そもそもフルモデルチェンジは商品力を維持する目的
20世紀の国産車は、いまでは考えられないほどハイペースでモデルチェンジを繰り返していた。4年ごとのフルモデルチェンジ、2年目にマイナーチェンジというのが当たり前といった状況だった。そのため、どのタイミングがクルマの買い時になるかということは悩ましかったし、自動車雑誌などで研究したものだ。
そのかわり、毎年イヤーモデル的に改良を加えて、新鮮味を維持するような傾向にある。なぜ、モデルチェンジのサイクルは伸びているのだろか。たとえば、トヨタのラインアップから、そうしたご長寿モデルをピックアップしてみよう。
エスティマ 2006年
プレミオ/アリオン 2007年
ランドクルーザー(200系) 2007年
ヴィッツ 2010年
アクア 2011年
カローラアクシオ 2012年(2019年にFMC予定)
86 2012年
ポルテ/スペイド 2012年※いずれも現行モデルの登場年
このなかでも、驚くほどデビュー年次が古いのがエスティマだ。その発売は2006年1月だから、初期モノは13年経過の「旧車増税」の対象になってしまうほど。途中のマイナーチェンジでフェイスリフトを果たしているとはいえ、新車で売っているのと同じクルマが旧車増税を課せられるというのは、ご長寿にもほどがあると感じるのではないだろうか。
では、エスティマはなぜフルモデルチェンジをせずに、13年にも渡って作り続けられているのか。端的にいえばフルモデルチェンジをする必要がなかったからである。一般にフルモデルチェンジというのは商品力を上げることが目的であり、それは商品としての新鮮味を保つためといえる。その点において、エスティマには明確なライバルがおらず、エスティマとして熟成していくことが商品力につながるという状況にある。
さらにいえば、エスティマ的なシルエットのミニバン市場は、それほど大きくない。

ほぼ同じことがいえるのがアクアだ。こちらも同セグメントのハイブリッド専用車としてはライバル不在で、ブラッシュアップすることで燃費性能についてもトップランナーで居続けている。もちろん、安定した販売実績もある。あえてフルモデルチェンジをする必要はないのである。

ライバル不在なら熟成しながら売り続けても問題はない
今回、あえてトヨタのラインアップに絞ってピックアップしたが、他のモデルを見てもヴィッツを除くと、ライバル不在のモデルが多いことに気付くだろう。
信頼性を重視して考えればランドクルーザー(200系)のライバルは世界的に見ても存在しない。86についても、このクラスの手頃なスポーツカーは数少ない。ポルテ/スペイドも直接的なライバルは思いつかないほどユニークなモデルだ。

競争相手が不在であれば、法規対応などの課題がない限り、あえてフルモデルチェンジをする必要はないというわけだ。そして長寿モデルになると原価面でのメリットも大きい。メーカーの原価というのは明示されることはないが、ある程度の台数を売ってしまえば、金型なども含めた初期の開発費は回収でき、そこから先は利益率が高くなる傾向にある。

フルモデルチェンジによる商品力アップの必要性がなければ、小変更によって新鮮味を維持しながら売り続けるというのはメーカーにとっては“おいしい話”といえる。
とはいえ、長寿モデルというのはメーカーの手抜きというわけではない。たとえば、上に挙げたラインアップでいえばプレミオ/アリオンはマイナーチェンジにより先進安全装備「トヨタセーフティセンス」を装備している。

開発の時期を考えると、こうした装備を追加するのは電子プラットフォームなどから難しい面もあるはずだが、しっかりと現行モデルに求められる機能を満たしている。

結果として、ユーザーは最新の機能を持ったクルマを買うことができるわけで、デビュー年次が古いからといって不満を覚える必要はないのである。