この記事をまとめると
■大阪オートメッセ2025で日本工科大学校は「クラシック デリバリー TypeA」を展示



■モチーフとなったのは1920~30年代のフォードの名車モデルA



■車検を取得するための資金をクラウドファンディングで調達している



ベースモデルはまさかのジムニーシエラ

■アルミ板からなめらかな曲面ボディを作り出す職人が製作バックアップ

この車両の製作にあたっては、愛知のアートレーシングというカスタムショップの代表である村手さんの監修が活きています。村手さんはアルミの板からボディの曲面を作り出すボディメイクの世界の第一人者です。



この日本工科大学校校とアートレーシング代表の村手さんとのつながりは、学校の講師を務める松田さんが若いころにその作品に出会って感動したことがきっかけだったそうです。

その後日本工科大学校の講師になった松田さんが、「授業でボディのカスタムを扱うなら、最高レベルの技術を学ばせてあげたい」と考え、ダメ元で村手さんにオファーを送りました。その誘いを村手さんが受諾してくれたことで、普通のカリキュラムではお目にかかれないような濃い授業が実現したそうです。



そして、その授業で得たノウハウをフルに使って、今年卒業する生徒たちが自分の力で、渾身の作品を仕上げました。



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■お父さんの遺言を実行すべくジムニーに想いを込めた!

この「クラシック デリバリー TypeA」は、現行のジムニー・シエラがベースとなっています。何も情報がないまま見れば、「人気の高いジムニーを選んだんだな」と思う人も少なくないと思いますが、この卒業制作にジムニーが選ばれた理由は、そんなひと言で切り捨てられないくらいの想いの深さが潜んでいました。



100年前のフォードがモチーフ! 学生の手で作り上げたクラシックカーの中身はジムニーだった【大阪オートメッセ2025】
「クラシック デリバリー TypeA」のリヤまわり



企画のキーになったのは制作メンバーのひとりの想いでした。その生徒にはクルマ好きの父がいました。幼少期からクルマについてのいろんなことを教えてもらったり、ちょくちょく愛車のジムニーに乗っけてもらったりしていたそうです。そうして「いつか自分もかっこいいジムニーに乗りたい」と思うようになりましたが、悲しいことに、大好きな父は他界してしまいました。自分の力で手に入れたジムニーに乗る姿を見せることは叶わなくなってしまったのです。



ジムニーが好きだった父の想いを自分の手でカタチにしたいと考えるようになり、必ずそのジムニーを作りあげると決意したそうです。そうして今回の卒業制作の機会がやってきたとき、是非これをやりたいとメンバーに提案しました。はたして、こうして立派にカスタムのジムニーが完成しました。

きっと天国のお父さんはニッコリと微笑んでくれているのではないでしょうか。



■製作のモチーフは「フォード・モデルA」

この車両は、今年卒業する「カスタム自動車工学科」の3年生2名が主導ですべての作業をおこない、「車体自動車工学科」の2年生3名がヘルプに付いて進められたそうです。製作期間は実質4カ月とのこと。



100年前のフォードがモチーフ! 学生の手で作り上げたクラシックカーの中身はジムニーだった【大阪オートメッセ2025】
「クラシック デリバリー TypeA」の製作に携わった生徒たち



製作の予算は限られるため、まず車両の調達から始めたそうです。車種はジムニーと決まったので、自分たちで地元のディーラーなどに働きかけて車両の提供を募りました。



カスタムのイメージは、1920年代に大ヒットした「フォード・モデルA」です。ジムニーをベースにして、どれだけイメージを変えられるかという狙いで選ばれました。完成のイメージは、まず生徒たちが出し合ったアイディアをスケッチにしてもち寄り、製作の知見が豊富な村手さんが、実現可能な形状にまとめたそうです。



100年前のフォードがモチーフ! 学生の手で作り上げたクラシックカーの中身はジムニーだった【大阪オートメッセ2025】
「クラシック デリバリー TypeA」のリヤゲートが開いた状態



