この記事をまとめると
■2024年1月14日に「SUBARU×MAZDA スーパー耐久シリーズ 合同展示・トークイベント」が開催された■スバルの廃カーボン材をなぜマツダのレース車両に提供することになったのかの経緯が語られた
■2025年シーズンの今後の目標を両陣営が語った
スバルの本社ビル内にマツダのレース車両を展示
2025年1月14日、エビススバルビルで「SUBARU×MAZDA スーパー耐久シリーズ 合同展示・トークイベント」が開催された。
スーパー耐久シリーズとは、1991年に開催された「N1耐久シリーズ」からスタートした耐久レースで、ときには市販車ベースの車両でプロドライバーとアマチュアドライバーが争う、そんな敷居の低さも魅力のひとつとなっているモータースポーツだ。さらに2021年には、スーパー耐久が認めた、自動車メーカーの開発車両がエントリーできる「ST-Qクラス」も新設され、トヨタや日産、ホンダなどのワークスチームも参戦して活況を呈している。
今回トークイベントを行うスバルとマツダも、2022年シーズンからST-Qクラスへの参戦を続けており、お互い良いライバルとして切磋琢磨している。
トークイベントは、なぜスバルとマツダがスーパー耐久に参戦するに至ったか、その経緯を語るところからスタートした。まず、SUBARU Team SDA Engineering代表の本井雅人氏が、「トヨタからスーパー耐久の場でGR86とBRZの公開開発をしませんか、というお誘いがあったのがきっかけでした。我々は参戦するにあたって、現時点で生産している市販車にも使用できるカーボンニュートラル燃料の開発、モータースポーツの環境においての人材育成、ST-Qクラスの参戦車両から市販車へのフィードバック、という3つの目標を掲げ、活動を続けています」と語った。

実際に参戦車両から市販車へフィードバックされた技術の具体例としては、昨年改良されたスバルBRZに新たに設けられた「スポーツモード」に生かされていることも明かしてくれた。
一方、MAZDA SPIRIT RACING代表の前田育男氏は、「ST-Qクラスが創設された当時、トヨタさんからお誘いのお話をいただきました。マツダはモータースポーツ活動を2002年に一時休止していましたが、個人的にはマツダでもう一度モータースポーツ活動をしたいという考えを持っていたので準備もできていた。企業としてGOサインが出るのを待っているような状態だったところに、スーパー耐久参戦のお誘いをいただいたので、まさに『渡りに船』だと感じました」と当時の内情を教えてくれた。

スーパー耐久では、トヨタ・日産・スバル・マツダ・ホンダの5社が「共挑」という言葉をテーマにS耐ワイガヤクラブという自動車メーカーの垣根を越えたグループを作りスーパー耐久のレースウィーク時に自由な討論が行われている。
そんなS耐ワイガヤクラブから実際に実現した例としては、2024年シーズンのMAZDA SPIRIT RACINGのST-Qクラス車両である「MAZDA3 Bio concept」に採用されたSUBARU 航空宇宙カンパニーの廃カーボン材を使用した再生カーボンボンネットがある。

再生カーボンの今後のさらなる活用についても言及
今回のトークイベントでは、SUBARU 航空宇宙カンパニー 基盤技術部の関根尚之氏とマツダ ブランド体験推進本部 ファクトリーモータースポーツ推進部の上杉康範氏も加わって、再生カーボンパーツが実現するまでの裏話が語られた。
まず、スバルの関根氏が、再生カーボンを使うことになった経緯を教えてくれた。
「もともと飛行機の主翼などを製造するときに出る廃カーボンをリサイクルできないかと模索していたところ、スーパー耐久に出場していたスバルBRZに、我々の再生カーボン材を利用したボンネットを製作することになりました。そんななか、S耐ワイガヤクラブの場でマツダさんから、『再生カーボンをうちのマシンへ提供できませんか』という打診をいただきました。我々としてはカーボン材をさらに再利用できるので、喜んで了承しました」と当時を振り返った。

マツダの上杉氏は、後日、SUBARU 航空宇宙カンパニーの工場へ出向いたとき、再生カーボンの元となる廃カーボンを見て、「ここには宝の山がたくさんある」と感じたという。

実際、「MAZDA3 Bio concept」に採用された再生カーボンボンネットは、以前のボンネットと比較して、14kgもの軽量化を実現しているという。
今後の再生カーボンの利用に関して関根氏は、「工場にはまだこうした廃棄されるカーボン材があります。それをゼロにできるように、スーパー耐久での活用法を模索していきたいです」と語った。
今後のスーパー耐久での目標として、まずSUBARU Team SDA Engineering代表の本井雅人氏は「ターボエンジンのカーボンニュートラル化を目指しながらさらなる出力の向上を果たし、スバル独自のシンメトリカルAWDやシャシーなども見直して全方位で進化させることによって、勝てるマシンを目指していきます。さらに、再生カーボンについても、他社への提供も含めて鋭意進めていきたいです」と語った。

次にMAZDA SPIRIT RACING代表の前田育男氏は、「今後のMAZDA3 Bio Conceptは、燃料だけでなく、『走りながらCO2を回収する』システムを搭載して実験を行っていくとともに、ガチンコ勝負ができるようにマシンの戦闘能力を向上させていきたいです。ロードスターのほうは、将来のマツダのスポーツカーにつながるようなチャレンジをしていきたいと考えています。また、個人としてはドライバーとしてスーパー耐久で活躍できたらいいなと思っております」と総括した。

そして最後に、会場に来場していた一般社団法人 スーパー耐久未来機構の理事を務めている桑山晴美氏が登壇した。
「スーパー耐久のST-Qクラスがここまで成長するとは、クラスを新設したときには考えられなかったことです。ご賛同いただいている企業やチーム関係者の方々、それを報道していただいている各種メディアの皆さまに改めて感謝しております。2025年度に参加申請いただいているチーム数は80チーム以上ございますが、コースや設備によっては参加チームをある程度絞らなければならない状況です。非常に嬉しい悲鳴ですが、極力新規参戦チームの参戦をお断りをしないようにうまく調整して、今年度のスーパー耐久を盛り上げて行けたらと考えております」と挨拶した。

スーパー耐久は、FIA-GT3車両と市販車ベースのレース車両が混走する数少ない耐久レースとして、スーパーGTやスーパーフォーミュラとはまた違った魅力を持つレースカテゴリーとなっている。ST-Qクラスの新設がそうであるように、今後もスーパー耐久は時代とともに進化を果たしていくことだろう。そんな意味からも、ST-Qクラスとそこで戦うスバルやマツダの活躍からは目が離せない。