この記事をまとめると
■フォードとVWの経営不振による工場閉鎖や従業員解雇が報道されている



■両メーカーに共通しているのはBEVブームに出遅れたイメージが強いことだ



■「BEVでつまずいた」という報道が目立つが問題はもっと根深いところにある



人員削減と工場閉鎖で米・独もてんやわんや

アメリカのフォードモーターが11月20日に欧州にて2027年末までにおよそ4000人の人員削減を行う計画があることを発表した。似たような話題ではドイツのフォルクスワーゲン(以下VW)が、会社創設以来初ともされている、ドイツ国内3工場の閉鎖とともに、数万人規模ともされる従業員解雇を計画しているとして、とくにドイツ国内では大揺れの事態を招いた。またそれに関連して、多くのサプライヤーでもリストラ計画が浮上し、ドイツ国内はさらなる混乱に陥っているようである。



このふたつのブランドに共通しているのが、BEV(バッテリー電気自動車)の販売不振である。フォードやVWのみならず、世界的にBEV販売は苦戦傾向がここのところ目立ってきている。「物珍しさ」や「新しいもの好き」といった趣向の強い消費者を中心とした初期需要が一巡したためとか、いったんBEVを購入したものの再びICE(内燃機関)車に乗り換える傾向が目立つなど、その背景に諸説あるものの、世界的なBEVの販売苦戦が続くなか、とくにフォードやVWはその傾向が顕著となっている点では共通しているといえよう。また、両メーカーに共通しているのは、そもそもBEVラインアップに出遅れたイメージが強いところもあるようだ。



北米市場で見ると、フォードはすでにクロスオーバーSUVスタイルとなる「マスタングマッハE」、フルサイズピックアップトラックの「F150ライトニング」そして、LCV(ライトコマーシャルビークル)となる「Eトランジット」の3つのBEVをラインアップしている。



巨大メーカーのフォードとVWが共に苦戦! 巷で言われる「BE...の画像はこちら >>



ほかのアメリカンブランドとなるGM(ゼネラルモーターズ)では手もちのブランド(シボレー、キャデラック、GMC、ビュイック)が多いこともあり、全体で見ればBEVのラインアップは多めとなり、ステランティス傘下のクライスラー系ブランドはフォード、GMに比べBEV車のラインアップでは出遅れを見せている。



意外なところでは、日本では「ライトバン」などとも表現されるモデルに近いLCV(ライト・コマーシャル・ビークル)における車両電動化が進んでおり、GMのシボレー・エクスプレスはモデルレンジの長い伝統的なフルサイズバンなので除外となるが、フォード・トランジット、ラム(クライスラー系)・プロマスター(フィアット・デュカトのダッジ版)、そしてメルセデス・ベンツ・スプリンターでは、街なかでもBEV仕様を頻繁に見かけることができる。



フォードもLCVの販売では健闘しているようであるが、そもそもアメリカンブランドは、アメリカでもBEV普及に前のめりとなっているカリフォルニアでは人気が低く、そのなかでフォードはICEも含む乗用車販売でも苦戦傾向が目立っているように見える。



巨大メーカーのフォードとVWが共に苦戦! 巷で言われる「BEVのつまづき」じゃない根深い原因とは?
フォード・マスタングマッハEのフロントまわり



VWも北米市場で見ていると、すでにBEVがどうのというよりブランド全体の販売苦戦傾向が目立っている。カリフォルニア州を中心にアメリカではHEV(ハイブリッド車)のニーズが高まっているが、そもそも欧州系ブランドがBEVに前のめりとなっている背景には、「アンチ日系HEV」もあるとされている。



とくにVWのような量販(普及)ブランドではBEVは敷居が高く(アメリカでは中国系BEVが存在しないのでそもそもラインアップが限定的)、ICE車であっても日系フルHEVが市場を席巻しているなかで、フルHEVのラインアップもないために販売苦戦となっている。



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北米仕様のフォルクスワーゲンID.Buzz



そもそもクロスオーバーSUVでもラインアップに出遅れを見せていただけに、VWの場合は主要市場のひとつであるアメリカで見ると、消費者ニーズをすくいきれていない様子が伺える状況となっている。



そもそも使いやすいクルマを用意できていないフォードとVW

あくまで筆者の私見になるかもしれないが、フォードとVWに共通しているのは、コネクテッドシステムの使いにくさというものもある。



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フォルクスワーゲンID.4のインフォテインメント画面



筆者は南カリフォルニアでレンタカーを借りる機会がある際は、最近はシボレーブランド車をよく借りていた。アメリカなので取扱説明書を見ても英語でよく理解できず、とりあえずスマホをブルートゥースでつなぐなどの操作を直感(こうすればいいかなと探りを入れて操作する)で行う。



シボレー車ではそんなに手こずることなく操作ができる。計器盤はアナログでセンターに小さいディスプレイがあり、そこにいろいろな情報表示ができることになる。



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シボレー車のレンタカーのインフォテインメント画面



筆者はオドメーターではなく、トリップメーターを表示させて運転するようにしている。ツイントリップメーターなのでトリップAを毎日リセットしてその日の走行距離を、トリップBでは借りている間の累計走行距離を表示すことができるようにしている。ステアリングにあるボタンで操作するのだが、トリップ表示以外の操作についても、階層がそれほど深いこともなく、走行中でもブラインドタッチで表示切り替えが容易となっている。



2024年秋にはシボレー車の次にフォード車を借りたのだが、シボレーと比べるとその操作の複雑さが目立っていた。つまり、使いにくいのである。ブルートゥースをつなぐだけでも手こずることとなった。計器盤はフルデジタルタイプでステアリングリモコンで表示切り替えを行うのだが、操作が複雑で何段階か階層を進んで操作しないとトリップ表示に行きつくことすらできなかった。



巨大メーカーのフォードとVWが共に苦戦! 巷で言われる「BEVのつまづき」じゃない根深い原因とは?
フォード・エクスプローラーのインパネまわり



インパネセンター部のディスプレイでは、運転中に音楽を聞いているときに何曲か曲を飛ばしていたら突然画面がフリーズしてしまい操作不能となってしまった。慌ててフリーウェイを降りて、エンジンを再始動したら再び動き出した。細かいことは省くが、シボレーと比べると操作が複雑でわかりにくく信頼性にも疑問符がつく印象を強く持った。



VW車でも、ディスプレイオーディオを含め、操作系全般のヒューマンインターフェースがあまりよくないと、筆者だけではなく試乗した多くの人から異口同音に聞くことができた。



巨大メーカーのフォードとVWが共に苦戦! 巷で言われる「BEVのつまづき」じゃない根深い原因とは?
フォルクスワーゲンTクロスのディスプレイ画面



フォードはベルトコンベアを活用した量産体制をいち早く確立させ、自動車の量産化について先駆者として名をはせてきた。VWも、ビートルをはじめ廉価ながら高品質な大衆車を数多く世界で販売してきたメーカーだ。しかし、長年世界に良質で廉価な自動車を供給してきただけに、最近の目まぐるしい自動車業界の変化の波に乗り切れていないことが、今日の苦戦傾向を生んでしまったものと筆者は考えている。



メディアでは単に「BEVでつまずいた」といったニュアンスの報道が目立つが、問題はもっと根深いところにあるのではないか。それはこの2ブランド以外でも長い間自動車業界を引っ張ってきた欧米そして日本の多くのメーカーも同様であって、それを解決しプロダクトに反映しているのである。ただ、フォードやVWはその解決策を見誤り、対応に出遅れてしまったことが、現在の状況を招いているのではないかと考えている。

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