この記事をまとめると
■ここ最近のタイでは大小さまざまな中国BEVメーカーの進出が目立つ■右ハンドル市場であるタイに進出した多くの中国BEVメーカーはいずれ日本上陸を目指していることがうかがえる
■国産BEVのラインアップが少ない日本市場は中国BEVメーカーにロックオンされている
タイ市場に群がる中国BEVメーカー
最近のタイでの中国メーカーの動きには個人的には違和感を覚えている。タイに進出する中国ブランドの増加スピードが速すぎるのである。
2024年3月末から4月に開催された「バンコク国際モーターショー」では、主要ブランドだけで8つの中国ブランドが展示ブースを構えた。
つまり、小規模メーカーやタイの地元企業が輸入販売しているようなモデルまで含めれば、まさにピンキリで中国車、とくにBEVが多くラインアップされていることになる。
さらに、中国の主要ブランドは、単に販売するだけではなく現地にBEVの生産工場を設けることを発表している。ICE(内燃機関)車からではあるものの、すでにMG(上海汽車)は10年ほどの稼働実績があるし、GWM(長城汽車)も2024年1月より一部BEVの生産を開始している。また、人気BEVとなるNETA VシリーズをラインアップするNETA(哪叱汽車)も、2023年末より生産開始(委託生産になっているとのこと)、BYDも2024年6月にはBEVの生産を開始する予定となっている。チャンアン(長安汽車)、AION(広州汽車)も生産計画が順調に進んでいるようだ。

タイ政府の政策もあり、それに合わせて駆け込み的に市場参入しているようにも見えるが、それにしても市場参入するブランドが多すぎる。MGやBYD、GWM、NETAあたりは、各企業の戦略的な思惑もあってタイ市場へ参入しているように見える。いまやBEVの販売台数では世界トップとされているBYDも参入時期やラインアップ数、ディーラーネットワークの構築などを見れば堅実な市場開拓の様子が伝わってくる。
ただ、ここ最近相次いで参入したブランドは、中国国内での新車販売低迷傾向や、欧米先進国への市場開拓が半ば困難な状況(中国メーカー全般)などもあり、売り先を求めてタイ市場に上陸しているように見えてならない。
ここまで急速にブランド数が増えれば、中国系BEVで値引き合戦が繰り広げられ、「潰しあい」が起きるのは容易に察しがつく。
いずれ日本上陸することも視野に入っている!?
タイではそろそろ先んじて中国系BEVを購入した人が乗り換えの時期を迎える。ただでさえBEVは再販価値が低いことが世界的にも指摘されている。「乗り換え時に再販価値が低いことを見て、タイの人も目が覚めるだろう」とは地元事情通。
「最近のタイの人の動きを見ると、“再販価値は?”、“充電インフラは?”などを考えずにもの珍しさから、中国系BEVに乗っているような印象を強く受けます。乗り換えが目立ってくれば夢から覚めるようなことになるでしょう」とも地元事情通は語ってくれた。

タイ国内でも今後はいままでのような右肩上がりの需要は期待できなくなるし、その日は意外なほど近いだろう。それでもタイ国内に生産工場を構えるのは、周辺国を中心とした輸出も視野に入っていることはいうまでもない(タイ政府もそれを期待している)。
そしてここで、タイが左側通行で右ハンドルということが大いに気になってくるのである。中国メーカーはタイだけではなく、インドネシアでも現地生産を進めているが、インドネシアも左側通行で右ハンドル。いますぐとはいわないまでも、将来的には完成車の日本への輸出も視野に入っているともいわれている。
インドに抜かれ世界第4位にはなったものの、中国、アメリカ、インドに次ぐ巨大な自動車市場を日本がもっていることは変わらない。

日本も「先進7カ国」にこそ入っているが、「中進国」といわれるほど、ある面では欧米先進国よりも新興国寄りの立ち位置になっている。BEVは、ICE車に比べればその普及に政治的思惑がより絡むことが目立っており、政治的アプローチ優先で日本市場に進出しても、東南アジアに比べて「中国アレルギー」が大きい。それでも、「欧米よりも日本は入りやすい」と中国政府は考えているだろうし、世界第4位の市場への進出は魅力的に見えることだろう。

日本政府は、2035年以降の純ICE車の販売を禁止する方針を表明している。東京都ではさらに早い時期、2030年までに純ICE車の販売を禁止することを表明している。実行性はかなり怪しい面もあるが、この辺りがターニングポイントになるのではないかと考えている。
BYDのように世界的なブランドとしての認知がない小規模な中国BEVメーカーは、タイのようにメーカー名ではなくブランド名などで市場参入するなどの「なんらかの工夫」をしての参入となるだろう。
すでに日本市場は多くの中国メーカーから「ロックオン」されているのかもしれない。