本来の発音ではニトロでなく「ナイトロ」が正解
クルマが主役といえる人気映画シリーズ『ワイルドスピード(原題:The Fast and the Furious)』などで「ニトロエンジン」という言葉を見かけ、印象に残っているというクルマ好きは少なくないだろう。ニトロという響きから連想するのは、おそらくダイナマイトの原材料でもあるニトログリセリンで、いかにも爆発的なパワーアップを予感させることも印象に残る言葉となっている。
とはいえ、クルマのパワーアップに用いるニトロというのは、「ナイトラス・オキサイド(亜酸化窒素)」のことで、化学式でいうと「N2O」であり、日本語では笑気ガスと呼ばれるもの。
さて、その「ナイトロ」を利用することでエンジンがパワーアップする仕組みは、冷却効果と酸素密度のアップという2点に絞ることができる。亜酸化窒素を車載する際には高圧タンクに液化した状態で充填する。手法としてはいくつかあるが、ナイトロをインテークマニホールドに噴射するというのが基本だ。
圧縮され、液体となった物質が気化する際には気化熱によって温度を一気に下げる。そのため吸気温度が下がる。吸気温度を下げると密度が上がるため、同じ容積内に含まれる酸素量が多くなり、それだけ多くのガソリンを燃焼させることができる。すなわちパワーアップするというわけだ。
ナイトロシステム搭載の市販車が生まれる可能性はゼロに近い
さらに亜酸化窒素はエンジンに吸い込まれると窒素と酸素に分離する。
もちろん、そのためには酸素を増量したのに見合うだけのガソリンを供給する必要がある。つまり、ノーマルエンジンに「ナイトロ噴射システム」を追加しただけでは、期待するほどのパワーアップもできず、かえってエンジンを壊してしまう原因となる。ナイトロシステムを装着するのであれば、適切な燃料増量チューニングをセットで施す必要があるのだ。

さらにナイトロシステムで使用する液化した亜酸化窒素は適宜、充填する必要がある。装着すれば終わりではないのだ。しかも、亜酸化窒素の充填コストはタンクのサイズにもよるが、おおよそのイメージとして1万円~3万円は必要となる。
パワーアップの代償としてランニングコストは上がってしまう。もっともナイトロシステムを使わずにパワーアップしようと思うと、さらにチューニングコストが必要となることが多く、亜酸化窒素の充填を考慮してもコストパフォーマンスが高いともいえる。

さらに映画の中では、走行前にガスを放出する「パージバルブ」と呼ばれるガス抜きが必要となるが、亜酸化窒素は温室効果ガスの一種であり、環境問題からCO2排出量を減らそうという時代において、こうした行為は少なくともメーカーが行なうことは許さないだろう。
というわけで、ランニングコストや耐久性、環境負荷を考えるとナイトロシステムを市販車に採用するというのは現実的ではない。