スポーツタイプの国産現行モデルでMRを採用するNSXとS660
自動車のパッケージングレイアウトにはさまざまな形態がある。最近の乗用車はフロントにエンジンを横置き搭載し、前輪2輪を駆動するFFパッケージが主流となっている。FFレイアウトは実用車からスポーツカーカテゴリーまで幅広く採用されるが、それは走りの理想を追求した結果とは言えない。
もし高性能車で理想的なパッケージングを選ぶとしたら、僕なら迷わずMR(ミッドシップエンジンレイアウト)を選択するだろう。だが、ひと口にミッドシップといっても、話はそれほど簡単ではない。ミッドシップの定義としては前輪と後輪のアクスル間にエンジンを搭載していることが基本だが、その搭載方法にもこだわるべき問題が含まれているのだ。

国産車のミッドシップモデルをみてみると、現行モデルならホンダNSXとS660の2種類がある。NSXは1990年に登場した初代からずっとミッドシップレイアウトを継承していて、ミッドシップに対するこだわりが感じられるのだ。だがレーシングドライバーとして本物のミッドシップレイアウトを追求したレーシングカーの性能を知っていると、初代NSXのレイアウトには不満を感じる部分もあるのだ。

分類的にはたしかにNSXはミッドシップの定義に合っていてMRに分類される。だが性能追求の観点からは幾つかの問題点がある。その第一はエンジンを横置きに搭載していることだ。ホンダの場合は初代NSXを登場させるにあたり、FFパッケージの高級セダン・レジェンドに搭載されていたエンジンとトランスミッションといったパワートレインを継承させた。専用のエンジンやトランスミッションを開発したら大幅にコストがかかり、欧州のスーパーカー並みの価格になってしまっただろう。

およそ1000万円という価格設定は国産車としては異例ともいえる高額な設定だったが、フェラーリやランボルギーニといった欧州のミッドシップスーパーカーと比べたら半値以下の価格でお買い得だったわけだ。

だがそれらを実際にドライブすると、ミッドシップ=高性能というイメージを大きく崩された。コーナリング特性はアンダーステアからオーバーステアへの変化が大きく、安定して走らせるのが難しい。こうした廉価版ミッドシップを走らせ「ミッドシップは運転が難しい」と印象付けられたドライバーは実際多い。
幸いにも僕はミッドシップのフォーミュラカーに乗るほうが先で、その次元の高さ、限界の高さ、コントロール性の良さを体感していたから廉価版ミッドシップの難特性をすぐに見破ることができた。
搭載位置だけでなく搭載バランスも運動性能には重要なポイント
FFのパワートレインを流用した場合、エンジンの横にトランスミッションが横付けされている。それをそのままシャシーに搭載したら前後の重量バランスはミッドシップらしくなるが、左右の重量バランスはアンバランスになってしまう。またエンジンの下にオイルパンを抱えたまま搭載しているとエンジンの搭載位置が高くなり、重心が高くなってしまう。ドライブシャフトの取り出しがミッションケースから出される場合、パワートレインの搭載位置はリヤアクスルのほぼ真上となり、ミッドシップというよりはRR(リヤエンジン)レイアウトに近い特性となってしまうのだ。
エンジンを横置きのままミッドシップとして成立させるのは難しく、フェラーリやランボルギーニにも搭載例はあったが性能面では大成していない。

僕がこだわるミッドシップとはエンジンを縦置きすること。
じつはスバルの水平対向エンジンとトランスミッションをミッドシップに適用すると、かなり理想的なミッドシップ用パワートレインになる。ポルシェのボクスター/ケイマンに近いパッケージングが可能なのだ。レーシングドライバーとして本格的なレーシングマシンであるFJ1600マシンをドライブしたが、このマシンに採用していたのは当時のスバルのパワートレインそのままだった。

現行モデルで理想的なミッドシップレイアウトを採用しているといえるのはポルシェ・ボクスター/ケイマン、ランボルギーニ・ウラカン/アヴェンタドール、フェラーリ488などだが、それらはどれも抜群のハンドリングで高い限界特性とコントロール性を備え、ハイスピードドライビングの難しさを感じさせない。

前後のタイヤサイズを適切に設定し、高いボディ剛性と軽量化を図ることも重要だ。そうしてミッドシップを追求していけば、かなり高額になってしまうのは仕方ないことだ。そういう意味でポルシェ・ボクスター/ケイマンは極めてお手頃な本格的ミッドシップモデルだといえるだろう。
本物のミッドシップを知り「ミッドシップ最強」であることを正しく理解してもらいたい。