この記事をまとめると
■CASE時代にはSDVとOTAが自動車の進化を担うといわれている■CES2025において「ヴァレオ」は車載OSとSDVエコシステムを展示し注目を集めた
■サプライヤーが主導する車載OS開発の可能性も浮上している
CASE時代で注目の最新テクノロジー「SDV」
自動車業界が100年に一度の大変革期といわれるようになって久しい。この言葉とセットで使われることが多い「CASE」は、もともとメルセデス・ベンツの提唱した概念であり、コネクティッド・オートノマス(自動運転)・シェアリング・エレクトリック(電動化)を意味している。
CASEへ対応することが、自動車メーカーの生き残りには欠かせないというのは、もはやメーカーだけでなく、ユーザーのコンセンサスにもなっているだろう。
「OTA」とは「Over the Air」の略称で、スマホやパソコンのように通信によってバージョンアップを実施しようという手法のこと。そして「SDV」は「Software Defined Vehicle」の略称で、ソフトウェアの更新によって機能追加を可能にしたクルマを指す。そのユーザーベネフィットをわかりやすくすべく、「SDV=クルマのスマホ化」などと表現することもある。
しかも、SDVは未来の技術でなく現在進行形ともいえる。有名なところでいえば、テスラの各モデルではOTAによるアップデートでADAS(先進運転支援システム)の機能追加が可能になっていたりする。その意味では、SDVとOTAはセットとなってクルマの進化を担うといえるだろう。

そんな次世代車の進化に欠かせないSDVを既存の自動車メーカーが開発するには多大なコストがかかるといわれている。そのために、各メーカーは協業や合併などによって規模を拡大することを模索しているという面もある。
SDVによるベネフィットとしては、CASEでいうところのオートノマス(自動運転)機能と関連したものが多い。これまでの量産車というのは基本的には購入した状態のままで、マイナーチェンジによって進化するくらいしかなかった。もちろん問題があればリコールやサービスキャンペーンによって改善していたが、機能面での進化は期待できなかったのも事実。
日進月歩の自動運転テクノロジーにおいて、そうした姿勢では商品力が落ちていく一方だ。将来的な機能向上を見込んだハードウェアに仕立てておいて、ソフトウェアの開発ができ次第アップデートすることにより自動運転のレベルを上げていくということが求められている。

当然ながらSDVを前提としたハードウェア(車両)開発をしていく必要もある。そこで自動車メーカー自身がSDVの肝となる車載OSに携わることがマストであり、そのためには規模のメリットが求められるというのが自動車業界再編の理由となっている。
CES2025のヴァレオブースで垣間見た未来
とはいえ、SDVの開発には自動車メーカーが巨大化することが必須かといえば、そうとも限らないようだ。2025年1月、ラスベガスで開催されたCES(かつては家電ショーだったが、いまや世界最大のテックショー)においてフランス系メガサプライヤーのヴァレオは独自の車載OSとSDVエコシステムを展示していた。

その前にヴァレオについて簡単にお伝えしよう。
ヴァレオは、ADAS、電動化などに強みをもつメガサプライヤーのひとつで、自動運転技術に欠かせないLiDARの量産化においては一日の長をみせる。世界初の自動運転レベル3を実現したホンダ・レジェンドにも同社のLiDARは採用されていた。身近なところでも、ADASに欠かせないカメラシステムなどを多くのメーカーに納入している。じつは、同社のADASを積んだクルマに乗っているというユーザーも少なくないはずだ。

前述したように、SDVの目的を自動運転の機能アップにあるとすれば、自動車メーカーよりADAS関連のセンサーを開発しているサプライヤーのほうが車載OSの開発プレイヤーとして適切かもしれない。
ユーザーが魅力を感じるような機能を、ソフトウェアの進化によって追加するとして、大きな問題のひとつが、新機能が安全に動作することの確認作業となることは想像に難くない。
ヴァレオのSDVエコシステムとは、何十万パターンものシミュレーションによる確認作業から、実際のセンサーを使ったテスト、そして同社の車載OSを積んだ実車でのテストなどを一貫して実施するシステムなのだという。クラウドを利用することで、ソフトウェア開発とテスト部隊を世界中に分散することで、スピードやコスト面での効率化を図ることも狙っている。

自動運転においては車両制御の確認も重要だが、少なくともセンシングに長けたサプライヤーが新機能の動作確認を行うというシステムを構築することは、自動車メーカーにとっても、またユーザーにおいてもメリットとなるだろう。
また、ヴァレオはバッテリーやeアクスル(モーター、インバーター)など電動化に関するサーマルマネージメント(熱管理)も得意としているが、こうした面においても、ソフトウェアをアップデートすることで航続距離を伸ばしたり、冷暖房の効果を向上させたりすることもSDVでは期待されている。

もっとも、Androidスマホにおいてハードウェアを作るよりもソフトウェアやOSを握っているほうが優位なポジションになっていることを考えると、自動車メーカーとしては独自の車載OSを開発して、それぞれにSDVエコシステムを構築したいのだろうが、ヴァレオのようなメガサプライヤーが車載OSやアップデートなどを統合的に担当するという未来もありえるのかもしれない。