「カッコいい形」であるほどCd値は小さくなる
クルマの空気抵抗は、空気の密度/クルマの速度の2乗/前面投影面積(正面から見たときの車体の面積)、そして空気抵抗係数をかけることで求められる。これらのうち空気抵抗係数が、いわゆるCd値と呼ばれるものだ。Cd値は、物の形によって決まる数値である。
簡単にいえば、空気の流れを乱さない格好いい形であればCd値は小さくなる。例を挙げると、正方形の板は1.1で、かなり大きい。窓から手を出すとかなりの風の影響を受けるのに似ている。凸型の半球形は、0.34とされる。クルマの形は概ね凸型の半球に近い。
しかし、Cd値が小さいだけで空気抵抗が少ないとはいえない。クルマの速度が高くなれば、その2乗に比例して空気抵抗は大きくなる。あるいは、Cd値が小さく形のよいクルマであっても、前面投影面積に関わる大柄な車体だと空気抵抗は増える。それでも、標高の高いところへ行けば空気が薄くなる(空気密度が小さくなる)ので、空気抵抗は小さくなる。

以上のように、クルマの空気抵抗は、冒頭に示したようにさまざまな要素が関係して決まる。そのなかで、Cd値はどのような性能に関わるのだろうか?
速く走れるのみならず燃費や静粛性も向上!
Cd値が小さいほど、最高速を高められる。ただし、最高速の難しいところは、速度が高くなるにつれ車体を浮き上がらせようとする揚力が増えていくので、タイヤが路面を十分にとらえられなくなれば危険だ。

そこで注目されたのが、車体の床下の形状だ。クルマは車体と路面の間の空気の流れも空気抵抗に影響するので、空中を飛ぶ飛行機や鳥、海を駆ける船や水中を泳ぐ魚などとは違った要素が加わる。
車体の床下を滑らかにすることも空気抵抗の低減に利く。レーシングカーなどで使われる床下の翼断面(ウイング)形状は、車体表面にスポイラーやウイングを装着しなくても、あるいはそれらを小さなものにしてCd値を小さくしながら、車体が浮き上がるのを防いで高速でタイヤを接地させることに役立つ、一石二鳥の効果をもたらす。

次に、Cd値が小さく空気抵抗が減れば、走るためのエネルギー消費が少なくなるので、燃費がよくなる。速度が明らかに燃費に影響するのは時速60km以上からになると思われ、高速道路の走行に限らず、郊外のすいた道を走る機会が多い場合にも、Cd値の小さなクルマは燃費向上に効果をもたらすだろう。
快適性の面でもCd値は効果がある。主に風切り音だ。車体表面が滑らかなほど空気の流れを乱しにくく、風切り音を生じにくくして静かな室内環境が得られる。

変わった空気抵抗低減策として、ヴォルテックスジェネレーターというものがある。車体など物の表面は空気の粘着力で流れが遅く、表面から離れるほど流れが速くなるので、速度差による渦が発生し、空気抵抗を増やす場合がある。そこで、あえて表面の空気を剥離させる小さな突起を設け、周りの空気の速さと同じように流すことで空気抵抗を下げる対策だ。たとえばドアミラーの外側に小さな出っ張りを設けたのがヴォルテックスジェネレーターで、空気の流れを調整する追加策である。これによってCd値を下げることができる。
