この記事をまとめると
■スバルは社内に「航空宇宙カンパニー」がありさまざまな事業を行っている■航空宇宙カンパニーの歴史は100年以上前の航空機メーカー時代にまで遡る
■旅客機部品の製造や自衛隊機、ヘリコプターの生産、スバル車のパーツまで手がける
長い歴史をもつスバルの航空宇宙事業
スバル(SUBARU)といえば、いまでこそ東京のおしゃれタウン・恵比寿に本社ビルを構えて頑張っているが、基本的には「グンマを本拠とする、いまひとつ垢抜けない自動車メーカー」と呼びたくなる存在だ。まぁ筆者の場合は、そんなスバルの「ダサかわいい部分」を大いに気に入っているのだが。
しかし、スバルは垢抜けないと同時に「航空宇宙カンパニー」という堂々たる最先端カンパニーを社内に擁している企業でもある。
スバルの航空宇宙カンパニーは、1917年(大正6年)に中島知平が群馬県尾島町に創設した「飛行機研究所」、つまり翌1918年には「中島飛行機製作所」に改称された航空機メーカーの歴史と情熱を受け継ぎ、民間事業と防衛事業、ヘリコプター事業という3本柱で多種多様な航空機を開発および生産しているカンパニーだ。
民間事業では、1973年(昭和48年)に米国ボーイング社の旅客機生産に参画して以来、50年以上にわたり主要パートナーの1社として開発・生産に関わってきた。
スバルの航空宇宙カンパニーが担当しているのは、ボーイング社製旅客機の「中央翼」。中央翼とは、航空機の左右主翼と前後の胴体をつなぎ、荷重を支える主要な部位。その中身は燃料タンクとしての役割も果たすため「高強度・高液密」が求められ、製造には高い技術力が必要となる。そして777型ではアルミ合金を主体とした中央翼だったが、787型ではボーイングの旅客機として初めて主要構造に炭素繊維複合材CFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastics)を適用した。そんな部分の開発と製造を担っているのが、スバルの航空宇宙カンパニーなのだ。

愛知県の半田工場は、すでに1000機を超える「ボーイング787」「ボーイング777X」「ボーイング777」と、海上自衛隊の哨戒機「P-1」および航空自衛隊の輸送機「C-2」向け中央翼の生産を行ってきた、世界的にも類まれな大型航空機の中央翼生産センター。2023年5月には、半田工場での大型航空機用中央翼の製造と出荷が累計で3000機に達している。
そして、防衛事業では、航空自衛隊と海上自衛隊向けの初等練習機システムと、陸上自衛隊向け多用途ヘリコプターおよび戦闘ヘリコプターなどの事業において、機体の製造と定期整備、補給、訓練など全般にわたる運用サポートを半世紀に渡り担当。2023年5月には関係会社である富士航空整備株式会社において、海上自衛隊の初等練習機「T-5」の定期検査が累計で2500機に達した。

また、スバルの航空宇宙カンパニーは「無人機システム分野」においても多くの開発実績を誇り、現有システムの運用支援と将来システム研究開発に積極的に取り組んでいる。
ヘリコプターの生産やスバル車にも関与
ヘリコプター事業においては、陸上自衛隊の多用途ヘリコプター「UH-2」の量産ラインを宇都宮製作所に設置し、生産を担当。ちなみに「UH-2」は、航空輸送や災害時における人命救助と住民避難、消火活動などの「国民の安全・安心を守る任務」に使用されているヘリコプター。その民間向けバージョンである「SUBARU BELL 412EPX」の受注と販売も、順調に伸ばしているようだ。

そして、航空宇宙カンパニーは、スバル製市販車の開発に参加することもある。
たとえば2000年に発売されたインプレッサWRX STiに装備されたチタン製パイプを用いたストラットタワーバーや2010年発表のコンプリートカー「WRX STI tS」に採用されたカーボンルーフは、航空宇宙カンパニーが開発に参加し、航空機の開発を通じて得た知見を生かした開発が進められたものだ。とくにカーボンルーフについては、当時ボーイング787の開発を進めていた航空宇宙カンパニーが持つ「炭素繊維複合材を用いた構造物の設計ノウハウ」を生かし、東レと共同開発したものである。

「航空機に関連する先端技術が、自分のクルマにも使われている……!」という感慨がリアルに抱けるのは、ヒコーキ野郎であることも多いクルマ好きにとっては大変喜ばしいことである。喜ばしいついでに、スバルにはぜひ国産戦闘機の開発にも参画してもらい、「令和の四式戦」的な機体を作ってほしいとも思っている。だがまぁそれはあくまでも見果てぬ夢ということで、とりあえずは「中島飛行機」の情熱をいまに受け継ぐ航空宇宙カンパニーが存在していることに、涙したいと思う。