この記事をまとめると
■ミニの走る楽しさを表現する際に「ゴーカートフィーリング」という言葉が使用される



■ミニクーパーの生みの親のジョン・クーパーによりゴーカートフィーリングが花開いた



■意のままに運転できる感覚は現行モデルにも受け継がれている



キビキビ走る姿を形容した「ゴーカートフィーリング」

「MINI」というとセットのようについてくる「ゴーカートフィーリング」という言葉。昔から、小さなボディで元気に走るMINIの楽しさを表現するときに使われることが多い言葉です。でもそれって、人によって想像する走りが異なっていたり、なんとなくわかるようで正確に説明してといわれると困ってしまうような、ちょっと曖昧な表現といえるかもしれません。



私の現在の愛車はMINIカントリーマンで、ディーゼルエンジン搭載の4WDモデルとなるクーパーSDです。登場したときにMINIのなかでもっとも大きなボディだったため、「もはやMINIじゃなくてDEKAだ」などと揶揄されたりしたものですが、それでも乗ってみると、やはりゴーカートフィーリングは健在だなと思わせる瞬間があります。ただ、それを言葉で表現しようとするとなかなか難しいので、今回はMINIのゴーカートフィーリングとはいったいなんなのか? 歴史を紐解きながら考えてみました。



MINIのキャッチ「ゴーカートフィーリング」ってなに? オー...の画像はこちら >>



MINIの誕生は1959年8月26日。「Small outside、Bigger inside」すなわち、「限りなくコンパクトなボディに、大人4人が乗って荷物を積むことが十分にでき、なおかつ経済的に走れること」を条件に、偉大なエンジニアであるサー・アレック・イシゴニスがこの世に誕生させた類稀なる大衆車です。



そこから基本的な設計を変えることなく、40年ほどもの長い間人々に愛され続けてきました。そしてBMWが引き継ぎ、2001年に現在のMINIに生まれ変わるわけですが、その間にいつどんな風にこの「ゴーカートフィーリング」という言葉が登場したのか、正確な記述は見当たりません。



ただ、ひとつ推測できるのは、誕生当初からMINIの潜在的な運動性能の高さに目をつけていたひとりの男性……。その後、世界的に名を知られることになるジョン・クーパーによって、ゴーカートフィーリングが花開いていったのではないかということです。



MINIのキャッチ「ゴーカートフィーリング」ってなに? オーナーが歴史と共に紐解く!!
初代ミニとジョン・クーパー氏



というのも、いまではMINIの正式名称として統一されるほど有名な「クーパー」という名称は、当初のMINIにはついていなかったのです。サー・アレック・イシゴニスは、あくまでMINIはベーシックカーであるべきで、乗り心地のよさと扱いやすさを優先していたところがあったのですが、ジョン・クーパーはそれだけではMINIはもったいない、ベーシックカーでは満足できない人たちに向けた、スペシャルなMINIを作るべきだと熱弁。当時の販売元であるBMC上層部に掛け合うことで、ミニ・クーパーの生産にこぎつけたといいます。



その、ジョン・クーパーが目をつけたMINIのもともとの素性のよさというのが、居住スペースを確保する広いトレッドのために量産車として初めて採用されたFFレイアウト、コンパクトに収まるゴム製のラバーコーンというサスペンション、ボディ四隅に配置された10インチという小さなタイヤ。短いオーバーハングと低い着座位置など、速く走るために設計されているゴーカートとの共通点が多いといえるでしょう。



MINIのキャッチ「ゴーカートフィーリング」ってなに? オーナーが歴史と共に紐解く!!
ミニの走る楽しさを表現した「ゴーカートフィーリング」という言葉はなぜ生まれた?



