確かに「ロック」はされるが「簡素」な機構
いまや日本では乗用車の99%近くがAT車になっていて、MTは超少数派だ。世界的にみても、日本はAT大国となっている。
ところで、MTであれば駐車時にはパーキングブレーキをしっかりとかける人がほとんどだろうが、ATではPレンジに入れるだけで、パーキングブレーキは使わないというユーザーも少なくないという。
たしかに「Pレンジというのはパーキングの意味なのだから、わざわざブレーキをかける必要はない」と言いたくなる気持ちはわからないでもないが、実際にはPレンジというのは駐車時に使うポジションという意味であって、パーキングブレーキとの併用を前提としている。
ATをPレンジに入れるとガシャンと機械的に噛み合う感触があるので、かなりしっかりとギヤで固定しているように思えるかもしれないが、じつは一か所の爪で噛み合せているだけで、それほど強度はなかったりする。クルマを新車時から乗っているとPレンジでの遊び(クルマが動く量)が年々大きくなっているのを感じたことがあるだろう。それほどしっかりとは固定されていない。

ATの設計によるが、走行中に間違ってPレンジに入れたときに爪部分を破壊したり、爪を押さえるスプリングによって極低速にならないと爪がはまらないようにしていたりすることが多い。いきなりロックするとエンジンが壊れたり、車両がスピンしたりと危険なため、その対策としてヒューズ的な機構が備わっているのだ。
ロック機構が外れて動き出す可能性は十分にある!
つまり、パーキングブレーキを使わずにPレンジだけで止めていると、なんらかの衝撃が加わってロック機構が外れてしまったときにクルマが動き出す可能性がある。前述したように極低速にならないと爪がはまらないような設計の場合、一定速度以上になると爪が外れてしまうこともあるからだ。逆に、しっかりとパーキングブレーキをかけておけばPレンジの爪が外れてもクルマはそう簡単には動かない。
そもそもMT車ではニュートラル状態にしておいてパーキングブレーキだけでクルマを止めているユーザーも多いだろうが、それでも動いてしまうことはほとんどない。それくらいパーキングブレーキをしっかりかけておけばクルマを止める力は強い。

というわけで、パーキングブレーキを使わないでいると、駐車場で他のクルマにぶつけられた勢いでPレンジの爪が外れてクルマが動き出してしまったりすることが考えられる。また、タワーパーキングのパレットに乗っている状態で大きな地震で揺さぶられた勢いで爪が外れてしまうことも考えられる。そうなると周囲にぶつかったり、最悪のケースでは落下したりしてしまうことも考えられる。
パーキングブレーキをかけるのは手間がかかると言いたい気持ちはわかるが、ATのPレンジにはそれほど強固なものではないということを知れば、パーキングブレーキをかけないというのはあり得ないと理解できるだろう。ATでPレンジに入れて、パーキングブレーキをかけないのは、MT車で1速もしくはリバースギアに入れてパーキングブレーキをかけないのと同じくらいの状態といえるからだ。