この記事をまとめると
■横浜市ふるさと納税の返礼品として「マツダ・プレミアムドライビングレッスン」を初開催■マツダ・プレミアムドライビングレッスンは8万円のプランが即日完売となった
■キーワードは「骨盤」と、“世界一遅くても”違いがわかるドライバー
横浜市のふるさと納税の返礼品がドライビングレッスン
2月1~2日の2日間、横浜市神奈川区にあるマツダR&Dセンター横浜にて、令和6年度の横浜市ふるさと納税の返礼品として「虫ちゃん率いる6名の匠によるプレミアムドライビングレッスン」が開催された。
まずは、ご存じない方に虫ちゃんこと、虫谷泰典(むしたに・やすよし)氏のプロフィールをざっとご紹介。近年のマツダ車の「乗り味」をつくりこみ、仕上げている匠のひとりで、統合制御システム開発本部の首席エンジニアだ。
とくに海外駐在後に手がけたプレマシーが評価されたほか、趣味のオフロードバイクからヒントを得た「骨盤を立たせることが大事」という理論でも知られている。

ちなみにマツダにはサッカー選手として入社し、現在の日本代表チームの森保 一監督とは1年違いの後輩で、寮では同室だったそう。
さらにレーシングドライバーとしても活躍。トップガン育成のインタープロトシリーズ参戦プログラムでは2期生として、2018年から2シーズンにわたって参戦。2019年は第5戦で優勝するなど、ランキング2位の成績も残している。筆者はその2年間の取材で密着させてもらって以来の再会となった。
今回、横浜市から地元に事業所を持つ大企業に「体験型の返礼品を」というリクエストがあり、それを受けたR&D 戦略企画本部の内田麻美さんが白羽の矢を立てたのが、虫ちゃんだったという次第だろう。

その虫ちゃんが選んだ6名の匠とともに、週末の半日で行ったプレミアムなレッスンの内容をお伝えしようと思う。ただし予め、全部を詳細にお知らせするわけにはいかないことをお断りさせていただく。なにせ今回のふるさと納税額は8万円。それでも週末の2日間の午前と午後、6名ずつ4回の24人の応募枠には、昨年11月13日から受付開始した即日に完売御礼。できれば来年以降も継続という状況なので、レッスンの奥義についてはあえて踏み込まない範囲での取材でお許しいただきたい。
約3時間半のレッスンは、虫ちゃんの自己紹介から始まり、巧みな話術で受講者を導いていった。まず「骨盤を立てるといい理由」という体験コーナーでは、黒とオレンジの2種類のインソールを床に置いて、それぞれに足の裏を合わせて立った状態で比較。じつはオレンジ色のインソールには自然に「足の指で地面をつかみにいく」仕掛けがあるため、はるかに安定した状態であるとのこと。後ろに(手のひらを上に向けて)組んだ両手を誰かに下に押された際に、グラつき具合が大きく違うことに全員ビックリだった。

このコーナーには理学療法士の阿部 巧さん、脳の専門家の須藤珠水さん、同じく自律神経の竹本 敦さん(いずれも所属は統合制御システム開発本部)と、今回の助っ人では最大の3名の匠がアシスト。虫ちゃんの骨盤に関するこだわりが見られる人選だった。
マツダの貴重な秘蔵車も間近で見られるドライビングレッスン
そして次の“目からウロコ”は、「あなたの身体能力を引き出すドラポジ」フィッティング。これは昨年、10周年を迎えたMDA(マツダ・ドライビング・アカデミー)のインストラクターを務めている小坂智雄さんと松比良祥一郎さん(所属はブランド体験推進本部イベント推進グループ)が担当。

このMDAはサーキットを速く走りたいということではなく、あくまで「安心・安全」で同乗者にも優しく、かつクルマを意のままに操ることが目的のスクール。その基本のひとつがドラポジだ。ハンドルをもつ場所だったり、引くのか押すのかとか、あるいは親指を握り込むか否かなど、ごくごく基本的なことでも、「こんなに違うんですね!」という受講者の驚きがこちらにも伝わってきた。さらに上半身だけでなく、下半身もドラポジでは大切ということで、どこを軸にすればスムースで疲れないペダルワークができるかを伝授されていた。
その後は、虫ちゃんのドライブする助手席で、マツダR&Dセンター横浜の敷地内を“世界一遅く”同乗走行。そこで何が語られていたのかは、8万円を払った人だけの秘密の特権だ。

さらに虫ちゃんの代表作、2代目プレマシーの前期型と後期型の乗り比べメニューも用意。これは2列目中央にあえて可動するシートを設置。そこにベルトなしで座っての走行を味わうことで、どれほど自分の体が左右に振られるかの違いを体験してもらうというのが狙いだ。
もちろん、改良された後期型のほうが後席の乗員にも優しく、頭が振られる度合いも小さくなっている。

マツダの開発ドライバーでもトップランクの中本 明さん(車両開発本部操安性開発部)が10km/hから12km/hという超低速でコースを周回。じつはこのメニューだけ筆者も体験させてもらったが、お尻が左右にズレるのはわかっても、本当の違いを感じる前に勝手に足が踏ん張って対応しちゃうために、新旧の違いを逆に感じて恥をかいたことを告白しておこう。

そして最後のメニューはレッスンではなく、内田さんの案内で、バックヤードに保管されているメモリアルマシン群の見学。ここは広島の本社ミュージアムに次ぐ規模で、普段は非公開となっている。ル・マン24時間参戦マシン(レプリカ含む)やコスモスポーツ、3輪トラックやコンセプトカーのRX-01など、とくに昔を知る年配の参加者たちからは大好評。
われわれ当日の取材陣も仕事を忘れて、展示車両を食い入るように見学してしまった。

最後はスタッフが奔走して、自分が気に入った展示車両を前にしてのスナップに、虫ちゃんの直筆サインが入った記念品も贈呈。匠たち全員が並んで手を振って見送るなか、マツダR&Dセンター横浜を後にして、8万円の特別なレッスンが終了した。
なお当日は、横浜市役所の政策経営局財源確保推進課でふるさと納税を担当する西海友希代課長も来場。横浜市のふるさと納税に関する現状をレクチャーしていただいた。単独の市では全国最多の人口を誇る横浜市だけに、当然納税者もハンパなく、令和5年度には260億円が全国のほかの市町村へのふるさと納税として、ある意味で流失していたとのこと。逆に令和の当初、横浜市へのふるさと納税額は2億円から3億円だったという。

当初は静観していた横浜市だが、さすがに自らの持つ資源の活用もするべきと、令和7年度に20億円を目標に返礼品の充実に努めた結果、令和6年度の12月までという(9カ月の)暫定で26億円を達成。最大の貢献はK社のシューマイらしいが、このマツダのレッスンの個性と存在感も注目に値するだろう。