この車両は、企画段階から車検を取得して運用する計画があったそうで、バンタイプにしたのはそのためです。



最終目的は車検を取ってイベントに活用

■一筋縄ではいかない、平面の板からなめらかな曲面を作り出すプロセス

このジムニーの製作でメンバーがもっとも苦心したのは、サイクルフェンダーやルーフの曲面づくりだったそうです。



イチからなにかを造形する際の方法はいろいろありますが、粘土細工のように骨組みを作ってから肉付けをしていくのが一般的でしょう。カーデザインのプロセスでも、ひと昔前まではクレイという粘土で造形を行っていました。



しかし、アルミパネル造形の第一人者である村手さんの方法はそれとはアプローチが異なります。肉を盛って表面を作っていくのではなく、板を曲げていきなり表面をつくりあげていきます。

もちろん、基準になる部分の型紙は作りますが、その周辺の曲面は、スケッチのイメージに近づけるよう、パネルを曲げて空中に面を作っていく作業になります。それも、一気に荒く曲げてしまうと面が汚くなってしまうので、ちょっと曲げては確認し、またちょっと曲げて確認というプロセスを、カタチが決まるまで延々続けていくそうです。さらには、完成した片側を、正確に反転させて逆側を作り上げるのも苦労したそうです。



100年前のフォードがモチーフ! 学生の手で作り上げたクラシックカーの中身はジムニーだった【大阪オートメッセ2025】
「クラシック デリバリー TypeA」のフェンダーまわりの造形



これはかなり忍耐力が必要な作業でしょう。不精者の筆者は最後まで続ける自信がありませんが、彼らはそれをやり遂げました。成型プロセスにこだわって仕上げたため、面を修正するパテの使用は最小限に留められています。



■大胆に絞り込まれたエンジンルーム

「フォード・モデルA」のイメージをつくる上で最大のポイントになるのが、前方に大きく絞り込まれたエンジンルームでしょう。容積的に3分の1くらいになっているように見えますが、中身はどうなっているのでしょうか?



ボンネットを開けて中を見ると、本来は左右に余裕をもって装着されているリザーブタンクやヒューズ、エアクリーナーボックスやABSのユニットなどが、ギュッと中央に寄せられ、すき間無く詰まっている様子が見えます。ラジエターを斜めにして少しでもグリルの幅を狭くする工夫が凝らされているのも見どころです。



100年前のフォードがモチーフ! 学生の手で作り上げたクラシックカーの中身はジムニーだった【大阪オートメッセ2025】
「クラシック デリバリー TypeA」のエンジンルーム



■塗装も自分たちの手でおこなった

日本工科大学校では、塗装のプロが受ける技能検定を取得した者だけが塗装を行えるというルールを設けているそうで、この車両の塗装もそのルールに則って塗装技能士の資格を取得した生徒が自ら行っています。



注目は深いレッドの部分で、元々下地の色に影響を受けやすく塗るのが難しいとされる赤系のメタリック色にチャレンジしています。ウインドウセクションとルーフを別色にするアイディアも生徒によるものだそうです。



100年前のフォードがモチーフ! 学生の手で作り上げたクラシックカーの中身はジムニーだった【大阪オートメッセ2025】
昔風のグラフィックがデザインされた「クラシック デリバリー TypeA」のボディ側面



そして、クラシックな商用車の雰囲気を出すために昔風のグラフィックがあしらわれていますが、それも自分たちでアレンジしたそうです。



■車検取得の費用をクラファンで集める

この車両は展示の役割を終えたあと、学校のイベントや地元の振興などに活用させるという使命が与えられています。そのため、一見ショーのためのつくり込みに思えますが、実際は車検を通してナンバーを取得することを前提に作られています。唯一、サイドミラーだけは可倒式でないとならないので、交換予定とのことです。



そして、その車検の費用もバカにならないため、車両の面倒は最後まで見るというポリシーによって、生徒がクラウドファンディングで資金を調達するそうです。



100年前のフォードがモチーフ! 学生の手で作り上げたクラシックカーの中身はジムニーだった【大阪オートメッセ2025】
ブース内でクラウドファンディングの告知をしている様子

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