーキットは専用コースであり、歩行者や自転車などがいない。対向車もなく信号や交差点もない。ドライバーは速度を高めても車両の挙動やタイヤのグリップ変化などに意識を集中し操ることができる。そんななかでも大小さまざまなRのコーナーがあり、路面変化やクルマの特性変化も起こる。サーキットを攻めればブレーキがオーバーヒートしてフェード現象が発生しやすい。

さらに、タイヤも一気に摩耗し、周回ごとにグリップが低下する。タイヤ空気圧は高まり、さらに特性が変化するので、そうした車両やタイヤの状況を察知して正しいドライビングを行なわなければならない。サーキット走行ではラップタイムという指標が常につきまとう。車両やタイヤの特性変化が起こってもラップタイムに大きな影響を与えないように管理されたドライビングをすることが重要だ。1周のラップタイムだけを計測するなら、その1周でパフォーマンスのすべてを引き出し、最高性能で走行するようにフォーカスする。
このように、サーキット走行ではさまざまな要件が連続的に起こり変化し対処しなければならない。

こうした経験を積んでいると、一般道での運転がいかに難しいか理解できるのである。
レーシングドライバーこそ一般道の怖さを感じている
性能の異なる多くのクルマが混在し、ドライバーの判断や認知能力、操作方法も異なってくると自分だけが正しい走りをしていても避けられないアクシデントに巻き込まれてしまう可能性が高まる。それだけに、自車の周辺環境をクリアにし、速度を控えめに走行し、なおかつ全集中力をドライビングにかたむける。
ゆっくり走っていれば疲れないと思うのは間違いで、ゆっくり走っていても周辺への気配りや情報収集に全神経を払っている。たとえ徐行していても、商店街の人混みを抜けるのはサーキット走行以上に情報処理能力を酷使しなければならず、疲労感も増すのだ。
「ゆっくり走る=気持ちを緩める」ではないことを知っておくべきだ。

サーキットで上手く運転できるドライバーは、一般道では速度を控えめに、周辺により多くの配慮をしてクルマを正しく操作することで安全運転となって上手に見えるのだ。
もし一般道を無謀な速度で走っているドライバーがいたら、そのドライバーはサーキットで速く走ることができないドライバーだと思っていい。危険を承知で走るのは運転の上手い下手を論じる対象ではなく、それは犯罪レベルの最低な行いなのだから。