実際よりも大きなRのコーナーを攻めることができる!
クルマ好きなら、走行ラインについてある程度の知識はあるだろう。サーキット走行などハイスピードでスポーツ走行やレーシング走行を行う際には「アウト・イン・アウト」の走行ラインを取るように心がける、というのが一般的で基本となるライン取りだ。一方、走り方として「スローイン・ファストアウト」という走法があり、両者を組み合わせることで速くコーナリングできると言われている。
「アウト・イン・アウト」とはコーナーの入り口で対象コーナーの外側にポジションを取り、そこからイン側にステアリングを切り込みCP(クリッピングポイント)を通過。コーナー出口ではまたアウト側を目指して立ち上がっていくというものだ。直線からコーナーへのアプローチでステアリング切り込み動作が必要なので、速度を下げなければならず「スローイン」となるわけだ。そしてコーナー出口で視界が開けたら加速し速度を上げる。これが「ファストアウト」となる。
初めてサーキット走行するドライバーがよく口にするのは「コースのどこを走ればいいのかわからない」ということ。コースを覚えていないうちは次のコーナーが右コーナーか左コーナーかもわからず、どちらにも対処できるようにコースの中央を走行し、ほかの速いクルマの走行ラインを塞いでしまっていることが多い。対象コーナーに対して「アウト・イン・アウト」を徹底していれば、他車もそのラインを読み取り安全にオーバーテイクしやすいのだ。
では何故「アウト・イン・アウト」のラインが基本的ラインと言われるのか。それを説明できるドライバーは意外と少ない。理論的に解説すると「アウト・イン・アウト」のラインを走れば対象コーナーの旋回半径(R)を大きく取れる。
Rが大きくなるということは旋回スピードが速くなるということ。これはG(旋回加速度=グリップ力)=V(速度の二乗)/Rという公式で表わされるのだが、同じグリップ力(G)ならRが大きくなればV(速度)も大きく(速く)なることを示している。多くのドライバーは経験的にヘアピンコーナーのような小さなコーナーを旋回するときには減速し、大きなRの高速コーナーを抜けるときは高速で通過できることを知っているだろう。同じ理屈でひとつのコーナーのなかでも、なるべく大きなRとなるようにライン取りすれば高い速度で旋回できるわけだ。そのために「アウト・イン・アウト」のライン取りが有効であると言える。

マシンスペックの低かった時代に生まれたテクニック
一方でRを大きく取れば同じコーナーを抜けるのに長い距離を走ることになる。その分を差し引いても十分に速いことが確実であるなら「アウト・イン・アウト」が有効であることに疑う余地はない。ただ車速が速くなり走行距離が長くなればタイヤにかかる負担は大きくなる。仮に1周2kmのコースをアウト・イン・アウトに徹して走ると、2.3kmほどの走行距離に増えてしまうとすれば、周回数を多く走る耐久レースなどでは考慮しなければならない。

古くからアウト・イン・アウトが有効とされてきたのは、旧い時代のレーシングマシンはタイヤのグリップが低く、ブレーキ性能も貧弱でエンジンのドライバビリティも悪く一度速度を低下させてしまうとリカバリーに時間がかかったため、コーナーでの速度低下を嫌っていたと考えられる。
しかし現代のレーシングマシンはブレーキも強力、タイヤもタフでハイグリップだ。エンジンは低速からトルクフルでピックアップもいい。となるとわざわざ長い距離を走る必要がなくなってくる。加えて4輪駆動車ならトラクション性能も高く、一気に加速できる。むしろ車速を落として小さなRのラインを取り距離で稼ぐ走法も十分にコンペティティブであるといえるのだ。

そこでサーキットごと、コーナーごとに路面グリップの特性を掴み取ってライン取りを決めていくことが望ましくなった。以前のようにアウト・イン・アウトだけに固執していたら競争力を高められない。サーキット走行は奥が深いのだった。