この記事をまとめると
■自動車には車格がありそれによってパワーユニットはある程度規定される■車格を飛び越したハイパフォーマンスエンジンを積んでしまった市販車もある
■見た目に反して刺激的な「やりすぎ」国産3モデルを紹介
普通のクルマにハイパワーユニットを押し込むロマン
自動車業界では、ボディサイズやキャラクターなどから車格が判断されるもので、それに見合ったパワーユニットの組み合わせは定番といえる範囲があるものだ。
たとえば、全長4m未満くらいのBセグメント・コンパクトカーでエンジン車を想定すると、排気量1~1.5リッターくらいのエンジンを積んでいるとユーザーはイメージするだろう。だからこそ、このクラスにおいて1.6~2リッターといった、ワンクラス上のエンジンを積んでいるとホットなスポーティモデルと認識されるわけだ。
そんな自動車業界の常識を吹っ飛ばすような刺激的かつ過激なモデルが、かつて国産車において、しかもトヨタに存在していたのを知っているだろうか。
それこそが2007年に発売された「ブレイドマスター」である。
このクルマの成り立ちを簡単に整理すると、基本的なボディやアーキテクチャーは、カローラクラスのFFハッチバック車「オーリス」の発展形となっている。オーリスは1.8リッターエンジンを積むグローバルモデルとして誕生したが、その上級バージョンとなるのが「ブレイド」で、誕生当初は2.4リッターエンジンを積むことでプレミアム性をアピールしていた。
さらにいえば、リヤサスペンションについて、オーリスはトーションビームを基本としていたが、ブレイドでは全車にダブルウイッシュボーンを採用するなど差別化していた。

すでにオーリスからブレイドが派生した段階で排気量アップによるプレミアム性を得ていたが、そのブレイドに3.5リッターV6エンジンを搭載した“もっと上級”なバージョンとなるのが「ブレイドマスター」だ。
このV6エンジン(2GR-FE型)は、同時期にエスティマなどにも積まれた、トヨタの量産FF最強ユニットで珍しいものではなかったが、軽量ハッチバックのブレイドに積んでしまったのには驚かされた。

6速ATとコンビネーションを組むV6エンジンの最高出力は280馬力、ブレイドマスターの車重は1480kgだったから、パワーウエイトレシオでいうと約5.28kg/馬力となる。この数値は、RX-8やNSXといったNAエンジンを積むスポーツモデルと同等レベルであることからも、ブレイドマスターのパフォーマンスは想像できるだろう。
1.8リッターのオーリスから、2.4リッターのブレイドが誕生、そして3.5リッターのブレイドマスターへホップステップジャンプと3段飛びのように進化したことも印象深い1台だ。

そのパワーユニットをコレに載せるのか!?
さて、ブレイドマスターがV6エンジンを積んだ背景には、前述したようにそのエンジンが横置きプラットフォーム用に横展開していたことでバリエーションとして追加しやすいという面があったことは無視できない。「手っ取り早い方法」と表現すると怒られてしまうかもしれないが、このように手持ちの最強パワーユニットをラインアップ内で展開するというのは、量産車の商品企画ではよく見る手法ともいえる。
その意味で、「わかるけどやり過ぎ」と感じたモデルとして思い出すのが三菱の「シャリオ・リゾートランナーGT」だ。

「シャリオ」というのは、三菱が1983年に生み出した3列シートミニバンの名前。初代の誕生は1983年とミニバンの元祖的モデルでもある。ただし、当時のトレンドからリヤドアはヒンジタイプだったが……。
そんなシャリオが2代目へと進化したのは1991年、当初は2リッターSOHCエンジンだけの設定だった。その後、2リッターのガソリンエンジンはSOHCながら16バルブに進化、さらに2リッターディーゼルターボが追加される。さらに2.4リッターガソリンエンジン搭載グレードも誕生するなど、徐々にバリエーションを広げていった。
そして1995年に追加された「リゾートランナーGT」には2リッターDOHCインタークーラーターボエンジンが搭載された。最高出力230馬力を発生するこの4気筒ターボの型式は「4G63」で、トランスミッションは5速MTと4速ATを設定。そう、ランサーエボリューションのパワーソースを、ほとんどそのまま移植した内容となっていたのだ。

もっとも、ボンネット上にエアインテークがあることからわかるように、インタークーラーは上置きタイプ。ランサーエボリューションではフロントバンパー内に大型インタークーラーを前置きしていたのに比べると、ポテンシャル的には抑えられているように見えたが、リゾートランナーGTの駆動方式は4WDだけ。
同じく、ラインアップ内におけるスポーティモデル向けに開発したエンジンを意外なクルマに積んだ例として、最後に紹介したいのはホンダの軽自動車「トゥデイRs」だ。

ホンダの「RS」といえば、伝統的なスポーティグレード名であり、最近ではシビックに復活したことで話題となったが、トゥデイの場合は大文字の「R」と小文字の「s」を組み合わせているため、デビュー当時はそれほど話題にならなかったと記憶している。
あらためて「トゥデイ」というクルマを紹介すると、初代は1985年に誕生した軽商用車(ボンネットバン)だった。1988年に乗用タイプとして生まれ変わったのち、1990年には軽自動車規格の変更に合わせて660ccエンジンを新搭載しマイナーチェンジするなど進化していった。

ここで取り上げているトゥデイは、軽自動車としては珍しい2ドアボディに独立したトランクをもつスタイルで1993年に誕生した、四輪のトゥデイとしては最終型となった2代目モデルである。
2代目トゥデイのエンジンは、全車で直列3気筒SOHC 12バルブエンジンのPGM-FI(インジェクション)仕様となっていた。基本的な仕様は最高出力48馬力だったが、デビュー当初のトップグレード「Xi」だけは58馬力と、当時の軽自動車向けNAエンジンとしては突出した最高出力を誇っていた。

それもそのはず、このエンジンは1991年に生まれたホンダの軽2シーターオープン「ビート」譲りのMTREC(燃料噴射マップ切換方式の3連スロットル)を採用していたのだ。MTRECという贅沢な装備を、一見するとお買い物クルマのトゥデイに搭載してしまうというのは驚きではあったが、「ホンダF1テクノロジーを応用したエンジンを積むビートがほしいけれどふたり乗りじゃダメだなぁ」とあきらめていたファンにとっては福音となる1台だった。

その後、トゥデイには4枚ドア仕様の「トゥデイ アソシエ」が追加されるなど時代に合わせた進化をしていく。そして、1996年には軽自動車のスタンダードともいえるハッチバックボディへと大胆に変身することになる。
その際に生まれたのが前述した「トゥデイRs」で、そのレーシーなグレード名から想像できるように、MTRECエンジンが搭載されていたほか、当時としては珍しくABSのオプション設定もある、ハイエンド軽乗用車だった。