この記事をまとめると
■多くの人を乗せて街なかを走る路線バス



■近年ほとんどの車両が中央に扉を設けている



■これは低床バスの構造によるものだ



なぜ路線バスの扉は中央にあるのか?

公共交通機関として各地で活躍する路線バス。誰もがお世話になることがある、たいへん身近な乗り物といえよう。そもそも「バス」は、乗合馬車を意味する「オムニバス」を語源としており、多くの人が利用することが前提になっている。

一般には、「大量の人員を輸送することを目的とした乗合自動車」と定義されているのだ。



このように、バスには多くの乗客が乗降するという特徴があるため、効率よく人の流れを作る必要がある。ただ、運送事業には供されない自家用バスや貸切バス、長距離バスなどの場合は、その頻度が高くないことや乗降のための停車時間を長くとれるために、出入り口は概ね左側前方に1カ所設置する構造になっている。



これと異なり、路線バスは比較的短距離の定められたルートを運行し、停留所ごとに相応の乗降客が発生するという特徴がある。そのため、乗車と降車で扉を別に設けてスムースな乗降ができるように工夫されている。



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よって、扉の位置は左側前方と、左側中央あるいは後方に設けられているのだが、近年登場しているほとんどの車両は中央に扉を配しているのだ。乗客の流れを考えれば、前方と後方のほうがスムースだと思われるが、これには納得の理由があった。



床が低い場所に扉を配置している

結論からいうと、それはバリアフリーの観点から普及した「低床バス(ノンステップバス、ワンステップバス)」独特の構造によるものである。バスは後部にエンジンを配する(マイクロバスなどは、前部にエンジンを配するタイプが多い)ので、その周囲の床はどうしても高くなる。ツーステップバスであれば、床自身は高くなるのだが車内全体がフラットな構造になるので、後部にドアを設けても大きな支障がない。



しかし、「低床バス」は床を低くできるのが車両の中央までで、後方はエンジンや駆動系機器などの関係から高くせざるを得ない。そもそも、「低床バス」は高い床がバリアとなる人たちに配慮しているものだから、高くなった後部にドアを設けては意味がなくなってしまうのだ。



また、安全性の面から運転手には中扉が好まれる傾向にあることも大きい。現在の路線バスはほとんどがワンマン運転であるため、後部扉(中扉を含む)の扱いや安全確認も運転手が行う。これにはセンサーが併用されているものの、重要なのはミラーによる目視確認だ。いうまでもないが、運転手により近いほうがこの確認がやりやすいのである。路面電車でも、ワンマン化が進んだときに導入された車両は中扉が多かったといわれている。



人の流れを考えれば「後ろから乗って前で降りる」のが効率的なハズ! それでもイマドキの路線バスが「中扉」を採用する納得の理由
路線バスのイメージ



では、前方の扉と中扉のどちらから乗り降りするのが乗客の流れがスムースなのかというと、その答えは出ていないようである。これは、地域、バス会社、路線によって考え方があるようで、メリット・デメリットの判断が難しいのだそうだ。



前乗りであれば料金は先払いになるので、均一区間同一料金制の路線には採用がしやすい。多区間変動料金制であれば後払いが便利なので後ろ乗り(中乗り)になる。しかし、京都市営バスなど一部の事業者は、均一区間でも後ろ乗り(中乗り)を採用しているというからおもしろい。



路線バスは地域運用がほとんどなので、ルールとして定着していれば乗客が戸惑ったり不便を感じたりすることがないのだろう。普段何気なく利用している路線バスだが、乗客の利便性や安全性に配慮してさまざまな工夫が重ねられているのである。

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