この記事をまとめると
■コンパクトでリーズナブルなミッドシップのポルシェとして開発された「914」■ポルシェは、914に911用6気筒エンジンを搭載した「916」も企画し、10台のプロトタイプを製作していた
■916は911を上まわる価格となってしまうため、市販されることはなかった
リーズナブルなミッドシップのポルシェとして開発された914
1967年に発表されたポルシェ「914」と、その高性能版である「914/6」は、ポルシェとVWの密接な関係を象徴する、まったく新しいミッドシップの2シーター車として多くの注目を集めるに至った。
ポルシェにとってミッドシップという基本設計は、1952年に誕生した550スパイダー以来、長い経験を持つものであり、VWとの間で話し合われたコンパクトでリーズナブルなミッドシップ車の計画は、じつに魅力的なものであった。結果、その新型車の設計はポルシェに委ねられ、パワーユニットやボディ製作はVWが、そしてじっさいの販売はポルシェとVWが50:50で出資した新会社、VW-ポルシェ社によって行われることが決定したのである。
着脱可能なFRP製のタルガトップを備えるボディは、そのエアロダイナミクスのみならず、前後に実用的なトランクスペースを持つなど、2シーター車としての機能性でも十分にカスタマーを納得させるものだった。クオーターパネルはロールバーを兼ねており、安全面でも当時の最先端をいく構造を914は採用していた。

搭載されたエンジンは、ベーシックモデルの914にはVW製の1.7リッター空冷水平対向4気筒の80馬力仕様が、また高性能版の914/6にはポルシェ製がそれまで911Tに搭載していた2リッター空冷水平対向6気筒エンジンが110馬力の最高出力で採用されている。
ポルシェが本気になったらやりすぎちゃった
この914/6はその後、1972年にはVWタイプ4のエンジンをベースとする4気筒仕様の914 2.0にモデルチェンジされる。ここまでは、ポルシェのファンにはよく知られているとおりだ。

だが、ポルシェ914には、そのほかにも派生モデルとして誕生したかもしれないプロジェクトがいくつか存在した。ここではそのなかから、「916」と呼ばれたモデルを紹介しよう。
916は、それまでの914シリーズの成功を受けて、よりスポーティなミッドシップスポーツを生み出そうというコンセプトから開発が進められていったモデルである。その考えはきわめて自然なもので、ポルシェ914が1970年代に入ると、いずれも年間で2万台を超える販売台数を記録していたことを考えると、さらに高性能な914を市場に投じることで、その販売にさらなる加速度を生み出そうという狙いもよく理解できる。

実際にポルシェが、1971年のパリサロンでの発表を狙って製作した916のプロトタイプは、トータルで10台とされるが、それらの内訳は911Sに使用された190馬力の2.4リッター空冷水平対向6気筒エンジン搭載車が3台、911RSに搭載された210馬力の空冷水平対向6気筒エンジンを移植したものが7台となっている。
また、最終的には300馬力の3リッター8気筒ユニットを搭載した914/8も2台が製作されているのだから、ポルシェがいかに914というモデルの潜在的なパフォーマンスを高く評価していたのかは想像に難くない。

だが、916以降の各モデルは、いずれも車両価格が911のベーシック価格を大きく上まわることになり、それを販売のルートに乗せることは難しかった。
914シリーズの特徴であるタルガトップを廃し、よりスポーティなキャラクターに終始した916。市販に至らなかったプロトタイプであることを考えても、2020年にRMサザビーズがモントレー・オークションで記録した落札価格、95万7000ドル(当時の邦貨に換算して約1億125万円)は、十分に説得力のある数字だろう。