構造上ディスクよりも制動力を引き出しやすい

自動車教習所では「エンジンブレーキってどのボタンで使うんですか?」という質問があるという都市伝説的な笑い話もあるが、ブレーキというのはクルマにとって重要な機能である一方で、ユーザーからは見えづらいものとなっている。



エンジンブレーキはエンジンのポンピングロスを利用して減速させるもので、ハイブリッドカーや電気自動車で耳にする「回生ブレーキ」というのは駆動モーターで発電することによって減速する機能を指している。そして、これはいずれも目に見えないブレーキだ。



目で見ることができるメカニカルブレーキと呼ばれるのは、ホイールのなかにある。乗用車に使われるブレーキシステムとしては、ディスク型とドラム型の大きくふたつに分類できる。



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ディスク型は金属などの円盤を摩擦材(ブレーキパッド)で挟むことで減速する。一方、ドラム型というのは金属製の筒状のパーツの内側からシューと呼ばれる摩擦材を押し付けることで減速させるという仕組み。いずれも運動エネルギーを熱エネルギーに変換するという基本の部分では、同じ方式に分類できるブレーキシステムだ。



じつはディスクよりも制動力が高いドラムブレーキ! 大型乗用車に採用されないワケ



それぞれに特徴があるが、おそらく多くのユーザーが意外と思うのは「一発の利きに関してはドラム型ブレーキのほうが強力」という点だろう。ブレーキパッドよりブレーキシューのほうが接触面積を大きくとれる上に、回転によって摩擦材と食い込むセルフサーボ効果もあるため、同じスペースに収めるブレーキシステムとしては制動力を大きくしやすい。そうした特徴もあってドラム型ブレーキはパーキングブレーキとして使われることも多い。



一方、ディスク型ブレーキの特徴は放熱性に優れていることだ。ドラム型はその構造から熱がこもり気味になってしまうが、ディスク型は温度を下げやすい。そのため連続したブレーキングにより熱が溜まってしまい、ブレーキが利きづらくなるフェード現象が起きにくいブレーキシステムとされている。さらにベンチレーテッドディスクといってより放熱性に優れたディスク(ローターともいう)を使うことでハードブレーキングを繰り返しても安定した制動力を発揮することが期待できるのだ。



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トラックやバスなどはこれまでドラムが主流だった

では、乗用車においては小型車ではフロントをディスク型、リヤをドラム型としていることが多く、中大型の乗用車になると四輪ディスク型ブレーキとして、パーキングブレーキだけドラム型としているケース(ドラム・イン・ディスクと呼ぶ)が増えてくる理由は何だろうか。



はっきりいえば、耐フェード性も含めて求められる制動力とコストバランスから決まってくる。あくまで一般論だが、同サイズのブレーキであればドラム型のほうがコストを抑えることができる。コンパクトカーでは前輪駆動が多く、フロントのブレーキに対する負担が大きい傾向にあるため、フロントだけ耐フェード性に有利なディスク型として、リヤはむしろパーキングブレーキとしての機能を考えドラム型とするのが妥当となる。



一方で、中大型の乗用車になると車重が増え、ブレーキへの負担も大きくなるため、放熱性に優れたディスク型を四輪に採用することが機能として適切になる。もちろん、大径アルミホイールを装着しているようなクルマになると、ドラム型ブレーキではホイールの中がスカスカに見えて、いかにも寂しいと感じるのも正直なところだ。商品性として四輪ディスクのほうが高そうに見えるという面もなくはないだろう。サーキットを走るわけではなく、市街地を走っているだけであれば、必要な制動力については放熱性を含めて考えてもドラム型でも十分に事足りるというクルマは少なくないはずだ。



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なぜなら、もっと重量級で合理性の塊といえるバス・トラックにおいてはドラム型ブレーキが主流なのだ。そもそも制動力においてはドラム型が有利なのだから、重量級だからディスク型にしないといけないというわけではない(いったんフェードのことは忘れるとして)。さらにドラム型にはローコストなだけでなく、長寿命というメリットもある。そうなるとコスト最優先といえる働くクルマとしてはドラム型にするインセンティブが高くなるのだ。



もっとも、最近では大型トラックでもディスク型ブレーキの採用例がじわじわと増えている。小型乗用車でもESC(横滑り防止装置)の義務化により、後輪ブレーキへの負担が大きくなり、その放熱性が重視されるようになっている。そうした背景もあってディスク型ブレーキが増えているという印象もある。たとえば現行フィットは1.5リッタークラスのコンパクトカーながら全車四輪ディスクのブレーキシステムを採用していたりするのだ。



じつはディスクよりも制動力が高いドラムブレーキ! 大型乗用車に採用されないワケ

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