この記事をまとめると
■2024年3月19日に2024事業年度のCEV補助金の車両補助金が公表された■国産BEVに対して有利な制度だが海外メーカーも独自のキャンペーンで対抗している
■補助金で優遇された日本メーカーのEVラインアップ充実が望まれる
2024事業年度のCEV補助金は車種によって補助金額が異なる
3月19日に経産省(経済産業省)が公表した2024事業年度のCEV(クリーンエネルギー車/BEV[バッテリー電気自動車]、PHEV[プラグインハイブリッド車]、FCEV[燃料電池車])補助金の車両補助金が公表され、少々ざわついている。
2023年度と比較すると、車種によって補助額の差に開きがあるのだ。2023事業年度までは車両の性能や災害時に充電設備として家電製品などを使うことができる機能の有無など、あくまで車両の性能や機能差で補助額が決まっていたが、2024事業年度はこれに加え、充電インフラの充実度や修理・メンテナンスなどのアフターサービス体制の充実、車両のサイバーセキュリティ対策に取り組むことなど、ユーザーが安心・安全に乗り続けられる環境構築という点も考慮されるようになった。
たとえば世界市場では、アメリカのテスラと激しくBEVの世界販売台数トップ争いを展開する中国BYDオート(比亜迪汽車)のクロスオーバーSUVタイプBEVとなる「ATTO3」は、2023年7月12日以降登録の場合は85万円だった補助額が35万円と減額されている。同「ドルフィン」も65万円が35万円になった。

算定基準が変更になると、当然日本メーカーのCEVが有利になるとの見方が一般的。それは国内のディーラーネットワークを見ても明らか。日本メーカーはBEVのラインアップが少なく、「出遅れている」とよくいわれるが、それでも多くのメーカー系ディーラー店舗では充電施設を敷地内に用意しているからである。もちろん店舗が多いということはサービスネットワークも多いということになり、それは補助金算定に影響を与えることは間違いないだろう。

ただし、今回の新しい補助金の動きを外資勢力が手をこまねいて見ているわけではないようだ。テスラではモデルを限定して20万円をサポートするキャンペーンを、そしてBYDも金利0%キャンペーンを展開している。
一方、新興勢力や国内販売台数の少ない海外ブランド車には不利のようにも見える。「極端な表現をする人は“外資排除の動き”ともいっています」とは事情通。

補助金の原資はもちろん国民が納めた税金となる。それなのに、「税金を原資とした補助金を外資ブランド車に積極的に、しかも満額交付するのはいかがなものか。
国産EVのラインアップ拡充に期待したい
ただし、国内におけるサービスネットワークが算定基準になるのならば、外資ブランドだけではなく、国内からも新興BEVメーカーというものがより出現しにくい状況になったといえよう。
アメリカや中国では新興の、いまどきの表現ではスタートアップ企業的なBEVメーカーが台頭してきている。規模は異なるが、そもそもテスラやBYDも新興自動車メーカーといえるだろう。

算定においてはサービスネットワークのほかにも基準を用意しているとはいうものの、やはり国内サービスネットワーク体制というのは新興勢力にとってはまさに「これから」という状況なので足かせとしては大きいだろう。
そもそもCEV補助金は、新規登録終了後にオーナー本人が事後申請して交付を受けるものなので、新車購入時点で補助金分を差し引いて支払い総額が算出されるというものではない。そのため、販売現場では「BEV買ったら国からボーナスをもらったという感覚でいて欲しい」との話はよく聞く。
たとえば85万円の補助金がもらえるとしても、購入時にはその85万円も用意しなければならない。ローンならば補助金の85万円を差し引いて支払いプランを組むことはできないのである。

こうなると、「補助金がもらえるから」といって価格の高い高級ブランドのBEVを背伸びして購入するということもなかなかできないようにも見える。
中国ではすでに補助金は終了となっているし、BEV普及に前向きな欧州各国でも補助金減額の動きが目立っている。欧州あたりは政府の懐具合も影響しているようだし、「マジトラ(マジでトランプ氏が大統領になる)」ともいわれている、2024年11月のアメリカ大統領選挙では、トランプ候補はすでに自身が大統領となったら現状のアメリカのBEV普及政策を大幅に見直しするとしている。
BEV普及度合いといった話よりは、むしろ各国の政治的背景に基づき補助金の廃止や減額が行われているのは気になるところだが、今回の日本政府の動きでも、増税傾向に歯止めがきかない現状を見れば政府の懐具合も多分に影響していることは否定できないだろう(実際に懐具合はそれほど悪くないとの話もあるが……)。

自国自動車メーカーが世界的に高い評価を受け、世界的によく売れており、国の重要基幹産業なのだから自国CEVを積極購入してもらおうという動きを批判するつもりはない。ただ、そこで気になるのは選択肢があまりにも少ないというところ。
次年度の補助金では日本メーカー有利にも見えるものとなったのだから、今後は日本メーカーからも積極的にBEVがラインアップしてくるものと期待している。

BEVを買うかどうかはあくまで個人の自由であり、いままで2030年代にICE(内燃機関)車を販売禁止にするとしていた国も軒並み軌道修正しているので、短期的にすべてBEVにしろというのも無理のある話(必要性があるのかというものも含め)。
しかし、世界的にBEVの存在が認知され一定の需要が見込めるのも明らか。世界的にも「日本メーカーの展開するBEVはどういうものなのか」と注目が高まっているともいっていいだろう。あとは日本メーカーがどのような演者をしたがえてどんな舞台をみせてくれるのか、大いに期待したい。