この記事をまとめると
■大型連休の際に貸し切りバスの事故が相次いだ



■貸切バスの世界でも「2024年問題」が出ている



■運転士の声を半ば無視するような「現場軽視」が目立っている



2024年問題は命に関わる

2024年4月1日より、トラックやバス、タクシー運転士の時間外労働上限規制が適用されてから初めての大型連休(ゴールデンウイーク)に入ったなか、本稿を執筆している。



2023年5月から新型コロナウイルスが5類へ移行して以来、インバウンド(訪日外国人旅行者)も増え続け、日本人も個人や団体を問わず国内旅行への回帰を見せ、修学旅行も本格的な復活を遂げてきたこともあり、貸し切りバスの需要も活発となっていた。そしていままでは、目立った大きな事故の報道はなかったのだが、大型連休に入ってから貸し切りバスが関係する事故の報道が相次いだ。



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報道によると、4月30日未明、栃木県の東北自動車道・黒磯PA(パーキングエリア)下り付近の本線車道上に故障で立ち往生していた高速バスに、同じ事業者で目的地の異なるバスが追突するという事故が発生した。両方のバスの乗客合わせて5人が重軽傷を負っている。



また、同じく4月30日に、神奈川県横浜市内の交差点では、日帰りキャンプへ向かう高校生を乗せた貸し切りバスがトラックと衝突するという事故も発生している。この事故によりバスに乗っていた高校生7名とトラックのドライバーと同乗者合わせて9名が軽いケガを負っている。



ふたつの事故ともに、今後は警察により詳しい事故原因の究明が行われることになるので、現時点で明確な事故原因というものはわかっていない。



ただ、やはりここで気になるのは「2024年問題」の存在である。



東北道の事故は同じ事業者が運行する、東京駅発仙台行きのバスと、新宿(バスタ新宿)発泉中央(仙台)行きのバスにより事故が発生している。新幹線利用より割安であり、しかも深夜運行となるので寝ている間に移動ができる利便性から、深夜高速バスは若い人を中心に人気が高い。運行事業者も事故を予防するために十分でさまざまな方策を講じているものの、事故を100%防ぐとは断言できないのが現状であり、事故発生自体を非難するつもりはない。



運転士の労働環境を守るハズがむしろ危険に!? バス業界にとって2024年問題は命にかかわる問題だった
バスタ新宿の高速バス乗り場



タクシーにおいても都市部を中心に、途中休憩はあるものの、連続20時間ほど乗務を行う「隔日勤務」が一般的。深夜高速バス運転士や隔日勤務のタクシー運転士は深夜もステアリングを握ることになるので、それを意識した勤務体系で乗務し、生活リズムを調整して安全運行に務めようとしている。しかし、人間が「昼間活動して夜は寝る」というのは万国共通であり、人類が誕生してから長い間そのリズムで生きてきているので、「夜働くのだから昼間寝ていればいい」とは単純にいかない部分もある。



そのため、運転士としてキャリアを積むなかで、ベストコンディションで乗務できるようにかなり意識して日々生活している人も多いと聞く。「『当日突然、隔日勤務でタクシーに乗ってほしいといわれるのは、心構えもできていないのできつい』といった話を聞いたことがあります。特殊な就労時間となりますので、ルーティーンというものにこだわる人も多いようです」とは事情通。



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夜間のタクシーの車列



現状の労働時間の改善策は何もいいことがない

時間外労働の上限規制が適用されることにより、乗務シフトは当然変わることになるだろう。つまり、現状は自分たちで確立したルーティーンの変更を余儀なくされながら日々乗務していることになる。拘束時間を減らすことを目的とした「働き方改革」のひとつとして時間外労働の上限規制が適用されるようになったのだが、現状では「収入面での不安」を抱えながら、外的要因でまさに働き方が変えられてしまっている。



運転士は人間であり、特殊な勤務形態のなかステアリングを握ってきた運転士にある日突然、「働き方を変えなさい」というのは、かなり乱暴な動きのようにも見える。遠足など貸し切り輸送でのバス乗務についても、渋滞などで帰庫が遅れ、結果的に時間内に業務が終了しなければ(運転士は運転だけをしていればいいというものではない。車庫に帰ってきてからもさまざまな付随業務があるのだ)その後直近の乗務ができなくなるといった不安もあると聞く。



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夜間のバスの車庫



「あるタクシー会社の新人研修では、『明け方はたとえ目が開いていても、思考能力が落ちている、つまり頭のなかは半分寝ていると思いなさい』と教えていたと聞いています」とは事情通。



一般路線バスでは減便や路線廃止の動きに歯止めがきかない。スーパーではトラック輸送が滞ることとなり、営業時間中ずっと商品陳列を行っているが、それでも欠品が相次いでいる。

「働き方改革」の旗印のもと、利用者の利便性が損なわれ、離職が目立つことも含め、現場で働く運転士にも過度な負担を強いてしまっているように筆者は見える。今回の事故原因について2024年問題が影響しているとは断言できないが、バスが関係する事故の報道が相次いだのを見ていると、まったく関係がないともいい切れない。



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駅前のバスロータリー



現場軽視のように見える動きが、今回の2024年問題を顕在化させているように見えるのは筆者だけなのだろうか。

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