1対1のギヤ比でダイレクトなステアリングフィールが得られる

レーシングカートとは遊園地にある「ゴーカート」とは一線を画し、本格的な4輪のレーシングテクニックが体験できるモータースポーツ最底辺にある乗り物だ。実際にレーシングカートからレーシングドライバーへとステップアップしたドライバーは多い。僕自身も15歳の時にレーシングカートを始め、現在にも通じるレースのイロハを多く学んだ一人だ。



多くはスチール製のフレームに単気筒(100ccが一般的)の空冷2サイクルエンジンを搭載し後輪2輪を駆動する。車体中央部にドライバー(カーターと呼ぶ)が搭乗し、左足にブレーキ、右足でアクセルを操作する。ステアリングはリンクで前輪に直結される1対1のギヤ比で、ダイレクトなステアリングフィールが得られるのだ。



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エンジンとフレームを含め全体重量としては60kgほどで、ドライバーが搭乗して120kg前後の総重量となる。このことからわかるようにドライバー自身がカートにとってもっとも重い積載物となり、乗車位置によりカート全体の重心位置が変化することになる。



フレームにはサスペンションがなく、ホイールがダイレクトに装着され、わずかなフレームのしなりがサスペンション機能として4輪のロードホールディングを左右するのだ。駆動輪は左右を1本のシャフトで繋がれていてデフロック状態。そのため内輪差を解消できず、スムースに旋回するには外輪を滑らさなければならない。それはパワースライド走行に繋がり、レーシングテクニックの基本ともなり得る。



【レーシングドライバーの答えは?】レーシングカートでクルマの運転は上達するか



前後に異サイズのスリックタイヤを装着し、前輪の動きはすぐ足もとにあり観察できる。ステアリングを切り込んだときにタイヤのスリップアングルがどれほど付き、それにより操舵力がどう変化するのかなども知ることができるのだ。そしてこれはカートだけではなく4輪へとステップアップしてからも役に立つわけだ。



フレームとタイヤ、エンジンだけのカートゆえセッティングの幅が少ないように思えるが、じつは工夫次第でさまざまなセッティングを試すことができる。



カートの習得で日常の運転にも余裕が生まれる!

まずは前後トレッドの調整。前輪はナックルのスピンドルシャフトにシムを入れトレッドを調整することが可能で、たくさんのシムを入れトレッド幅を広くしたりシムを抜いてナロートレッドに設定することもできる。後輪はスチールシャフトに取り付けるホイールハブの位置をずらすだけでトレッドを変更できる。こうして前後トレッド幅の組み合わせを変化させ、ハンドリングにどのように影響するのかを知ることができる。もちろんタイヤの空気圧も調整でき、高めたり低めたり、走行前後の変化を確かめたりと実際のレーシングカーと変わりない。



前輪はトー角の調整も可能だ。タイロッドと呼ばれるパーツの長さを調整することでトーインにしたりトーアウトにしたり調整できる。後輪はシャフトにダイレクトマウントなのでトーゼロで変更できない。また全輪のキャンバーやキャスター、トレール角などナックルを変更して調整することもある。



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フレームに取り付けられている前後のバンパーガードパイプはその取り付け強度を変えることでフレームの捻り剛性を変更することの代わりになる。取り付け用ラバーマウントの強度を変えて剛性を高めるのは実車のブッシュチューニングに相通じるのだ。



そうして究極的にはドライバーの乗車位置を前後や上下で変化させてみる。これで重心位置を大きく変えることができ、重心位置がハンドリングに与える影響の大きさを体験することができるのだ。



コースは1周数百メートル単位の所が多く、直線では約100km/h前後の速度が出せる。コース幅5mほどで着座位置が地上3cm以下と低いことから体感速度は200km/hを越える。2サイクル単気筒のエンジンはトランスミッションをもたないのでギヤ比を変更して加速フィールや最高速を調整。エンジンは1万回転以上回りレーシングイメージを大いに高めてくれるのだ。最近は4サイクルでセルモーターと遠心クラッチ付きのものも多くなっているが、基本的な動的特性は変わらない。



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日本でカーターからプロのトップレーサーへと転身したのは鈴木利男さんが最初ではないだろうか。その次に続きF1の表彰台にまで登り詰めたのが鈴木亜久里さんだ。その次の世代がボク。以降、高木虎之介選手や本山哲選手など枚挙にいとまがない。海外も同様でF1パイロットでカートを経験せずにステップアップを果たしたドライバーを探す事の方が難しいだろう。



このようにレーシングカートはレーサーを志すなら必須のアイテムであり、早い人は3歳ですでにキッズカートを乗りこなす。早ければいいわけでなく重要なのは速くなること。



カートでレーシングテクニックやセットアップを学び、スピンやコースアウトなど危機回避を学べば日常の運転にも余裕が生まれる。機会があれば是非レーシングカートを体験してみてほしい。

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