この記事をまとめると
■アメリカでは「レモン24時間レース」という珍レースが盛り上がりを見せている■レモン24時間レースには500USドル以下で購入した車両でなければならないというレギュレーションがある
■「完走の可能性が低い車両がある程度頑張って走った場合」にグランプリの賞が与えられる
ル・マン24時間レースならぬレモン24時間レース
ル・マン24時間レース(24 Heures du Mans)といえば世界でもっとも有名な耐久レースであるのみならず、F1モナコGPやインディ500と並んで「世界三大レース」にも数えられるわけだが、そんなル・マン24時間レースをもじった「レモン24時間レース(24 Hours of Lemons)」なる珍レースがいま、アメリカ各地で盛り上がっていることをご存じだろうか?
いや「ご存じだろうか?」などと上から目線で言ってみたものの、筆者もじつはいまその存在を知ったばかりである。そして「レモン24時間レース」の公式サイトを見るにつけ、すっかりそのジャンクな魅力に取り憑かれ始めている次第だ。
「レモン24時間レース」は2006年にカリフォルニアで始まり、いまでは全米各地のサーキットで開催されている草レースというか珍レース。

この500ドルには、さすがに安全装備(6点式ロールケージや消火器および消火システム、5点式または6点式レーシングハーネス等々)とブレーキ、ホイール、タイヤの価格は含まれないが、車両の購入と準備にかけた金額は、厳密に500USドル(現在のレートで約8万円)以下でなければならない。これが、このレースの名称が「Lemons(英俗語で「すぐ故障する機器」「欠陥車」「不良品」などの意味)」である理由だ。

ちなみに、もしも500USドルルールに違反していると判断されると、BSF(Bullshit Factor) と呼ばれるものが割り当てられ、購入&準備価格が10ドル超過するごとに1周分のペナルティが課せられることになる。
違反したドライバーの時間を無駄にするための数々のペナルティあり
まぁそのような形で24時間の(本当は12~16時間の)過酷な耐久レースが普通に始まり、フラッグの意味や運用法などは真面目なレースとまったく同じなのだが、ペナルティと処罰システムに関しては、真面目なレースとはまったく異なっている。

一部の違反に対するペナルティの内容は「ホイール・オブ・ミスフォーチュン」という、宝くじの当選番号を決めるときのルーレット装置みたいなモノによって決められるのがレモン24時間レースの特徴。
たとえばホイール・オブ・ミスフォーチュンの矢印が「MARCEL MARCEAU」を指すと、違反したドライバーはなぜかフランスのパントマイムアーティスト「マルセル・マルソー」のように顔を白く塗ったうえでベレー帽をかぶり、自らが犯した罪をパントマイムによって表現しなければならない。
こうした特殊ペナルティの内容はレースの開催地によって異なっているようで、たとえばサウスカロライナ州で開催されたレモン24時間レースでは、同州の元知事にならって「クルマに、アルゼンチン人の愛人に贈る長いラブレターを書かねばならない」という珍ペナルティもあった模様。とにかく、すべてのペナルティは「違反したドライバーの時間をとにかく無駄にするため」に考案されている。

そしてこれは2013年シーズンが最後で、いまは実施されていないようだが「People's Curse(人々の呪い)」という賞もかつてはあって、その日の観客の投票により「もっとも嫌な運転をしていた」と判断された車両が、大型重機によって破壊されるという恐ろしいものだった。
レース前のBSF(Bullshit Factor)を差し引いたたうえで、もっとも多くのラップを完走した車両には「Win on Lap(ラップ数で優勝)」が授与され、チームにはトロフィが贈られるわけだが、レモン24時間レースにおいてグランプリに位置づけられているのは「Index of Effluency(インデックス・オブ・エフルエンシー)」賞だ。

本家であるル・マン24時間レースのIndex of Effluencyは、車重や燃料使用量、平均速度を考慮した複雑な計算式に基づいて最高得点を獲得した車両に与えられたものだったが、レモン24時間のそれは「完走する可能性はきわめて低く、ましてや十分なラップ数で完走することなど考えられない車両が、ある程度頑張って走った場合」に贈られるらしい。

日本に住んでいる我々としては、そう簡単に参戦できるものでもない「レモン24時間レース」だが、もしもアメリカに旅行する機会があったなら、ぜひともその素晴らしくもトンチキなレースを、一度ぐらいは生で観てみたいものだ。