もともとアメリカでピックアップトラックは商業車だった
アメ車といえば、ピックアップトラック。フォードならF150、GMシボレーならばシルバラード、さらには旧クライスラーの流れを汲むラム・トラック。こうしたフルサイズの他に、ワンサイズ小さいミッドサイズピックアップトラックも根強い人気がある。
販売実数を見ると、現在のアメリカ市場の約6割がライトトラックに分類され、残り約4割がカー(乗用車)になる。ライトトラックとは、商業用の大型トラックに対する使われる名称だ。ライトトラックには、ピックアップトラックとSUVが含まれる。
そもそもアメリカでのピックアップトラックは、農業や建築・土木、さらに商店などを営む人のための商業車だった。
一方で、公共交通機関が未発達で、クルマが日常の足であるアメリカでは、さまざまな用途に使えて、なおかつ廉価で長持ちするクルマに対する潜在的な需要があった。
そうしたなかで、たとえばカリフォルニア州など都会な部分とカントリーな雰囲気が併存する社会環境のなかで、一部の若者が「ピックアップトラックは使い勝手が良い」という発想を持った。また、オフローダーに改造することで、自分好みのクルマに仕上げるというトレンドも生まれた。
そうした話は80年代までのことで、90年代に入ると時代の流れが大きく変わった。
90年代にヤンエグの間でピックアップトラックが流行
ヤングエグゼクティブ、訳してヤンエグ。すっかり死語になってしまったが、日本のバブル期によく聞かれた。そんなアメリカのヤンエグの間で90年代に入ってから、ピックアップトラックやそれをベースとしたSUVを乗用化することが流行り出した。「できる男は、仕事のオンオフを上手く切り替える」といった感じのイメージだ。
SUVでは、フォード「エクスプローラー」と、その母体であるミッドサイズピックアップトラックの「レンジャー」、またシボレー「タホ」や「サバーバン」と、その母体である「シルバラード」が一気に売れた。こうしたトレンドに対して、若者たちも敏感に反応した。

メーカーにとっても、ピックアップトラックは、梯子型(ラダー)フレーム構造でエンジンはオーソドックスなタイプが主流のため、製造に対する投資が少なく、またディーラーにとって利幅が大きい商材として重宝された。また、SUVが売れることで、ピックアップトラックの原価も併せて下がり、結果としてメーカーからディーラーへの販売奨励金(インセンティブ)も増えたことで、若者にとってもリーズナブルになったともいえる。
さらには、ピックアップトラックは再販価格(リセールバリュー)が極めて高く、7年で10万マイル(16万km)走ったシルバラードが、新車価格の3割~4割で下取られることもある。
結局、アメリカ人にとってピックアップトラックとは、日常生活のなかで、使う面でも資産の面でも、とても効率的なクルマなのだ。