パワートレインは高速型ユニットに改良され、足まわりもそれに合わせてチューニングされ、ブレーキ、トランスミッションまでしっかりセッティングされていたミニ・クーパーは、路面からの入力をダイレクトに伝えるハンドリングのよさとも相まって、ワンランク上の「速いMINI」としてスポーツカー顔負けの楽しさをもっていたのです。このミニ・クーパーの好調を受け、さらにパワーアップされた「クーパーS」も登場。このころから、MINIはモータースポーツシーンでも大旋風を巻き起こしていきます。



そして、ここからが大事なところです。ラリーやサルーンカーレースで、小さな小さなMINIがメルセデス・ベンツをはじめとする大きなマシンを追いまわし、ときには一瞬の隙をついて抜き去っていく……。その、アリがゾウを倒すような光景に人々は熱狂したそうです。デビュー翌年にはなんと、150回以上の優勝を獲得し、ラリーにおいてはメルセデス・ベンツと同率首位という活躍ぶり。



そうした光景を想像してみると、大きなマシンの合間を水すましのように右へ左へとすり抜けていく小さなMINIの動きは、まるでゴーカートのように見えたのではないでしょうか?



MINIのキャッチ「ゴーカートフィーリング」ってなに? オーナーが歴史と共に紐解く!!
モンテカルロラリーを走る当時のミニ・クーパーの車両



しかも、実際に運転してみてもミニ・クーパーは自分の手足と四隅のタイヤがまるで直結しているかのような、意のままの動きが最高に楽しい走りです。このモータースポーツシーンでの活躍と、実際のインプレッションがつながって、「MINIといえばゴーカートフィーリング」と表現されるようになったのではないか、というのが私の仮説です。



BMW版MINIも「ゴーカートフィーリング」を継承している

さらに、2001年に登場したBMWのMINIでも受け継がれているのかどうか、気になるところですが、当時取材したメモを見てみると、開発チームはみんなクラシックMINIを敬愛しているメンバーで、どうにかして現代にあった走行性能と安全性を確保しながら、クラシックMINIのもち味を再現できないかと試行錯誤したと聞いたことが記してありました。



たとえば、運転席に座ったときの視界の感覚や、タイヤが四隅にあって扱いやすい感覚。そしてまさに、「ゴーカートフィーリング」も再現したい要素に入っていたそうです。実際、初代のBMW MINI(R50)は、かなりクラシックMINIに近いハンドリングだったと記憶しています。ボディは大きく重くなっているというのに、コーナリングでもフラフラしたり大きくロールすることなく、クイックに曲がっていくあたりは、リヤサスペンションにマルチリンクを採用していることが大きいかもしれません。



MINIのキャッチ「ゴーカートフィーリング」ってなに? オーナーが歴史と共に紐解く!!
BMWミニ(初代)の走行写真



ラゲッジルームのスペースは少し犠牲になりますが、マルチリンクはコーナリング中の接地性を高めることができるのです。乗り心地に関しては、やはり路面の凹凸に対して振動が大きく入ってくることもあるのですが、それよりもハンドリングのよさ、コーナリングの楽しさを優先しているともいえるのではないでしょうか。



ただ、代を重ねていくにつれてベーシックグレードのONE(現行ではC)などは、乗り心地とのバランスがよく、ゴーカートフィーリングの面ではマイルドに感じたり、少しずつキャラクターが異なるMINIが増えていきます。最新型では3ドア、5ドアモデルの名称がすべてクーパーに統一されましたが、乗り味は上質感がアップして、普通に走っていると落ち着いた大人のコンパクトカーだと感じるほど。



MINIのキャッチ「ゴーカートフィーリング」ってなに? オーナーが歴史と共に紐解く!!
BMWミニ(第4世代)の走行写真



でも、それだけでは終わらないのがやっぱりMINIで、最新型には走行モードにその名も「ゴーカート」が登場! タッチディスプレイで選択したとたん、「ヒャッホー!」というようなテンションあげあげの雄叫びが聞こえて、思わずニヤリとしてしまいます。



そして、走り出せばキャラクターは激変。これぞゴーカートフィーリングといわんばかりのホットな走りが体感できますので、この先もMINIとゴーカートフィーリングはいつまでもセットであり続けることでしょう。

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